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Wandernder Panzer ~戦場の少女たち~  作者: 出雲 笛筒
第1章 樹海にて
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02 迷い子

 

ラバキア平野北部 ラバキア街道にほど近い森の中

  帝紀1936年5月7日 15:15


 46式攻城歩兵戦車の内部。おおまかにいうと、車体基部と砲塔部の二層構造になっている。キャタピラのついた長方形を横だおしにして、やや前のめりに砲塔が乗っかっているかたちだ。

 公国最大級の大型戦車、と謳うだけのことはあって、二階部分、つまり戦車の砲塔の内部は、小型乗用車並のスペースがあった。

 ユーキの定位置である車長席から砲身を挟み、隣が砲撃手席、背中合わせの通信手席が逆三角形に並び、それぞれアシュカ、モモの3名が席を占めている。

 この3席は天井からぶら下がるようにすえつけてあるので、砲塔の旋回と連動して360度の回転が可能なはずであった。

 足元に見下ろせる一階部分の前方には、操縦手席と装填手席が並んでいる。

 その一つ、前方機銃座を兼ねる装填手席は空だったが、すぐにその主が戻ってきた。

「少尉さん、とりあえず駆動系は応急処置しました。すぐにでもうごけます」

 べミリア・タナワ軍曹が一階にあたる戦車の床面からユーキを見上げていた。

 手すきのべミリアに、車内ダメージの確認と応急処置を依頼していたのをユーキは思い出した。

「全く面目もありません直撃食らうとは……とりあえず動けますが、砲塔は中からじゃ修理むりっぽいです……」

 右手にはハンマーを握りしめ、左手はグリースで真っ黒だ。その手で顔を拭ったのだろうか、頬のあたりも何やら黒く汚れている。

「ああ、べミリアさん。別に軍曹さんのせいじゃないし、気にしないで。ダメージったって当たり所わるかっただけだかんね。……あ、あれ?べミリアさんもしかして怒ってる?」

「いえ、もとからこういう顔ですから。しかしまさか衝撃で電気モータやられるなんて……車体はムチャクチャ頑丈なのにそこは盲点でした」

 ふっくらした顔から発せられる、やや平坦な声からは、これがそこそこの緊急事態ということは連想しがたかったが、敵の対戦車ロケットで砲塔基部をやられたため、彼女らの乗車を戦車たらしめている、主砲、44口径120ミリ滑腔砲の旋廻ができなくなったのは、この戦車の戦術的価値を下げているのは明らかだった。

 圧倒的な破壊力を誇る最新機動打撃兵器も、いまのところちょっと頑丈な砲台に過ぎない。

「ふん、帰ったら設計局にクレーム入れないとね。で、今生きてるのは?」

「はあ、操縦系はエンジン含め問題ないです。側砲、後背砲ともに生きてます、臼砲も操作可能です」

「お、それは朗報だね!」

「はい、そこはさすが公国一の重装甲。ただやっぱり砲塔旋廻できないとなると……」

「うーん、まあ砲撃に関しては車体ごとまわしちゃえばいいし、俯角仰角も油圧でナントカなるか。それよりとりあえずさ、居場所つかまないと。進むも引くもどっち行っていいかもわからないもんねえ。で……」

 ユーキは階下のもう一つの座席に目をやる。


「戦車兵は小兵こひょうを尊ぶ」という公国軍戦車部隊の伝統に照らせば、操縦席に座る身長152センチのミャオ・ボヤック一等兵ほど、それに適う兵士はいなかっただろう。 

彼女はその小さな身体をドライバーズシートにすっぽりと埋めながら、目の前に軍用地図をひろげ、縦にしたり、あるいは横にしてみたり、ひとしきり格闘している様子。なんとも頼りない姿だったが、彼女がこの戦車の操縦手だ。

「ミャオ!ボヤック一等兵!現在位置!確認できてんだっけ?」

 ユーキは丁度アシュカの足元にいるミャオを見下ろしながら叫んだ。

「いまやってます!ってかもうちょっと待ってください!」

 上官に声をかけられ、さらにパニクってしまうミャオ。膝の上の地図と格闘しながら、赤鉛筆でゴチャゴチャ書き込んでいる。地図はあらゆる種類の直線や曲線で彩られ、苦戦の跡が上からでもたやすく見て取れるが、ユーキにとっては失望を追認する模様でしかなかった。

「って、ミャオ!さっき問題ないって余裕かましてたじゃん!言ったでしょあんたドライバーなんだから現在位置だけはちゃんとしといてって!」

「あわわ、そんなこといったって、さっきまで、ホントさっきまで大丈夫だったんですよ!ってかそもそもボヤック地図苦手だし、運転に集中してちゃってたら位置なんかわかりませんよ!」

「ああもう、わかったからわめかないで!こまっちゃったなあ、まさか戦場で迷子になるとは……」

「って、車長さん!シャチョーさんだって場所わかんないんじゃないですか!?」

「いや、ち……そんなわけないじゃない。ちょっと貸しなさいよ」

 ミャオからひったくるように地図を取り上げたユーキだったが、それを縦に横にくるくる回すばかりで、ミャオとさして変わらない様子だ。

「絶対わかってない!」

 思わず非難の声をあげるミャオ。

「ちょっとちょっとお二人さん、何揉めてんのよ」

 不意に声がしたので、ユーキとミャオは一斉に声の方を振り向いた。



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