21 補給処にて
ラバキア平野北部 ゼルコヴァ共和国第103補給処
帝暦1936年5月7日 19:20
ゼルコヴァ共和国軍第十一師団第三補給大隊第103補給処に所属する、ウェリナ・ラムナ少尉は退屈していた。
戦闘はどこか遠くで行われているらしい。
午前中に一度、戦車小隊がやってきて、弾薬と燃料の補給を求められたが、情報らしい情報はもらえず、戦局の風向きは全く見えてこない。
まったく勝っているんだか。負けているんだか。まあこんな味方の勢力圏奥深くまでは、戦場の微風すら漂ってこないが、安全なことだけは保障できた。
補給部隊に配属されたのは、運がよかったかも。
私はツいてる。ウェリナはいつもそう感じている。
周囲の森は深く、一応は味方の勢力圏ということになっている。
しばらくは何事もなさそうだな、などと思っていると、森の中からガサゴソ物音がするのだった。
「誰何!?」
ウェリナは森の中からこつ然と現れた一隊に警戒したが、彼らの軍装に示されたゼルコヴァの徽章を見て安堵した。
「中尉殿!」
ラムナ少尉は先頭の見知らぬ士官に敬礼した。中尉は答礼し、ウェリナに話しかけた。
「師団命令です。補給物資をいただきに上がりました」
「了解であります。命令書を拝見いたします」
中尉は一瞬首を傾げると、おもむろに腰のホルスターから拳銃を引き抜き、ウェリナ・ラムナ少尉の白い首筋に押し当てた。
「非常時です。これが命令書です」
周りを見渡すと、仲間の補給隊員たちは次々に武装解除され、見覚えのない何人かの兵士がそこら中から武器や弾薬を運び出し、あろうことか、補給処配備のトラックに続々と積み込んでいるではないか。
これまた見覚えのない上級軍曹がウェリナの前に現れ報告する。
「中尉、搬出できそうなものはすべて持ち出しました」
「よろしい。では撤収しましょう。少尉?」
中尉はウェリナに拳銃を突き付けたまま笑顔を見せた。
「今見たことはすべて忘れてください。車と少々の荷物をいただきましたが、員数合わせはゼルコヴァ兵ならお手のものでしょう、少尉。上への報告はうまくやることですね」
ウェリナ・ラムナ少尉は首元に冷たい金属を感じながら、小さく二度うなづくのがやっとだった。
なんてツいてないんだろう……




