13 追い打ち
ラバキア平野北部 ラバキア街道上の112号戦車
帝暦1936年5月7日 17:30
ユーキ・ヨウダ少尉は階下の惨状を見下ろしながら、努めて冷静であろうとした。
「ジュンナイト准尉!もう一人誰か!ひとり前へ!ベミリアが撃たれた」
キャタガー一等兵がベミリアの亡骸を後方へ運ぶのと入れ替わるように、カーゴルームからジュンナイトの部下である分隊付軍曹が現れた。
「ナミ・ウメザー軍曹まいりました!」
律儀に敬礼をする長身のウメザー軍曹にユーキが指示を飛ばす。
「挨拶は後で!機銃扱えるよね?前方機銃頼む。アシュ!アシュ!」
アシュカ・サイート先任曹長もまた、ベミリアを失ったショックを隠しきれていない。ユーキの呼びかけに反応するのがやっとだった。
「アシュ、同軸機銃で牽制を!ウメザー軍曹気を付けて!スリット覗いちゃダメ!スナイパー!」
矢継ぎ早に指示を飛ばすユーキ。
だがその時、一発の銃弾がまたも車内に飛び込んできたのだった。銃弾は後方の通信手用スリットから侵入し、通信手のモモ・オゾンノ上等兵の横をすり抜けるや、配置についたばかりのウメザー軍曹の腕をかすめ、前方の壁で跳ね返り、また後方へ弾かれる。
「あっ!」
モモが小さく叫ぶ。
跳弾の行先はモモの脇腹だった。
「ヨウダ……ヨウダ少尉」
みるみる血に染まっていく軍服を見ながらモモは言った。
「オゾンノ上等兵……撃たれましたです……」
弱弱しく報告するモモ。
「モモちゃんしっかり!衛生兵もいちど前へ!」
ユーキがモモへの声掛けと、喉マイクでの指示を同時に行う。ベミリアの血で染まった手をぬぐう暇もなく、ユーリ・キャタガー一等兵が前室へ飛んできた。通信主席の真下から階上のモモへ手当を始める。
「だいじょうぶです、弾は抜けてますから」
ゆったりとしたユーリの語り口。
「ほんと!大丈夫ね!」
苦しそうなモモを振り返り、ユーキが確認する。
「いまのところは、ですけど。止血と痛み止め打っときます。なるたけ早く後送しないと」
ユーリの口調は相変わらずだが、とりあえずモモの一命はとりとめたようだ。ユーリに言われるまでもなく、まずはこの窮地を脱さねばならない。幸い銃撃はもうやんでいる。だがいつまた……
ユーキは唇を噛み締めた。




