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4.キックオフ!試合も私もテンション高め!!

 スタグルをいくつか食べ終えた頃、ピッチ内でウォーミングアップをしていた選手が一旦捌けた。

 その後、選手入場が行われ、前半戦の試合が始まった。


 1人での観戦だったら、ちょっと声が出てしまうって感じで、他の人に比べれば比較的大人しく試合を観戦しているのだけど、この日は隣に一緒に観戦する人がいるせいなのか、


「ひゃー、危ない!」


 相手チームに攻められピンチの時は悲鳴を上げ、


「行けっ!走れ~!」


 相手チームからボールを奪った時には、両手をグッと握りしめ、


「よしっ!」


 コーナーキックを獲得したとわかるとガッツポーズをし、


「入ったーーーーーー!!」


 ゴールが決まると座席から立ち上がり、両手を上げた。

 選手も抱き合って喜んだり、観客も周りの人とハイタッチしたり、スタジアムDJの「ゴーーーーーーーーール!!!!!!」というコールがスタジアムに響き渡る。


 座っている場所が、比較的まったりと見る場所であっても、ゴールした瞬間というのは、感情が高ぶるもので、あちこちで喜んだり、ハイタッチしている姿があり、


「吉川さん!いえーい!」


 私も隣で座っている吉川さんに両手を向けて、ハイタッチをしようとした。

 吉川さんは「やったね」と立っている私を見上げて、ハイタッチを返してくれた。


 再びピッチ中央にボールがセットされ、試合が始まる。

 私は席に座り、ふと冷静になると友達でもなんでもない、ただの職場の仕事関係の人に、このテンションで接して良いのかと心に冷や汗を流す。


「すみません、テンション高くて……」


 いつもはこんなことしないんです。


「いや、友人もこんな感じだったから気にしないで。素敵な一面が見れて楽しいよ」


 吉川さんは苦笑しつつもそう言ってくれた。


「1人だとこうやって、ハイタッチとか、喋りながら試合とか見れないから、つい……浮かれちゃいました」


「俺も前回はある意味1人で見てたようなものだから、一緒に喜べて嬉しいよ」


「そう言ってもらえると、私も嬉しいです」


 私はホッと胸をなでおろした。


 前半戦を1ー0で終わり、15分の休憩を挟んで後半の試合が始まる。

 皆が、スタグルを買い足しに席を立ったり、お手洗いで席を立つ人もおり、


「ちょっとお手洗いに行ってくるけどいいかな?」


 吉川さんもそのうちの1人のようだ。


「あ、はい!荷物は私が見ておくので行って来て下さい」


「ゴミがあれば一緒に捨ててくるけど……」


「じゃあ……お願いします」


 食べ終わったスタグルのゴミをまとめた袋を吉川さんに手渡し、吉川さんは席を立って通路に向かって行った。

 私は入場した際に貰ったパンフレットを開き、目を通しながら、2人で一緒に観戦するのもいいなと思った。

 2人だと喋りながら見るせいか、前半が終わるの早く感じたし、周りの複数人で来ていた人たちのように、ゴール決めたとき一緒に喜んでハイタッチ出来たりするのもいい。


 吉川さんはああ言ってくれてたけど、私のテンションに内心ひいてないといいなと思った。




※※※※※※※※※※





 後半戦開始5分前くらいに吉川さんは戻って来た。


「荷物ありがとう」


「いえ!」


 読んでいたパンフレットから視線を上げると吉川さんの両手には紙コップを持っていた。


「日差しが出ているとはいえ、風が冷たいからどうぞ」


 紙コップを受け取ると温かく、中はコーヒーのようだ。


「わー!ありがとうございます!!」


「ミルクと砂糖入りだから苦手ならこっちのブラックあげるけど……」


 吉川さんがもう片方の紙コップを見せる。


「いえ、私こっちで大丈夫です!」


 紙コップを両手で持つと、じんわりと温かさが手に伝わってくる。


「おいくらでしたか?」


「いいよ、今日一緒に見てくれたお礼だから」


 自分の分を支払おうと値段をたずねたが断られた。


「じゃあ……ゴチになります」


 ペコリと頭を下げてお礼を言ってから一口飲む。


「はぁ――……温まります」


 日差しがあるといっても、風が冷たいせいか、身体が冷えていたみたいだ。

 吉川さんも席に座り、同じくコーヒーを一口飲んでから私の言葉に同意する。


「それは良かった。……あ、後で試合前に一緒に撮った写真送りたいんだけど……」


「あ、欲しいです!いいんですか?」


「勿論だよ」


「じゃあ、無料通話アプリでID交換して、写真を貰うって形でもいいですか?」


「いいよ」


「ありがとうございます!じゃあ、早速……」


 私は一旦、コーヒーの入った紙コップを隣に置き、スマホをバックから取り出してアプリを開きIDを見せる。

 吉川さんも同様に操作をして、お互いのアプリ画面に登録された。


 画面に表示される吉川さんのアイコンは、自分の顔をアイコンにしているようだ。

 ちなみに私のアイコンは、去年スタジアムに来た時に撮った、チームマスコットの写真をアイコンにしている。


「はい、送ったよ」


 吉川さんから試合前に撮ったスタグルの写真と、私とのツーショットで撮った写真が無料通話アプリを通じて送られてきた。


「ありがとうございます。吉川さん、写真写りめちゃくちゃ良いですね。なんか自撮り慣れてる人っぽいです」


 撮ってくれた写真を見ると、カメラ目線と笑顔を浮かべている吉川さんの姿は完璧にカッコよく写っていた。


「そんなことないよ。というか、自撮り俺ほとんどしないよ」


「え――……絶対撮り慣れてますよ、これ」


 一方の私は自撮り撮り慣れてないから、カメラ目線が上手くできず、少し変な方向に視線を向けていた。


「それはきっと高藤さんと一緒に撮ったからだよ」


 その言葉に私はお世辞だと分かっていても言われ慣れてないから、赤面する。

 なんて言って返したらいいのか分からなくて、少し話題を変える。


「私、試合観戦に来ても自撮りとかしないので、自分がサッカー観戦に来たって実感が更に湧きますね」


「写真撮らないの?」


「スタジアムの写真とか買ったスタグルの写真とかは撮るんですけど、自分を撮ることはなかったので……」


「そうなんだ」


「はい。なので、嬉しいです!ありがとうございます」


 恥ずかしい気持ちもあるけれど、嬉しい気持ちの方がより大きい。


「良かった」


「あ、選手が出てきたから、そろそろ後半の試合が始まりますね」


「そうみたいだね」


「後半も楽しんで見ましょう!」


「そうだね」


 コーヒーを飲んだからなのか、それとも吉川さんの言葉に赤面したせいなのか、風は冷たいが、身体はぽかぽかと温かった。


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