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〇〇妖精リッカの事件墓・戦力の謎~解決編~

 迷宮の壁に貼ってある大きな看板には無数の落書きが刻まれている。元がなんて書いてあったのかはもうわからない。

 薄暗い迷宮の中は、いつも湿った生臭い匂いがしている。しかし、今からは血の匂いで上書きされるだろう。どっちがマシかはお好みで選んでほしい。


 そんな劣悪な環境にストレスを溜めている私の目の前に現れたのは*みすぼらしい男*や、*どうぶつにんげん*たち。欲望に目をぎらつかせて襲いかかってくる。迷宮の歴史と同じくらい昔から繰り返されてきた事だ。

 そう、迷宮に潜む敵性生物は魔物だけではないって事。どっちかというと人間のほうが人相が凶悪だが、他は何も変わらない。金目の物を持っている事も、弱い相手を選んで覆ってくる事も。そしてうまく釣るとオイシイ事も。


 煙の中から打ち込まれた矢がサイオーガの右腕に突き刺さる。

 司教という職業はろくな装備ができないが、ドワーフの生まれついての頑健さがそれを補う。


「ハゲチィラカス神よ!失われつつある豊饒の大地に再び生命の萌芽を!」

 サイオーガが癒やしの奇跡を願う。

 この樽のようなドワーフはとにかく頑丈だ。動きは遅いが守りに徹していれば倒すのは簡単ではない。敵がサイオーガに群がっている間、攻撃役の手がその分空く。


「ミルクは飲んだしげっぷもしたわ、今は午前三時よ『眠れ』」

 ラワーヌが眠りの魔法を巻く。攻撃魔法も便利だが、魔法の真骨頂はこの『眠り』だろう。眠った敵は攻撃の手が止まるし、何より無防備になってくれる。


「速き風よ、光と共に……うりゃぁ『焼却』」

 ニアタールは魔法の専門家だ。集団をまとめて仕留める時にはこの上なく頼りになる。凄腕の魔法使いなら一つの魔法で複数の集団を消し炭にするのだが、まだまだ未熟な魔法使いであるニアタールは手傷を負わせるだけ。

 そもそも詠唱呪文を間違っているしね。魔法は長い時間を掛けて体の中に蓄積させて、トリガーとなる言葉とともに開放するもの。呪文の詠唱なんてのは精神集中の為のフレーバーに過ぎない。なのに別の呪文の詠唱をしているのは早さも精度も格が落ちる。後でお仕置きだ。


 私たちに襲い掛かってきたやつらは、眠りと炎を潜り抜け、雄叫びを挙げながら武器を大きく振り回した。


 隙だらけでカモだよね☆


 魔法が使えて前衛も務まるラワーヌ。頑丈で壁役ができるサイオーガ。火力不足の火力役、ニアタール。

 このメンバーでどうして今まで勝ててきているのか。

 少人数だからといって勝てると思って襲ってきた奴らは、それを考えなかったのだろうか。


 小さい私は荷物持ちとしては役に立たないし、魔法だって使えない。だけど、戦えないとは一言も言っていない。それどころか、このパーティの主戦力は何を隠そうこの私なのだ。


 身体を大きく振って、反動でランタンを投げ飛ばす。

 光源が大きく動いた為、注意がそちらにそれる。

 その隙に、私は地面スレスレまで自由落下し、その速度のまま襲撃者たちの足元を潜り抜ける。


 一人。


 ふわりと浮かび上がり、大きく羽ばたく。妖精の羽から燐光を舞わせてから、不潔な男の目に向かって一直線に飛ぶ。剣で私を叩き落とそうとする動きを見切って真下におち、股下を潜る。


 二人。


 かたまっていた男たちは、いきなり股下を潜って現れた私に対応できない。そのまま首元と駆け抜ける。


 三人、四人。


 迷宮では後衛専門の魔法使い以外は、ほとんどの探索者が鎧を身に着ける。魔物たちですら、硬い表皮や鱗といった物で身を守る。

 でも、全身がガチガチだと動けないんだ。どんな生き物でも、スライムや動くコインですら、関節があるんだよ。そして関節部は固くない。


 人型の生き物で言えば、目、首、足首、そして股だ。小さな私からは、これらの標的は大きくて当てやすい。さらにこれらの標的はみな生存や戦闘の継続に必須の器官ばかりのようで。ここを狙って破壊する事を探索者たちはこう呼んでいる。


致命の一撃(クリティカルヒット)と。


「なんなんだよ、なんで盗賊妖精ごときが……こんな!」


 仲間がつぎつぎに落とされて恐慌をきたしたのか、襲撃者の一人がハルバードを振り回しながら叫んでいる。どっかで見たような顔だな、酒場ですれちがったかな?

 でも彼は探索者として二流だ。なにしろ情報集めすらまともにできていない。長生きはしないだろうね。だって……


「ん? 私、盗賊だなんて一度も言ってないよ?」

私は自分を罠解除士と呼称している。なぜならこの職業は忍ぶものだから。正体は隠さないとね?


 自称:罠解除士。口の悪い人は盗賊と呼ぶ。

 ただ、正式な登録上の職業区分を名乗るなら。


「ニンジャって知ってる?」


 魔法使いの他に鎧を身に着けない職業といえば、ニンジャ。全部よけるからね、大砲で撃たれても平気だよ。


「まさか! 盗賊系上級職の?!」

「そう。警戒能力に秀で、前衛職並みに戦える。そのかわり、鍵開けは少し下手」

「少しなんてもんじゃないだろ。無事に罠外せた試しが無いじゃろお前さん」

「その代わり、転移罠とかプリーストブラスターみたいな致命的な罠に掛かったことははいハズだよ」


 鍵開け罠外しが下手。それと、ニンジャの特徴はもう一つあるんだよ。素手で首をはねるんだ。

 そもそもこのパーティは仲間を失ったもの同士が即席で組んだもので、腕前だってバラバラだ。

 私は自称する通りに腕のいい探索者で、単独で迷宮に潜り生還する実力を持つ単独生還者だ。

 使えそうな新人をまとめて叩き上げる、通称パワーレベリングという訓練を行っている真っ最中なのだから、この程度の低層階で襲ってくる連中に負けるはずがないのだ。



 そして今日も私たちは凱旋する。迷宮管理官に睨まれながら。

 剣に鎧に少しの金貨。守銭奴で業突く張りのボッタクリ店主に血塗れの装備品を二束三文で売り飛ばし、あぶく銭をパーっと使うのだ。


「生きて帰らせてくれるし、すごく儲かるんだが、納得いかんのぅ。昔の仲間と価値観が変わりすぎてもう組めない気がするぞ」

「いいじゃない、私たちもドンドン腕をあげてるのだし」

「俺、もう迷宮で見かけた生き物には確認しないで魔法打ち込んでいいんじゃないかって気がしてきた」


 こうして私の厳しい指導で、迷宮探索者は一人前になっていくのデシタ。さ、飲もう!

 


忍者妖精リッカの事件墓、これにて終了。


ウィザードリィ好きな方はわかるでしょうが、

サイオーガ 司教(善)→(悪)

ラワーヌ  侍 (善)→(悪)

ニアタール 魔 (善)→(悪)

こういうことですね。

あと、迷宮に出てくるモンスターって、人型が多い気がします。特に狂王の試練場。

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