地下の街
魔法が使えるようになって、最近は色々試している。
当然、部屋のなかでは二度としない。郊外の草原に来ている。
この地域、通称“未開地“は森や岩がゴロついている荒れた土地や崖などが多く、見晴らしのいい場所は限られるらしい。
魔力探知は成功した。今は、更に範囲を拡げることとに重点を置いて試している。
相手の強さレベルも感じとれる。屋敷にいる人たちが化け物なことは理解した。
気になるのは村の地下に沢山の感知がヒットする理由が分からないが、存在を把握できた。
地底人だったりして。
今日は筋力強化と魔法による肉体強化に取り組む。
朝から魔法による肉体強化を試しているが速さ・強度は問題なし。五感を強化するのも大丈夫そうだ。
今なら大猿にリベンジできるのでは無いかと思ったりもするが、失敗は許されない。
そもそも、この体が貧弱なことを改善する必要がある。
今日からこの草原に出る草食動物を追いかけて、捕まえるトレーニングをしようと思う。
危険も少ないし、自然な活動による筋肉を養いたい。
やってみると難しい。そもそも、気配を勘づかれて近寄ることも出来ない。
野生の力恐るべし。改善点が見出せないまま時間が来た。
夕方からは授業があるので、遅れないよう帰る必要がある。
レイナ先生の授業は楽しい。
◆
「先生、質問があるのですが?」
フェリクスは、レイナに気になっていた村の地下について聞いてみた。
「ご家族から何か聞いてる?」
レイナ先生からは逆質問が返ってきた。
「いいえ、何も」
レイナからすぐに答えが返ってこないことが、今までなかったので困惑気味に答える。
「いいわ、許可は事前に得てあるから行ってみる?」
思いがけず、郊外授業になる。楽しみだ。
レイナ先生、ココ、俺の3人は、屋敷の階段を地下まで降りる。
扉を開けてなかに入ると、そこには街があった。
大きな空間になっていて中央に大通りがあり、縦横区画整理がしっかりされている。
全体的にオレンジの屋根、白い壁で色調も統一されている。
光が降り注いでいて、ここにくる前の外の明るさと似た感じだ。仕組みはよく分からない。
通りを進んでいくと、ブロック毎に食品や道具屋などが手前にあり、奥は居住スペースのようだ。
「先生、なぜ地下に町があるのですか?」
フェリクスは疑問をレイナにぶつけてみる。
「色々な理由があるの。この街にはロス一家が認めた人しか入れないわ。
この地域は自然が厳しいから手付かずだったのだけど、自然災害や強い魔物から守れる地下を開拓したことで、人間が生活できるようになったの」
「また、この地域には他で住めなくなった人が流れてくるので治安への対処が次の課題になったわ。
そこで地上の寂れた村で一旦、来た人を受け入れ選別するの。
未開地はまだまだ開発に人手が必要だから。それに開発された地下があるだなんて他の地域に知れたら攻められるかもしれないしね。色んな意味で合理的だったのよ」
この街を一代で築いた父はすごい人なんだと改めて気付かされた。
一通り、見て疑問が湧いた。
「地下には、僕らの屋敷はないんですか?」
この街は画一的で王城のようなシンボリックな建物は見当たらない。
「ロス家は守られる側ではなく、守る側の人たちだもの」
レイナがちょっと自慢気にこちらを見てくる。
「何かあれば全力でこの街の住民を守ってくれるわ。
ロス家への絶大な信頼の一つに、屈強な人たちがこの街への侵入を防ぐガーディアンとしての役割があるわ。何があっても地上で食い止める。ロス家の強い意志ね」
聞けば聞くほど、すごい家だ。
「期待してるわ」
レイナ先生がこちらを見ている。
今日は連れてきてもらって良かった。こういう勉強もどんどんしたい。
一通り、見た3人は地下の街を後にするのであった。