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Wandernder Panzer ~戦場の少女たち~  作者: 出雲 笛筒
第1章 樹海にて
18/30

18 埋葬

ラバキア平野北部 ラバキア街道上の112号戦車

  帝暦1936年5月7日 20:15


 ユーキ・ヨウダ少尉は悩んでいた。

 すでに夜も更けている。

 このまま進むべきか、それとも危険を承知で野営すべきか、その選択肢だ。

 ミャオは暗い夜道を、戦車の乏しい前照灯の明かりを頼りに何とか前進してくれてはいるが、その集中力もすでに限界だろう。それに、ベミリアの亡骸も……

 ユーキはちらりと隣のアシュカを見る。

 アシュカは目をつむっていた。

 よもや寝てまいな?今後のことを相談したいタイミングだが、寝てるのかな。起こすと機嫌悪いからな。いやいや、指揮官は自分だ。先任の意見も大事だが、あくまで参考意見。決めるべき時に、決めるべきことを、決める。それが指揮官たる自分の責務だ。 

 と、自分を励ますように考えると、明らかに寝ているアシュカを起こす困難を回避する格好の言い訳になっているのには気づいていないまま、少し気持ちが軽くなるのであった。

「ミャオ、ちょっといい?」

 反応がない。少し声を強める。

「ミャオ!ボヤック一等兵!」

「あ、はい!はい!車長殿!」

 やっぱり限界だよな。ユーキは命じる。

「適当なところで森に入れて。全車停止」

 ミャオが112号車を森の脇に入れ、アクセルペダルを緩めた。戦車が静かに停車すると、すぐヘッドフォンにカーゴからの声が聞こえてきた。

「どした?なにかあった?」

 ジュンナイト准尉だ。

「うん、ここいらで小休止取っとかないとって」

「ああ、そだね。うちらももう限界だったよ。ちょっと外で体伸ばさせてほしいな。まあこの闇夜なら狙撃の心配もないしね」

「だいじょうぶ……うん。大丈夫だよね。灯火管制だけは慎重にね」

「了解。焚火も控えないとね。歩哨はこっちで立てとくから、戦車のみんなは休んでてよ」

「いいの?助かるわ」

「ここまで運転してもらってるからね。あと……ベミリアちゃんも……」

「うん……ちゃんと埋めてあげないとね」

 戦闘時の戦死者は現地埋葬が原則だ。戦闘が落ち着いたら(それが可能かは別として)改葬する建前になっている。いつまでも遺骸を戦車に乗せていくわけにもいかない。理屈ではわかるのだが、ユーキは何ともやりきれない気持ちになるのだった。

「こっちからも人数出すからさ、穴掘ってあげようよ」

 ユーキの気持ちを知ってか知らずか、ジュンナイトの言葉が今はしみじみ、うれしく思える。

「ありがとね。それじゃユミナとウメザー借りるわね」

 ジュンナイトとの通話が終わり、ユーキはこれからしなければならないことを思い、また気重になった。

「ウメザー軍曹、キーオ一等兵、ボヤック一等兵。疲れているところ悪いけど、もう一仕事頼む」

 4人が後部カーゴに至ると、そこには真っ黒な遺体袋に入ったベミリアの体が横たえてあった。それはひどく小さく見えた。装甲擲弾兵たちはすでに外に出ており、シートの上で横になっているモモと、サーヤ・ハシカケ一等兵を看護するユーリ・キャタガー一等兵の他、一人の大柄な少女が黒い袋を見守るようにカーゴに残っていた。

「レイヤ・セイミ一等兵であります。ジュンナイト准尉から少尉のお手伝いをするように申しつかりました。それと……」

 そう言ってセイミ一等兵は小さな金属片を少尉に渡した。ベミリア・タナワ軍曹の認識票だ。

 グランシュタインゴン公国軍のみならず、どの軍隊の兵士たちもこうした認識票を常に二枚組で首から下げている。万が一だれかが戦死した場合、一枚は報告用にだれかが外し、もう一枚は亡骸に残し、こうした野戦埋葬の後で、それが誰だったかわかるようにする工夫だった。

「ああ、ありがとう。では全員埋葬準備。4人で運んであげて」

 遺体袋の四隅には持ち手がついているので、袋を持ち上げるのは容易だった。

 そのままカーゴの後部ハッチから外へ。夜の空気は湿っぽかった。まだ本格的な夏には早いが、わずかな星明りの下はひんやりとも感じられた。ユーキは狙撃を警戒し、時折懐中電灯をつけながら歩くという方法で先頭を行き、適当な場所を見つけると墓穴堀りを命じた。

「なるべく深く掘ってあげてね。野犬に荒らされないように」

 墓穴を掘り終えると、そっと、穴の底にベミリアの遺体袋を下す。穴のちょうど収まり、その上から土をかぶせていく。暗くてよく見えなかったが、遺体袋が隠れ土が元の深さに戻るまで、そんなに長くはかからなく感じた。

 土が完全に埋まりきると、その上に目印の積み石をする。

 5人はその周りを囲み祈りの言葉をささげた。

「神よ。願わくばこの戦士の魂をヴァルハラにいざないたまえ。現世での彼女の功績、責務に対する忠実さを讃えたまえ。そして我らの魂も導き給うよう、彼女に託されたし」

(さよなら、ベミリアさん)

 ユーキは心の中で祈った。

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