防衛戦
ここに来て半年くらい経っただろうか。
この姿やここでの生活にようやく慣れてきたと実感できるようになってきた。
気や魔法が全盛期の頃には劣るとは言え、使える安心感が大きい。
また、レイナ先生による文字の指導も助かっている。自分で本を読んで知識を身に付けれるためだ。
偶然、書庫を見つけた時は嬉しかったが、整頓されておらず平積みになっていてジャンルもバラバラでどのような本があるか探すのに苦労した。
最近は、本を読むのを止めるタイミングで苦労している。区切りがなかなかつかないのだ。
寝る時間が少しずつズレていたある日の早朝。
意識もしていないのに、魔力反応を強制的に感じさせられた感覚で、ベットから飛び起きた。
集中してみると100程度の反応があり、それぞれ化け物級の反応を示している。
そのなかでも先頭の個体の反応が、異常だ。
反応を感知する針が振り切れている感覚により、恐怖で身震いする。
おかげで目をぱっちり開かれた。
謎の集団は、真っ直ぐこちらに向かって来ている。
屋敷のなかで気づいて動き出している気配はない。
自分がやらないとダメだと決死の決意をすぐにする。
無我夢中で部屋を飛び出し、玄関で刀を手に取リ、最大限の身体強化をして屋敷を出る。
村を抜けて、街道沿いを全速力でひた走る。
お互いこの街道を進んでいるので、このまま行けば正面から出くわすことになる。
出来るだけ村には近づけたくない。レイナ先生やココ、みんなが蹂躙されるのは許せない。
相手が格上だと分かっているので、今の自分にできる最大限の攻撃を惜しみなく実施することにした。
この先、丘に沿って右曲がりの緩やかな道になる。
カーブの陰で待ち伏せすることにした。
丘の上に登ると、遠視の身体強化で相手が確認できた。
魚鱗の陣形で真っ黒い衣装に身を包んだ集団が、騎馬に乗ってこちらに向かっている。
どう見ても1人で勝てる相手ではない。持久戦で援軍を待つ方法もあるが、短期決戦を選んだ。
「最大火力で勝負だ!これでダメなら打つ手はない」
自信はなかったが、自分を信じて動き出すしかない。
丘の上、フェリクスは刀で自身の右手の親指の腹を切り、少しなだらかな場所で自身の血で魔力を込めた大きく複雑な魔法陣を描く。以前の転生で得た魔法陣の知識でも最上級のものだ。
「かしこみかしこみ申し上げます。炎竜様にお願い奉ります。魂で繋がるご縁に縋り、我が大切な家族・縁者を守る力をお与えいただくようお願い申し上げます。答えるならば、魔法陣よりいでよ」
言い終わると同時に魔法陣が赤く輝き、“ゴゴゴゴゴ“という轟音と共に炎の竜が現れる。
全長50Mくらいの炎で包まれた竜が、魔法陣を出て真上に空高く舞い上がる。圧巻の迫力だ。
フェリクスは魔力の大半を失ったことで、軽い貧血のようによろめくが目の輝きは失わない。
上空から炎竜が先頭の化け物に襲いかかるまでの時間稼ぎとして、丘の上からファイアバードを魔力が尽きるまで打ち込む。敵全般ではなく、先頭の化け物に集中して1点突破を目指す。
「ウォリャリャリャリャリャリャリャ」
フェリクスは両手から気合を込めた魔法を交互に放つ。元々、魔力はそんなに残っていないが気力で振り絞る。
着弾とともに、煙が立ち上がったのを見届けて意識が飛んだ。
◆
気がついたら、ベットにいた。
魔力を空にしたからか、興奮したからか体が思うように動かない。
「死んでないとするとやったのか」
屋敷が荒らされた感じもなく、無事にいる。魔力探知はもう少し回復しないと使えなさそうだ。
残存する敵がいるなら、状況を把握したかったが。
少し落ち着いたのか、布団の上を冷静に見てみると、ぐるぐる巻きの簀巻きにされていた。
「あれ?動けなかったのは簀巻きのせい?」
頭が混乱する。
するとドアがノックも無しに突然開かれる。
ガンナーである!!
もう頭は大パニックである、このパターンの既視感はすでにたくさんある。
「坊っちゃん、奥様がお呼びです」
「???」
「ボスが久々に帰って来たから、かまって欲しいのは分かりますがやりすぎです」
ガンナーが、悪い顔でニヤッと一瞬笑った。
この時点で、今回は騙すつもりもなく本当に気絶した。全力で気絶した。
2度と目覚めないことを祈って。