願い事
『あの人とまた、会えますように。』
私が、こう願うようになったのはほんのひと月前。
この頃戦争なんかで、自分の故郷にも帰ることができず、無力である私は、生きている意味などないと考えておりました。
「死にたい」
川に足先を付け、私は呟きました。少し間があき、後ろから声が致しました。こんなところに人は居るまいと考えていたため、私は少し驚きました。
『死にたいなんて言うんじゃありません。』
とても暖かく、優しい声色。思わず振り返る程でした。
「貴方は…?」
目の前には死人のようと言っては失礼であると承知していますが、そのぐらい真っ白な肌を持ち、白に映えるようにして綺麗な黒色の瞳を持っている青年が居りました。
『私は、ただの農民でございます。』
再び川に目を移しますと、川に反射しているはずの青年の顔がありませんでした。慌てて振り返ると、もうそこには人の気配なんかありませんでした。私は、不思議に思いましたが、あの人は私の光だと思うようになったのです。私の灰色であった心を、真っ赤に染めてくださったあの人に会うために私は生きていこう。私は、心に決めたのであります。
こんなことを思い出しました。私の故郷では、「流れ星に願い事を行うと、必ず叶う。」という言い伝えがあるのです。思い出したからには実行しなければなりません。私には天文学などの知識はもちろんありません。しかしながら、必死に流れ星を探しました。そして一筋の光が見えたのです。いえ、一筋ではありませんでした。流星群でしょうか、炎のように赤い幾つもの光が夜空に降っておりました。周りにいる人の声など気にも止めず、私は必死で願いました。
『あの人とまた、会えますように。』
強く、強く願い続けました。
気がつきますと、目の前にはあの日の青年。
『嗚呼。やっと会えたのですね。
何故貴方はそんな顔をしているのでしょうか?
彼女が願いを込めたのは本当に、流れ星であったのでしょうか。いえ、あの幾つもの光は、敵国による空襲の雨でございました。ここまで言えば皆様もわかるでしょう。彼女と青年が再開したのは、あの世ということになるのです。