04 追撃者たち
ラバキア平野北部 ラバキア街道にほど近い森の奥
帝暦1936年5月7日 15:30
その頃、林道を外れた森のやや奥。
暗がりから去りゆく戦車を見つめる一団があった。
「おかしい、確かに直撃したはずなのに?」
「公国の戦車はバケモノか!?」
着古した迷彩服、巧みに枝葉を生やし擬装した鉄兜。
ゼルコヴァ共和国軍の一隊である。
森に紛れた彼女たちは、動き出した戦車を呆然と見送っていた。
「どうしたのでしょう、ぜんぜん元気に動いてますね……ツダマ上級軍曹?」
茂みの中で、指揮官と思しき女性士官が、配下の上級軍曹に尋ねる。
「会……あ、いや隊長、着弾は私もたしかに確認しました。弾頭の不発でもありません」
ツダマ上級軍曹といわれた女性下士官が答える。
「ふむ、どうやら予想以上の重装甲ってことですよね。となると攻め方を考えないといけません……ところで、虎の子の対戦車ロケットって、さっきので最後でしょうか?」
「はい、残念ながら」
「そうですか……後は……肉薄攻撃……あるのみ……」
この一群の指揮官、ミュコセキー中尉の声がだんだん小さくなっていく。
その表情が静かに変貌していくのをリイナ・ツダマ上級軍曹は見逃さなかった。
「あ、隊長、隊長。まだ手はあります」
日頃、部隊でも沈着を持って鳴るリイナが珍しくあわてるそぶりを見せた。
「ちょっと、ちょうっとだけ待ってくださいね。ヒルカ!ヒルカモタリ兵長!」
リイナが小さく叫ぶと、やけに小柄な少女が、奥の草むらからやおら姿を現した。
「あいよ、軍曹どん」
のそりとミュコセキーたちの前に腰を下ろす。
「お呼びかね?」
小動物を思わせるくりくりした瞳が、ミュコセキーとリイナを交互に見あげた。
肩に抱えた身長の倍、と言っては言いすぎだが、かなりの長さの狙撃銃を抱えている。もっとも兵長は、それを軽々と担いでいるように見える。
「お前、それで狙えるか?さっきのアレの覗視孔」
彼女の持つ、7.62×54ミリ、スプリンセント狙撃銃を指差しリイナが尋ねると、
「あ?だれに物言うてるが?」
ヒルカモタリと呼ばれた兵長は一瞬気色ばんだが、すぐに酷薄そうな唇を笑顔の形にゆがませた。
「ヒルカに任せときちゅうに」
「だそうです、隊長」
リイナは上官に報告する。
「なるほど。確かにそこであれば、攻撃可能な箇所ですね。わかりました」
ヒルカモタリ兵長の磨き上げられた狙撃銃を見てミュコセキーはひとり頷き、リイナも後ろで力強く頷いた。
「兵長、では後ほどお声がけしますんで、それまで待機していてください。何か質問は?」
「一つだけいいかね、隊長さん」
「なんでしょう?」
「覗視孔って、何ぞね?」