29 降車
ラバキア平野北部 ラバキア街道脇の雑木林
帝暦1936年5月8日 03:40
「ここです、停めてください」
ミュコセキー中尉が指示するや、輸送トラックは夜道で停車する。
先ほど話し合った街道の湾曲点、その入り口に至ったのだ。
「上級軍曹、ここから徒歩行軍です」
先ほどまでとは異なり、トラックの荷台から降りる際には完全装備でガチャガチャ音を立てている。彼女たちにとってそれは安心という名の雑音であった。
「上級軍曹、別動隊の指揮をお任せします。フジョ軍曹とトモスマ兵長の組をつけましょう。それとイリヤ兵長、貴官が足止めの要です。上級軍曹から離れぬように」
モレナ・イリヤ兵長は背中に背負った対戦車ロケットと弾頭の重みを感じながら、弱弱しく手を挙げ中尉に応える。
「本隊は小官とマッダイ軍曹、マサキ軍曹、マヌアー兵長。ヒルカモタリ軍曹とオゾンノ兵長。ウドリ兵長とコーサ兵長」
中尉が手早く分担をきめる。
「まっとくれ隊長どん」
ヒルカモタリだ。
「あしは夜目が効くでな、待伏せ隊の方が向いてるぞな」
「こら、ヒルカ。中尉殿がお決めになったんだ、おとなしく従え」
リイナ・ツダマ上級軍曹がたしなめるが、ヒルカモタリ軍曹は大きな瞳をくりくりさせながら、ミュコセキー中尉を見つめている、
中尉もそれほどこだわりがなかったのか、
「わかりました。それではフジョ軍曹の組と入れ替えましょう」
あっさり了承する。
「あんがとさん、隊長どん」
こうして部隊が入れ替わった。
「まずは追跡隊と合流を目指すように。それから、くれぐれもはぐれないよう。夜道です。各自カンテラ着灯の上、距離はそれぞれの灯りの届く範囲で移動してください。それでは」
進発、と中尉が号令をかける。
「では、お先に」
リイナが軽く敬礼し、ヒルカモタリたちを引き連れ、森の中に分け入っていった。
レイア・オゾンノ兵長は、またも自分が絶望的になるのを感じた。
一番危険なのは戦端を開く待伏せ班に決まっている。相方の余計な一言で、天国への道に一歩近づいた気がする。自分の不運を呪うが、当の相方は待伏せで手柄を立てる気満々なのか、軽い足取りでひょいひょい木の根や倒木をまたいでいる。全く、とんでもないのとパートナーになってしまった。
「フジョさん、ラッキーでしたね。待伏せはずれましたよ!」
本隊に回されたキラコは喜びを隠しきれない。
「後はもうあれですよ、適当にドンパチやってお茶濁しちゃえば生き残れますよ!」
カーリン・フジョ軍曹はそれには答えず、黙ってトラックに乗り込んだ。
「フジョさん、絶対に生き残りましょうね!」
キラコの言葉に、カーリンは初めてこくりと頷いた。




