山分けの謎・解決編
「犯人はこの中にいる!」
「なんだ自白するのか」
「そういうチャチャ入れやめてよね!」
せっかくの探偵気分が台無しだ。
犯人はこの中にいる、謎は全て解けた、世界の半分をお前にやろう。この三つは可憐な乙女の言ってみたいセリフトップスリーだというのに。
「で、言いたいことはなんなんじゃ。金貨のありかが判ったのか?」
このままじゃらちが明かないと思ったのか、サイオーガがヒゲを毟りながら話を進めてくれる。一番常識人に見えて、サイオーガは極度の個人主義だ。あのメイスが重すぎて自分以外には持つことすらできないから、安心しているのだ。自分以外には価値がないのだから、メイスは自分の分け前。それなら他の物は他人の分け前。だから興味が無いのだ。
そう、自分の分け前。
「そもそも、迷宮から生還した後の飲み会って、戦利品の分配だよね?」
「そりゃそうさ。何のために命かけてると思ってんだ」
「普段はそうよね」
「あー、そういうこと?」
私の肯定に、ラワーヌが何か気付いたようだ。
「手に入れた装備品とかはパーティー内でお金出して買い取る。欲しい人が複数居たらオークション。最後に現金を山分け。それが普段の『清算』よね?」
「そうそう。でも、今回は違った」
→は~い、ここから回想シーンはいりますよ~
「罠チェック、ヨシ!」
ピシリと両手の人指し指で罠をチェックする。問題なし。両手でやれば一人でダブルチェックできる。私は有能。
そして、爆発した宝箱の中には重そうな棒が入っていた。
「サイオーガ! これ、何かわかる?」
振り向いて尋ねると、樽のような体型のドワーフが、焦がしたヒゲを小治癒の魔法で治しながらやってきた。
「大当たりじゃな、こいつは『破壊のメイス』じゃろう」
「高く売れるやつね、大儲けだわ!」
「いや、コイツは使った方がいい。なかなか手に入る物ではない」
売れば金貨二千枚近くになる装備品だ。
これだけ持って街に戻れば一人アタマ金貨500枚の分け前にはなる。重いし、普通ならこれだけ持って帰るところだ。
しかし、サイオーガがこれを欲しがった。
サイオーガが買い取れれば良かったのだが、残念ながら彼は文無し。無理矢理売らせても良いのだけど、こんな重い物を持てるのはサイオーガだけなのだ。自分のものにならない重い宝物を持ち帰るなんて、誰だってイヤだ。私たちだって、唯一の回復職の機嫌を損ねるのはちょっと怖い。
長年一緒にいるパーティーなら、ツケにしたり諦めて貰ったりも出来るだろうけど、私たちは即席パーティー。その都度の清算が求められる。
ここで、私の『ポケット』に入らないか試したワケだ。
無理! 入らない! 裂けちゃう! と叫ぶ私の口に指を突っ込んでメイスを捻じ込もうとするラワーヌは狂気に満ちていた。
そもそも、口に入れてもポケットに入らないし!
