19 追跡任務
ラバキア平野北部 ラバキア街道沿いの雑木林の中
帝暦1936年5月7日 20:20
ミュコセキー中尉の命令で部隊は二つに分けられた。
ヒルカモタリが執拗に追走要員への参加をせがみわめきたてたが、中尉はあっさり却下した。
戦車を追跡する班はホノタラム軍曹をリーダーに、ユモイ・卜ケタ軍曹とナエリ・ウェノイ軍曹の3名が充てられた。
「後を任せます。ホノタラム軍曹。通信は欠かさぬように。言うまでもありませんが、追跡が任務であり、攻撃は厳禁です。よろしいか」
委細承知であります、と、ホノタラム軍曹は几帳面に答え、トタケ軍曹とウェノイ軍曹をひきつれに戦車を追うために部隊を離れた。
(損な役回りだな……)
ホノタラムは戦車追跡という任についてそう考える。
ユモイとナエリはともに同じ階級の軍曹だが、ホノタラムの方がやや先任なので、いきおい自分が指揮官となる。
ホノタラム自身はもともと第12狙撃師団に属する戦闘職だったが、残りの二人はよくわからない。タヌキに似た印象のトタケ軍曹と、こちらは何となくキツネに似ているウェノイ軍曹を見ていると、すくなからぬ頼りなさを覚えるのだった。
まあでも、味方部隊の襲撃などという暴挙に比べれば、こちらはまだましか。
前者は下手をすれば、後日極刑もありうるのだ。そう言い聞かせながら、後ろに続くユモイとナエリの会話を、聞くともなく耳に入れていた。
「結構足速いな、あの戦車」
タヌキ顔のトタケ軍曹がやや息を弾ませながら言う。戦車は彼女たちの前方200メートルあたりをゆっくり進んでいた。つかず離れず、三人組は後を追う。
「な、鈍亀思っとったけど、速いな」
応じたのはキツネ顔のウェノイ軍曹だ。
「こらしんどいわ、補給処の方がまだましだったちゃうか?」
「あほ言うな、あっちの方がやばいて」
「そか、やばいよな。あの中尉。やっぱ頭おかしいわ」
「それな。なんかとんでもないのに取っ捕まったわ」
「うちら、どうなっちゃうんかのう」
「しるか。まあなるようにしかならんわ」
全くそのとおりだな。ホノタラムは思う。
「てかこの無線機重すぎやわ、ウェノイちょっと代わってくれへん?」
「いややわ、なんでうちがそんなもん持たなあかんの」
「ええやないの、代わってや」
「いややて、あんた持っとき」
二人の浮世離れしたやり取りを聞いていると、こちらまでおかしくなりそうだ。
ホノタラムは現実を取り戻すべく、ユモイに命じた。
「トタケ軍曹、本隊に連絡。追跡は順調、以上」
「ホノちゃん頼むわ。もう4回目やて」
「4回も5回もない!定時連絡はする!」
「おー怖い、あんま大きな声出すと敵に気づかれんで」
何とも緊張感のないユモイの言葉がさらにいら立ちを募らせる。
「いいから!連絡!」
「わかったから大きな声出さんといてや」
トタケ軍曹は渋々送受話器に口を寄せた。
「あーもしもし、ソニア01よりソニア00、応答願います……」




