山分けの謎・出題篇
迷宮都市アザナエル。
ここは、過去に地上を滅ぼしかけた魔王を物理的に封じた地下10層の地下墳墓と共に栄える街で、多くの食い詰め者や力自慢があつまり、消えていく。
なぜなら、命をチップに一攫千金のギャンブルができるから。
つまりは、ダンジョンで荒稼ぎ!
『単独生還者』という二つ名で呼ばれる腕利きの私は、今回もこのギャンブルに勝ち、盛大に飲もうという所存であります。パンパカパーン!
もちろん一人で迷宮に入るのは危険なので、即席でパーティを組んだよ?
即席とはいえ、共に大勝ちした仲間だ。
だから、私たちはお宝の山分け作業を兼ねて、ロイヤルスイートの部屋を借りて祝杯を挙げる事にした。祝いの酒は金に糸目をつけない。
ギャンブルの勝ちの条件。金になるのは『呪いの黄金』だ。
大地の奥底を流れる龍脈の精力と、未だ死せずに血を流す魔王の血が混ざると、なぜか黄金として結実する。この金の欠片を喰らった虫や小動物は化物に成り果て、魔王の意思に引きずられて地上を目指すのだ。人を害する為に。
そんな化物から呪いの黄金を、そして先達の遺体からは装備品を回収して生きて帰れば勝ち。死んだら負け。それがギャンブルのルールだ。
このギャンブルにのめり込んだ人でなしが、私達『迷宮探索者』というわけさ!
そして今回、見事に迷宮で大儲けをしたイカレタ奴らを紹介するよ。
「エルフの女性で魔法戦士、ラワーヌ!」
「なによ、急に」
金の髪を高めの位置で結った細身のエルフが振り返る。魔法使いに向いた種族と言われる知性に優れたエルフだが、なぜか彼女は魔法使いではない。何かが足りないのかな。
「次にドワーフの司教のサイオーガ!」
「なんじゃ、鑑定の必要な品でもあったか?」
彼は多くの魔法を知る上に、品物の目利きができる。
迷宮から見つける品物は壊れていたり偽物だったりする事が多い。そんなガラクタから金目の物だけ持ち帰るために彼の鑑定眼は大いに役に立った。ただ、魔法使うところ一度も見なかったなぁ。
「狼獣人で魔法使いニアタール!」
「獣人の魔法使いがそんなにおかしいか?」
彼はラワーヌとは逆に、肉体能力に優れた種族なのに魔法職。頭いいんだね。ひ弱くない魔法使いなんて完全に上位互換だよね。それなのに仲間が見つからなかったみたいだから、たぶん性格とかに問題があるんだろうね!
「そして私こと、妖精族の罠解除士リッカ!」
「罠解除士? 盗賊でしょ?」
口の悪い輩は盗賊なんて呼ぶ。
泥棒と言えば迷宮探索者は全員泥棒だけどね。だって、迷宮にある物を勝手に奪っているのだから。
その中でも鍵開けや罠解除技術に優れた腕利きは、なぜかスリや空き巣の経験者から出てくる事が多い。
その上、自分でいうのもナンだが、妖精族は好奇心を抑える事が苦手で……法の壁を飛び越えがちだ。私はやらないよ? たまにしか。
だから罠解除技術を持つ妖精なんて、警戒されて当然なのだ。まぁ仕方ないけどね、何しろ私は腕がいい。罠解除の最前線に居ながら一度も死んだ事が無いのだから。
罠の解除にはよく失敗するのだけど、身体が小さいから毒の矢が当たらないし、いつも浮いているから落とし穴にも落ちない。後ろにいる仲間はよく被害に遭うけど、みんな運が悪いのかな。
話を戻そう。この三人と迷宮に挑んだのは大成功だった。以前に組んでいた相棒達は何だったのかと思う程の大戦果だ。売って等分に分ければしばらく遊んで暮らせる財宝だ。売らないけどね、価値あるマジックアイテムは自分で使う方がいい。
私は少し前までは腕利きの剣士キッツとコンビを組んでいたのだけど、彼は罠に呑まれたので代わりの仲間を探していたんだ。
ラワーヌ達も似たような物。お互いに街で見かければ挨拶程度はする仲だったのだけど、組んでみたら良く噛みあった。
前衛がラワーヌしか居ないのは不安だったけど、代わりに火力は豊富だった。当たるを幸い、出会い頭に魔法をぶっぱなし、皆殺しにして大儲け。やめられない。
地下を闊歩する化け物どもの抱える宝物。それは魔物の命を維持する依り代であり、魔力と欲望の収束具である呪いの黄金。こいつは、地上に持ち帰れば金貨の材料として良い値段で換金できるんだ。
アザナエルの入街料は無料とはいえ、出るときには馬鹿みたいな税金を取られるし、成功税や生存税もゴッソリとられるからパーッと街の中で使った方が得。
