プロローグ
「まもなくステーションに到着します。お客様はシートベルトをしめて、ご自分の席でお待ちください」
三十人乗りの小さなバス内にアナウンスが流れた。月野木ラジオは言われた通り、シートベルトをしめて、衝撃にそなえた。夏休みを利用した一人旅。小学四年生のラジオにとっては大冒険だった。
バスの窓に映し出されていた外の映像が消えると、バスの中に強い衝撃が走った。見えない力がラジオを座席に押し付ける。ラジオはペンダントの先についている淡く銀色に光る石を握りしめた。こうすると、不思議と心が落ち着く。ラジオの母さんの形見だった。
ステーションに到着したアナウンスが流れると、ラジオはシートベルトを外し、席を立った。小さなタラップを降り、久しぶりの地面に足をつける。
ステーションは巨大なドームになっていた。外の景色が、モニターになっている壁一面に映し出されている。
「地球って、外から見るときれいなんだな」
ラジオは遠くに見えるガラス玉のような地球を見てつぶやいた。
ここはステーション・ムーン。月の上にある駅。ラジオの初めての一人旅は、地球から月への旅行だった。