✒ グレイルシー教会 3 / 地下室 1
──*──*──*── 地下室
衛美
「 ──此処が地下室?
…………何か不気味ね… 」
玄武のお蔭で明るくはなったけど、不気味さはなくならないのね…。
衛美
「 今にも何かが出てきそうよね… 」
厳蒔弓弦
「 広そうだな。
手分けするか? 」
玄武
「 いや、離れ離れになるのは良くない。
弓弦、違和感を感じないか? 」
厳蒔弓弦
「 違和感か?
……………………いや…。
特には感じないが… 」
玄武
「 そうか。
ワタシから離れるな。
地下室は式神に調べさせればいい 」
そう言った玄武は人形の真っ白い紙を何枚も懐から出すと、バッ──とバラ撒いた。
ヒラヒラと宙を舞っていた人形は下に落ちる事なく、まるで偵察にでも行くみたいに四方八方へ飛んで行った。
玄武
「 先に進むぞ 」
衛美
「 玄武、違和感って何?
地下に何かあるの? 」
玄武
「 野良式神が残留思念を取り込んで地縛霊になっている。
弓弦が気付かない程、気配を消すのが上手いようだ。
此処は野良式神の巣窟だな 」
衛美
「 ──え゛っ…。
…………それってヤバいの?? 」
玄武
「 大した事ない。
避難経路は確保した。
安心していい 」
衛美
「 安心って…… 」
厳蒔弓弦
「 残留思念を取り込んだ地縛霊を倒せば、この教会で起きる怪奇はなくなるんだな? 」
玄武
「 無くなりはしない。
地縛霊を倒しても残留思念は残るからな。
廃屋がある限り、淀むし、野良式神も集まる。
残留思念は再び野良式神に取り込まれ、怪奇は繰り返される 」
衛美
「 じゃあ、どうしたらいいのよ? 」
玄武
「 残留思念を弔うしかないな。
春夏秋冬、供養会を営む事だ。
此処は残留思念が多いからな、最低でも100年は供養会を続ける必要がある 」
衛美
「 そんなに長い間、供養をしないといけないの? 」
玄武
「 そうだな。
供養は1度すれば終わりではないからな。
継続する事に意味がある。
淀みに穢れた残留思念を浄化する作業は大事だぞ。
廃教会を取り壊すなら、残留思念が消えてからにすべきだな。
残留思念が残っていれば、野良式神が集まって来る 」
厳蒔弓弦
「 野良式神が残留思念を取り込んで怪奇を起こすんだな 」
衛美
「 供養って大事なのね…。
でも年に4回も此処まで来て供養しないといけないのは大変よね… 」
玄武
「 手間を惜しめば何時までも心霊スポットのままだ。
此処を取り壊し、新たな施設を作るのは構わないが、怪奇はなくならない。
鼬ごっこだ 」
衛美
「 仮に此処を供養するとして、地元のお寺で供養をしてもらえば良いの? 」
玄武
「 霊観のない住職では駄目だ。
供養をしている形だけで効果はない。
供養は霊観を授かった者がするから効果がある。
霊観を授かった者が居なければ、霊感の強い者でも構わない。
多少の効果は得られる 」
衛美
「 お坊さんなら誰でも良いわけじゃないのね 」
玄武
「 供養は受ける側の心掛けと供養する側の心掛けも大事だ。
“ 取り敢えず、すればいい ” というものでもない。
心の伴わない形式的な供養をしていては、何も先祖へ回向しない。
人間の自己満足を満たすだけの行為だ。
多額の供養料を支払って喜ぶのは、供養料を貰えた側の人間だけだしな。
供養料の金額は先祖へ回向しない。
供養する度に多額の供養料を支払っている者は、寺からカモられている自覚をした方がいい。
霊感のない者がする供養は、供養になってないのだから詐欺になる 」
衛美
「 …………でも…霊感がなくても、ちゃんと修行しているお坊さんなんだし、詐欺にはならないと思うけど? 」
玄武
「 人間の定めた法則では、裁かれないな。
檀家は菩提寺の坊主や住職に頼るしかない。
裁かれるような犯罪を犯さなければ、捕まる事はないのが人間社会だろう 」
衛美
「 廃教会の供養会は難しいかも知れないのね… 」
厳蒔弓弦
「 そうだな。
最低でも100年だからな。
供養会をする度に発生する出費を自己負担してまで此処の供養会を営もうとする者は先ず、居ないだろうな 」
衛美
「 ですよね…。
交通費,滞在費,準備費…諸々の必要経費を4回分、100年間も地元が出すとも思えませんし… 」
玄武
「 此処の今後は、ワタシ達の知った事ではないぞ。
放っとけばいい。
提示した解決策に対して、地元がどう取り組むかだ 」
衛美
「 地元の人達に解決策を教えるのね。
ちょっと安心したわ 」
厳蒔弓弦
「 玄武、野良式神は気配を消す事が出来るのか? 」
玄武
「 意思があれば出来るな。
仮に気配を完璧に消せたとしても、式神に対しては意味がない。
気配を消して騙せるのは人間だけだ。
弓弦程の退魔師に気配を気取られないのだから、知性を持っている可能性もある。
少々厄介かも知れないぞ 」
衛美
「 ──でも、玄武なら秒殺でしょ? 」
玄武
「 当然だ。
ワタシには掛かれば秒で滅っせる。
十二支の大量召喚も出来るしな。
ただ──、此処は狭い。
鬼神降臨は出来ないから、式神にチマチマ攻撃させるぐらいしか出来ないな 」
衛美
「 そうなの?
──内臓破裂とか、心臓腐蝕とか、血液沸騰とか、野良式神には出来ないの?
何時もしたがるじゃないの 」
玄武
「 野良式神には、人間のように臓器,心臓,血液…等はないから出来ないな。
例え核を見付けても、式神には式神の核を破壊する事は出来ない。
弓弦が頼りだ。
弓弦の法力を込めた弓矢で射れば、核を粉々にする事が出来る 」
衛美
「 そうなの?
弓弦さんって凄い! 」
厳蒔弓弦
「 私の法力は大した法力ではないんだが、大丈夫なのか? 」
玄武
「 自信を持て。
弓弦の法力は質が良い。
法力は強力だから良いわけではない 」