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Wandernder Panzer ~戦場の少女たち~  作者: 出雲 笛筒
第1章 樹海にて
15/30

15 静謐

 ラバキア平野北部 ラバキア街道上の112号戦車

  帝暦1936年5月7日 18:30


 静かだった。先ほどまでの喧騒がまるで嘘のように。

 112号車は葬列の霊柩車のように街道を進む。それは比喩というより、仲間の亡骸を運んでいる意味において、直截的だった。

 車長のユーキ・ヨウダ少尉は部下を失った事実に、悲しみはもちろんだったが、なぜ止められなかったのかという自分に対する怒りと、銃弾を放ったであろう敵兵に対する怒り、それらがない交ぜになった複雑な思いでいた。

 背中の通信手席にはカーゴの装甲擲弾兵から通信徽章を持っていた兵が臨時に配置されている。もともとの主だった、モモ・オゾンノ上等兵の苦しそうな息遣いを思い出す。彼女にもけがを負わせてしまった。

 攻撃はひとまずやんだらしい。だが油断はできない。

 商都サエカゴヤナに続くラバキア街道は、途中ラバキア平野中央部に位置する高地を通過する。そこが旅団の集合地だった。112号車の当面の目的地、1350高地だ。

「キーオ一等兵。通信状態どうか?」

 ユーキに声をかけられたユミナ・キーオ一等兵は長身痩躯。居心地悪そうに通信手席に座っている。

「はい。え?あ、はい」

 ユミナは目の前の通信装置をガチャガチャいじりながら何とも要領を得ない返事を返す。

「だいじょうぶです、いえ、大丈夫だともいいます」

「ん?そうか。引き続き頼む」

「あ、いえ。まだ指示ありません」

「ん、任せる」

 全くかみ合っていない二人の会話に隣のアシュカが頭をかかえている。

 ユーキはそれには全く気付かぬようで、階下のミャオに声掛けをする。

「ミャオ、ガスは大丈夫ね?」

「はい、何とか」

 ミャオもショックから立ち直っていないのか、元気のない声で答えた。

「とにかく急いでね。モモちゃん心配だし」

「少尉!少尉!」

 ユミナ・キーオ一等兵が突然叫んだ。

「本部から回線きました!暗号電文『ブライⅡ』読みます。えー、あっと、こちられはシュター112、本部?本部?」

「なによ、じれったい!」

「えー読みます!112号車、明日正午までに本隊と合流されたし、かな?以上です」

「それだけ?救援はなし?」

「はい、あーの、もう迎えの分遣隊がこちらに向かっているそうです。負傷者は先に後送できるとのこと」

「それを先に言ってよ!良かった」

「分遣隊とは明日払暁をもって合流可能とのことです」

「え!明日の朝?なに、そんなにかかるの?」

「本部からはそれだけでして、はい」

 ユミナが済まなそうに答える。

「後席、ユーリいる?」

 ユーキは次いで喉マイクに向かう。

「どした?」

 ヘッドフォンからはジュンナイト准尉の声。先ほどのようにカーゴ備え付けの送受話器で話している。通話状態は良好だ。

「ああ准尉、モモちゃんどんな感じ?」

「ちょい待って。おい、キタガー、負傷者はどうか?」

 しばらく待ってジュンナイトが答える。

「血は止まったから今は落ち着いてるって。ウチのセラとサーヤのほうがよほど重症だよ。特にサーヤが……」

「そう、ごめんね。すぐに迎えが来るっていってるから何とかこらえて」

「別に謝んなくてもいいって、それよか迎えがくるってほんと?」

「うん、負傷者の後送と先導お願いできるみたい」

「あーよかった。集合地まで何もないことを祈るよ」

「だね。合流準備と周辺警戒、引き続きよろしくね」

「あいよ、少尉」

 軽い返事が今は頼もしく思える。

 しかし迎えは明日の朝。一晩しのげればいいんだけど。ユーキの脳裏にあの攻撃がよみがえる。恐ろしい腕前だった。あの細いスリットを直撃させる、そんな高度な技術を持った敵が森にはいたのだ。

 今は攻撃は止んでいる。その安心が乗員たちの油断につながらないよう、ユーキは思っているが、安堵感は否めない。

 このまま、何もなければいいんだけど。

 ユーキ・ヨウダ少尉の予感が当たるのか外れるのか、今はだれもその答えを持っていなかった。

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