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第10話

祝日、夕暮れ時に川べりを徒然なるままに散歩している。瞳は好きにきゃっきゃっと飛び回り楽しそうだ。たまに吹く風が前髪をふわふわなでるのが心地いい。残照が世界を優しいオレンジ色に変えている。

意外と野鳥もたくさんいて、眺めるだけでも楽しい。

鳥ってかなりうるさいのな。あちこちでさえずっている。嫌いじゃないけど。

勉強の合間に心を空っぽにして歩く時間はとてつもない癒し効果があると思う。

水色の空を見上げれば西からオレンジの光が差してどんどんと色が混じっていく。移ろいゆく絶妙な色彩が流れる雲をも巻き込んでいく。美しい。

この景色をルノワールだったらどう描くだろうと思った。

「ルノワールの世界を見てみる?」

思考を読んだ瞳に唐突に告げられる。

意味が分からない。

首をかしげる俺を置き去りに、瞳は言った。

「ちょっとだけだけど、乱視にしてあげるよ。他にもちょっちょっと調整して…。どうだ!」

とたんに変わる世界。はっきりと輪郭をもっていた目に映る全てのものが、今や空気ににじんでいる。物質がとけていくよう。

見慣れない世界に酔いそうだ。

空も、雲も、光までも違ってみえる。遠くの信号の光はぼやけた無数の円に見えている。まるで花火のように丸い点がいくつも円形に広がっている。

なんて綺麗なんだ。

テールランプや街頭などの光が自己主張し始めた。1つの点でしかなかったものが全部、円形のたくさんの太い点に分裂し広がっている。まるで筆で光を増やしたように見える。

美しい。とっても不思議な世界。

生活するには不便だけれど、今この瞬間だけ味わうことができるならとても贅沢だ。

しみじみと見渡した後、ふと思い立ち街路樹の下に立つ。ゆっくりと広がる枝を見上げる。広葉樹の隙間からもれる光も輪郭がぼやけ全て丸く見えた。光がまじわりあい、また葉の輪郭もぼやけているから、幾何学模様のようにもみえてくる。

なんだ、これ。見ていてあきないぞ。

ふと、ルノワールも世界をこんなふうに見ていたのかもしれないと思った。

どこをみても面白い。

にじむ世界に没頭していたら、遠くから声がした。

「ゆきぴろ―!」

振り返った時には、瞳がいつもの視界に戻してくれていた。

残念に思えて、まばたきを繰り返す。

ぼんやりしていると、バスケのジャージ姿の本山が現れた。首にかかったスポーツタオルで汗をぬぐう姿すらスタイリッシュに見える。どうなっているんだ。ちょっと悔しい。

「ぼおっとして…。大丈夫か?なにやってんの?」

「散歩してた。部活の帰り?」

「おう。前にもこの辺で会ったな。あの時は、おまえ泥だらけだったし。」

「確かに。懐かしい。あの時さ、シャベル担いで帰るの、けっこう大変だった。」

「ははは。自転車でよろめきながら帰っていってたな。おもろかった。」

「そういえば、こないだ銀子に本を借りたんだけど。」

「おう。またか。なんて題名のやつ。」

「臨死体験。」

「なんだそれ…。なかなか濃いな。」

「うん。昔に出版された古い本なんだけど。今読んでも面白かった。死とは何かっていうのを知りたいがための考察なんだよね。」

「へー。面白そう。で、結論はどうなんだ。」

「結論は”分からない”だな。だけど死へのプロセスは怖いものじゃないらしいっていうのが書かれている。」

「ふーん。読んだら、世界観は変かわった?」

「うん。少なくとも死ぬことが怖いことではないって思えたよ。」

「へー。じゃ、俺も借りてみようかな。」

「うん。銀子に頼んでみて、快く貸してくれるよ。

 銀子がさー。次はSFだって言ってさー。数冊、また別に本をかしてくれたんだよね。だけど俺さー。正直SFは未踏の境地なんだよなー。」

「なんでSFなんだ。」

「SF読んでいる人間のほうが長いスパンで世の中の動向を見通せるらしいよ。」

「うける。それ誰の持論だよ。おまえ、銀子に教育されてんのな。」

「え…。やだ。こわい。どこに導かれようとしてんだ…。」

俺は両腕で自分を抱きしめた。

本山のからっとした笑い声がひびく。

本山と話し始めると会話が止まることがない。たわいもないやりとりが、すごく楽しい。

本山のお腹が鳴ったので、二人で近くのコンビニにより、買い食いしながら家路についた。

買い食いするのが初めてで、ちょっとウキウキしたのは内緒だ。

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