第9話
俺はスマホを前に悩んでいた。
「ユキピロ何をみているのー?」
瞳が俺のスマホをのぞく。
「会話アプリ?そうか、ずっと友達いなかったから、親・兄妹としかやりとりできなかったもんね…。
やっと友達できてよかったね。嬉しいね。なんだかとても感慨深いよ。」
ほろりと涙をぬぐうふりをする瞳。
いらっとするな。
一人で子芝居をする瞳を横目でにらみ、俺は意識をスマホへ戻す。
「あ、本山くんと会話していたのね。で、ユキピロもスタンプを使ってみたいと…。で、どんなスタンプを買うかで迷っているんだね。」
なんでもかんでも俺の全てが筒抜けなのは、ちょっといただけないな。正直うざい。
俺は「はにわ」と文字を打ち込み、スタンプを検索した。
それを目にした瞳がお腹を押さえて笑っている。
「はにわって…。ないわー。キャラクターがこんなにいっぱいあるのに…。せめて女子受けを狙って選べばいいものを…。ひー…。」
カーペットを両手でたたいて爆笑している瞳を俺は無言で足で蹴飛ばしたが、もともと幻覚なので瞳に俺の足が当たるはずもなく…。結果、空振りした俺は一人無様にこけた。
それを見て、瞳はさらに大爆笑。
「ばかだー!!」
俺を指差し、笑いのどつぼにはまっている。
イラつくなー。
心底むかついたけれど、わなわな震える体をぎゅっと抱きしめ、俺は深いため息を吐きだし、目をつぶる。
修行だ。修行。
相手にしたら負けだ。
無言で6秒数えて、平常心を取り戻す。
俺の勝ちだな。
はにわのスタンプでいいものがないかをチェックしていく。俺は昔から埴輪や土偶が大好きなのだ。
なんだろう。あの素朴な素材にやどる神秘は。優しくも美しい。
好きなものは日常で利用したいじゃないか。
そうして、さんざん吟味に吟味を重ねて心に刺さった一押しを購入した。どきどき、わくわくしながら本山へスタンプをかえす。
あ、銀子からもメッセージ来てたらからちょうどいい、買ったばかりのこのスタンプを送っておこう。
テンションがあがる。楽しいな。
すると、本山から即レスがきた。
―マジかよ。これ卑猥すぎる。おまえ、やるなー。うける。絶対、銀子には送るなよ。
…。
卑猥だと!?
なんでだ。こんなにかわいいのに…。
俺が愕然としている中、瞳が笑いすぎて窒息している。
俺は納得できずに本山へ質問した。
―え!?うそだろ。どこが卑猥なんだよ。
―いや、これどう見ても、男のナニだろうよ。しかも色が肌色って…てかりもあるし、もろじゃん…。
マジか…。どうみてもはにわでしかないけど…。
あ、銀子から返信きた!
ースタンプかわいいね!私も買ったよー。
俺の買ったものと同じはにわスタンプが「ステキ」の文字とともにはしゃいでる。
俺は「いいね!」のスタンプを返した。
山本とのトーク画面にもどり文字を入力する。
ーおまえが変態なだけじゃん。銀子からさっき同じスタンプを買ったと返信がきたぞ。
ーなんだと…!?それは…たかぶる…。
おまえ、いい仕事したな!
本山も、はにわのスタンプを即座に購入し、俺に「最高」の文字のついたスタンプで返信した。
ーしかし、これを銀子に送る勇気は俺にはない。
おまえは勇者だ。
ーいや、何を言ってるの?
おかしいから。反省して。
若干引き気味の俺に、瞳が言った。
「銀子とピロユキが純粋すぎるんじゃないかな。高校生だもの、本山が普通だって。」
瞳はため息をついた後、首を左右にふって俺の肩をポンとたたいた。
なんだろう。このもやっと感。
解せぬ。
俺は改めてはにわのスタンプをまじまじと眺めた。
確かにそんな視点で見たら、もうそれにしか見えなくなってきた。
特に「キター」のスタンプなんて…噴射を連想させる気がする…。
せっかく買ったのに…気にしたらもう使えないじゃないか。
こんなに愛らしいのに…。
銀子にこのことを指摘してやるべきか、どうか…。実に悩ましい。
地雷案件だ。
俺は肩を落として、女子受けしそうなスタンプをキャラクターものから物色し始めた。
女子受けを狙って物を買うとか…。そんな発想なんて、持っていなかった。目から鱗だ。
しかし、やっぱりなんだか…解せぬ。
後日、陣さんから届いたはにわのスタンプを見て、いたたまれない気持ちを抱く俺だった。