破壊のメイスだけを持ち帰って売るくらいなら、ここに捨て置いてもっと良い物を探そう、とサイオーガは提案した。
もちろん、宝箱にでも入れて隠しておいて後日一人で取りに来る気だろう。宝箱に罠でもかけておけば、運が良ければ残ってる。
それが判るから、みんな探索続行を選択したのだ。
この時点で、『破壊のメイスはサイオーガの物』という共通認識が出来上がっていた。
まだ正式には清算していないというのに。
そして次に通りすがりの怪しい人影に、炎の渦を叩き込んで手に入れたのが、『女王のレイピア』だ。
もちろん、ラワーヌが欲しがった。
その時にニアタールはこう言ったんだ。
「俺はカネでいいよ」と。
このまま探索を続けて、私の欲しいアイテムが手に入ったら、それを分け前とする。買い取りは無し。そういう暗黙の了解が出来上がったわけだ。
前衛の攻撃力が増したので探索は順調に進み、お宝の山を持っての勝利の帰還に繋がる、と。
はい。回想おわり。
「つまり、本来なら清算と分配を行う場である打ち上げで、それをやらなかった。暗黙のうちに済んでいたから、と」
「あ、そういう事なの?」
髭から枝毛を見つけては抜きながら、サイオーガが纏める。ラワーヌはよく判って居なかったらしい。とりあえず発言して相槌を打っていくスタイル。嫌いじゃ無い。
「だから、結局なんなんだよ」
「メイスはサイオーガの取り分で良いんだよね? 特に決めていなかったけど、そこはみんな異存ないんだよね?」
「そらそうだ」
「私も構わないわ」
「ここまで来て売れとか言ったらコイツで脳天ぶっ叩くぞぃ」
サイオーガは破壊のメイスをウットリと撫でた。
「おい、爺さん、それどこにあった? さっきまで無かったんだが」
「儂のもんなんだから儂の道具袋に仕舞うに決まってるじゃろう」
そう。いくら治安の悪い街だからと言って、武器を抜き身でぶら下げて歩くと怒られる。
だから、お酒の追加を貰いに行ったサイオーガは、自分のものだと決まっているメイスを袋に入れて持ったまま酒場に行ったのだ。
信用のならない臨時パーティーのメンバーしか居ない場所にお宝を放置なんてしない。
「そして、二人の内のどっちか。気のつく方が、置きっぱなしの金の山を片づけたよね?」
「私ね。気のつく女だもの。その辺にあった袋に入れておいたわ」
「その辺の袋って机の上にあったやつでしょ」
「そこまで覚えてないわ。小汚いヤツよ」
皆の視線がラワーヌに集中する。
何を勘違いしたのか、フフンと髪をかき上げる。致命的にインテリジェンスが足りない。こんなだから同じ魔法使ってもニアタールと火力が違うのだろう。
「あ、もちろん美しいレイピアは美しい私の物だから、ちょっとトイレ……いや、顔を洗いに行った後は抱いて寝たわ。ほら」
ベッドの毛布を持ち上げてみせると、そこには女王のレイピアがある。
「ゲロまみれだけどね」
「なんで?! どうしてよ!」
「あなたが抱いてたからだよ」
エルフはトイレに行かないとか言う前に吐かないで欲しい。せめて気付け。
ニアタールは、悲鳴を上げながらレイピアを磨くすっぱい臭いのエルフから目をそらすと、ようやく真相に気が付き私に目を向けた。
「じゃあ、今、俺の金貨は……」
「よーせーのぽけっとー♪」
私はダミ声と共に高く手を掲げ、取り出した魔法のバッグを逆さにした。
ジャラジャラとこぼれ落ちる呪いの黄金。
「結局おまえが隠し持ってんじゃねぇか!」
人聞きの悪い。袋は当然私のモノだし、その中に金を入れたのは私じゃない。夜中に目が覚めたら私の取り分だけ机の上に残されていたら、そりゃ仕舞うに決まってる。
それに、無いと言い張ってニアタールが借金取りに捕まるまで逃げ続けて、そのままお金は自分のモノにしたって良かったのだ。私にはそれが出来たし、しらばっくれ通す覚悟もあった。
わざわざ教えてあげたのは。
「ね、このメンバーでさ、もう一稼ぎ。しようよ?」
儲かるから。と言うこともあるけど。
相性が良かった、この一言に尽きる。
ニアタールはきっと自分が損していることに気が付いても居ない。
サイオーガもラワーヌも私も、高額な宝物を手に入れたので『お金を受け取る権利を放棄して、現物を得た』のだ。
割り切れない端数や小銭から出した、ロイヤルスイート宿泊代と、酒代。これはニアタールの奢りに他ならない。
「儂も賛成じゃ。また美味い酒を飲みたいからの」
「私もいいわよ。結果論だけど生きてるし」
私たちはきっと相性が良い。
探偵による一人称は珍しい、という感想を耳にしましたが、
探偵で犯人というルール違反でございました。