✒ グレイルシー教会 1
──*──*──*── グレイルシー教会
扉が閉まる前に教会の中を明るくして正解だったみたい。
窓はあるけど、外の光が射し込まないのよね。
教会の中には立派なステンドグラスがあって、左側に男性と右側に女性が描かれている。
どちらも片手に林檎を持っていてるみたい。
男性は左手の上に林檎を持っているし、女性は右手の上に林檎を持っている。
男女の真ん中には、左右に白い翼を生やした白蛇が描かれている。
ステンドグラスに描かれているのは、まるで白蛇にそそのかされて林檎を手にしたアダルとイヴィみたい。
イエル・キルストやマグノ・マリアじゃないのね。
玄武
「 ──弓弦、このステンドグラスとやらは何だ? 」
厳蒔弓弦
「 あぁ──それは、イエル・キルストとマグノ・マリアをアダルとイヴィ に見立てて作られたステンドグラスらしい。
翼を生やした白蛇は、人間に嫉妬した天使サダンらしい。
キルスト教では白蛇が天使サダン説と天使長ルーシェル説で分かれているそうだ。
サダン説とルーシェル説では聖書の内容も変わるらしい。
人間に嫉妬し、怒りが反逆心へ変わったサダン若しくはルーシェルは智慧の蛇へ姿を変えると、アダルとイヴィを言葉巧みに誘導し、禁断の果実を食べさせたらしい。
サダン説では禁断の果実を食べたアダルとイヴィは自分達が友とは異なる存在だと知り、自ら楽園を去って行った。
アダルとイヴィが楽園を去った後、2人の友を失った神ゼルスは、天使サダルを楽園から混沌の沼へ追放した。
楽園から追放された天使サダルは、混沌の沼にて魔王となり、神ゼルスと敵対関係になったそうだ 」
衛美
「 天使長ルーシェルの場合はどうなったんですか? 」
厳蒔弓弦
「 天使長ルーシェル説だと、言い付けを破り禁断の果実を食べたアダルとイヴィを楽園から追放した神ゼルスは、人間を騙した天使長ルーシェルも楽園から追放しようとした。
神ゼルスから追放される前に自ら混沌の地へ降り、混沌の地にて罪を犯して堕落した堕天使達を束ねる堕天使長ルシファーとなった。
堕天使長ルシファーは堕天使達を引き連れ、神ゼルスの住まう楽園へ攻め込み、神ゼルスを楽園から追い出したそうだ。
楽園を手に入れた堕天使達ルシファーは、楽園で暮らしていた人間達に禁断の果実を食べさせた。
楽園は、堕天使達が堕落した人間達を支配する失楽園となったとか 」
衛美
「 …………随分と違うんですね… 」
厳蒔弓弦
「 そうだな。
失楽園で堕天使と堕落した人間との間に生まれた子供達が魔族の始祖になるらしい。
楽園を去った若しくは追放されたアダルとイヴィの子供だ。
自ら去った説では双子で、追放された説では年子になっているそうだ。
楽園から自ら去った説だと、カインとアベルは双子だが、姉のリリムと妹のアクレが居たそうだ。
アダルはカインとアレク,リリムとアベルを結婚するように提案したが、カインが反発し、アベルを殺害した後、リリムと結婚したそうだ。
リリムとカインの間に息子のエノクと娘のエテナが生まれ、アベルの死後にアダムとイヴィの間に息子のセツトが産まれただ。
エノクはアクレと結婚し、エテナはセツトと結婚したそうだ 」
玄武
「 近親相姦というやつか。
世界は違えど、何処にでもあるものだな 」
衛美
「 聖書の中身も何処かの誰かの作り話でしょ?
真に受けない方がいいと思うの…。
弓弦さん、カインとアベルが双子じゃなかったら、何処が違うんですか? 」
玄武
「 カインとリリムが双子の兄妹になり、アベルとアクレが双子の兄と妹になる。
カインがアベルを殺害して、両親の許可を得ずリリムと結婚し、息子のエノクと娘のエテナが産まれるのは同じだな。
アクレ,エノク,エテナ,セツトは近親相姦はしないそうだ 」
衛美
「 アダルとイヴィが楽園を去ったか追放されたかで、子供の設定も変わるんですね。
なんか聖書の話も面白いかも。
ややこしいけど… 」
玄武
「 つまり、ステンドグラスに描かれているのは、白蛇に姿を変えた天使サダルだか、天使長ルーシェルだかに騙されている最中のアダムとイヴィの場面という事か 」
厳蒔弓弦
「 そうだな。
廃教会なのにステンドグラスが綺麗に残っているのは珍しいな 」
衛美
「 弓弦さんが聖書に詳しいなんて知りませんでした 」
厳蒔弓弦
「 いや、詳しくはないな。
スマホで検索すれば直ぐに出て来るからな 」
衛美
「 そっか!
すっかり忘れてました(////)
折角だし、ステンドグラスを撮って衛夛に送ってあげよっと 」
私はスマホでステンドグラスを写メる事にした。
衛美
「 ──中々いい感じに撮れたかも♪ 」
満足気に写メった画像を確認している最中、私は大事な事を思い出した。
────ハッ(( ゜ロ ゜;!
うっかりしてたけど、此処って教会の中だったわよね!
暢気に写メを撮ってる場合じゃなかたわ。
ステンドグラスを背にして教会の中を見回してみると、凄まじい光景が広がっていた。
ドラム缶より大きい十二支達が絶賛大暴れ中だったの。
玄武が言った通り、十二支達は好戦的と言うよりも攻撃的で野良式神を襲っている。
倒してる──って言うより、一方的に蹂躙してる感じかしらね。
式神って…恐いわぁ!!
結界の中で寛いでいた式神と同一だなんて、とても思えない。
玄武が統括している式神が如何に強いか良く分かる。
弓弦さんも十二支の式神が、野良式神を一方的に蹂躙してる光景を目の当たりにして、驚いているみたい。
声を出すのも忘れて立ち尽くしてる。
衛美
「 …………こっわ…。
玄武、野良式神に容赦ないのね 」
玄武
「 当然だ。
野良式神を生かしておくのは良くないからな。
地下室へ通じる隠し階段を探すぞ 」
一切の容赦もなく野良式神を倒している十二支達には目もくれず、玄武は隠し階段を探し始めた。
玄武が貸してくれている眼鏡の力で、私にも野良式神の姿が見えるようになっている。
私には野良式神が全身真っ白い変な物体に見えている。
はっきりと見えないのは、玄武なりの私への配慮だと思うの。
多分、退魔師の弓弦さんの目には、デフォルメされていないガチの野良式神が本来の姿で見えているんだと思う。
弓弦さんに、どんな地獄絵図が見えてるのか──、私は知りたいとは思わない。
だって、弓弦さんから血の気が引いてるんだもん!!
◎ 敢えて、変更しています。
キリスト教 ─→ キルスト教
マグダラのマリア ─→ マグノ・マリア
イエス・キリスト ─→ イエル・キルスト
ゼウス ─→ ゼルス
サタン ─→ サダン
アダム ─→ アダル
イヴ ─→ イヴィ
リリス ─→ リリム
エタナ ─→ エテナ
アクレシア ─→ アクレ
セト ─→ セツト