家庭教師
「名前はフェリクスで合ってますよね?」
基本的なことから確認を始める。
「フェリクス・ロスが正式なお名前です。泣く子も黙るロス家の嫡男で、大事な大事な一人息子さんです。年齢は6才。
正式には、貴族では無いので姓は持てないはずなのだけど、貴族であっても面と向かって、非難できる力を持つ家は限られるわ」
修道着姿の家庭教師の先生は、約束どおり知っていることは教えてくれそうだ。
但し、私が言ったって言わないでねと口止めされている。
「お二人のお名前を教えていただけますか?」
フェリクスが名前を尋ねると妹さんは、ガッカリした顔になった。
「私の名前はレイナ。このとおり、近くの修道院にいるの。年齢は秘密よ。あと、あなたの家庭教師でもあるわ」
胸を張って誇っているが、服にゆとりがあるので大きさは分からない。
「この子はココ。年は同じくらい。私の義妹よ。
私が家庭教師をするときは、この子も一緒にってお願いしたの。あなたが入院してたときは、毎日お見舞いに行ってお花を飾ってたのよ」
ココは紹介されてる間、レイナの後ろに隠れて恥ずかしがっている。
「ココ。お見舞いありがとう。大変だったよね。退院の日の鮮やかな黄色の花は印象に残ってるよ」
お見舞いしてくれたことに素直にお礼を言ったのだが、ココにひどく驚かれた。
「ごめんね。今までが"お前"とか"おい"って感じで名前を呼ばれたのも初めてだと思うから、驚いちゃったのよね」
レイナは、後ろに隠れてるココを前に出そうとするが拒まれているようだ。
「あのー、死ぬ前というか、蘇る前といいますか、フェリクスはどんな奴だったのでしょうか?」
恐る恐る聞きたいような、聞きたくないことを確認する。
「一人っ子だったのもあると思うけど、あなたのお父様に逆らえる人なんてここの村にはいないのもあって、周りの人が注意しなかったら、わがままいたずら好きの子になっちゃったの。
そんな元気だけが取り柄そうな子が突然死んだって聞かされて、しかも埋葬のときに目の前で生き返るだなんて喜び半分、いたずらを疑う気持ちが半分だったの」
"元気だけが取り柄って"けっこう胸に刺さる言葉だけど、周りの人の反応がやっと理解できた。
「墓地で棺桶から助けてくれた人は?」
埋葬のときにいたって、さっき言ってたから大丈夫だろうと話を振る。
「あなたのお父様よ。マグナス・ロス。ここの村長であり、裏社会のボス。
この誰もいない、強い魔物に襲われる危険の高い未開地を切り開いた第一人者。
どこにも居場所の無い死ぬしかなかった人の受け皿を作ってくださった方、文武両道に優れた素晴らしい方でもあるの。
いまは、未開地拡大の調査に出かけられているわ」
とりあえず、すごい父で逆らったらダメなことを覚えておこう。
「ちなみに母は?」
「アリエラ・ロス。どこかの王族の出身という噂があるけど真偽は分からない。
かと言って、村での体力仕事にも積極的に参加される気さくな方。性格もサッパリ系で住民の信頼は絶大なものです。人気投票を仮にしたら、マグナス様を上回るかもしれません。そのマグナス様が唯一頭が上がらない方だそうです。あと、唯一坊っちゃんをお叱りになる方でもあります」
先に本人に合ってたのでイメージどおりでした。
ここで、お茶菓子の差し入れが来たので、本来のお勉強である文字の練習を始める。早く読めるように頑張ろう。