だから、戦利品を山と積み上げて大いに飲んだ。記憶が飛ぶくらい飲んだよ。
・山積みの黄金片、金貨二千枚分。
・トゲトゲの付いた打撃武器、破壊のメイス。
・魔法付与された細身の片手剣、女王のレイピア
・空間拡張付きの魔法のバック
主な戦利品はこの四つ。
黄金片はそのままお金になる。魔法を覚える為に借金したニアタールは黄金の山に鼻先を突っ込んで大笑いしていた。
破壊のメイスは魔法を温存したい司教や僧侶にとっては垂涎の装備品だ。私には持ち上げることも出来ない程重いけど、『人を傷つける為の刃を持たない』という宗教上の戒律を満たす片手武器としては最高の物らしい。刃が付いてなくてもあんなもので殴られたらオーガだって頭がザクロみたいになると思うけどね。私だったら一撃で挽肉だよ。
女王のレイピアは、女性にしか手に取れない性別制限の呪いが掛かっているけど、軽戦士にとっては理想的な武具だ。なにせ軽いし魔法の加護で壊れない。魅了の追加効果を発揮することもあるらしい。あと見た目が派手で偉そう。
そして魔法のバッグ。これは誰だって欲しいマジックアイテムだ。商人なら荷物を運べる量が増えるし、迷宮探索者なら食料や戦利品が沢山持ち運べる。
ただ、この魔法のバッグすこし性能が落ちる二級品。あまり良い物じゃなかった。背負い袋二つ分の荷物を詰め込めるという、そこそこの容量をもつのだが、重さはそのままなのだ。
性能のいい魔法のバッグは、中に詰めたものの重さを消すとか、馬車一台分の容量があったりとか、凄いのだけど、今回見つけたものはそこまでじゃないランクの物。
しかし、私にとっては違う。
さっき説明した『妖精族が警戒される理由』は、実はもう一つある。
妖精族には固有の魔法があるのだ。
『妖精のポケット』という魔法は、水袋程度の大きさの物を亜空間に収容する魔法で、ほとんどの妖精族が使えるし重さも感じない。
この固有魔法がないと子供の人形サイズしかない妖精族にはナイフすら持ち歩けないから、必須と言ってもいい。妖精のポケットがなければ、金貨も両手に抱えて二枚が限界だもの、買い物なんてできないよ。
だというのに、大抵のお店では妖精族が入店すると視線を外さない。貴族なんかは近寄らせもしないらしい。酷い。
何をポケットに入れているかは、どんな魔法を使っても覗けないし、警戒されるのもわかるけどね。自己申告を信用してもらうしかないのだから。
物語に伝わるように、妖精を信用した者の末路なんてロクなもんじゃないしね☆
この、世間でさんざん警戒されている妖精のポケットだけど、実はたいして量は入らない。だけど、この魔法のバッグは結構小さい。バッグごとポケットに入るので、これは便利になる。いろいろと。
どれも今後の生活……いや、探索が便利になる最高のお宝でしょ?
数時間後、部屋はオークの巣穴みたいに荒れていた。酒とこぼれた肉の脂身が冷えて固まり、ベッドにはエルフの寝ゲロ。床にはドワーフ。馬小屋より酷いね、アハハ。女将さんに叱られる前に掃除しなきゃ。
いやぁ、宝の山を眺めて飲むお酒は最高だったね。みんなずっとにやけてた。黄金片だけを金貨に換金し山と積む。その隣にメイス、レイピア、魔法のバッグ。
多少の使用感があるのでピカピカというわけにはいかないし、返り血とかも拭き取ってないけど、宝物の価値に変化はない。これだけの宝を一度の冒険で手に入れるなんて、私たちは特別な存在なんじゃないだろうか。
そんな事を思いながら甘い飴玉を口に放り込む。ほんのり甘い。
ワインの質が悪いからね、ハチミツとかを足さないと飲めた物じゃないんだ。こればっかりは仕方ない。
戦利品にはボロボロの鎧や短剣もあったけど、二束三文で振り払って飲み代の足しにした。四人で借りたロイヤルスイートルームの代金と、樽で空けた安酒の代金を払えばちょうど消える。宝物を四人でわけたら明日からまた一文無しだ。
「またこのメンバーでパーティを組めたらいいなぁ」
そんな想いと共にその辺を適当にかたづけてトイレに行くと、サイオーガのビア樽のようなお腹の上で二度寝する。
さらに数時間後、このフワフワで幸せな気持ちは二日酔いと共に吹き飛ばされてしまった。
夜が明けた時、机の上には何も無かったのだ。
「あの金どこだよ! 次の新月までに借金を返さないと暗殺者が来るんだ、出せよ!」
「自分で仕舞ったんじゃないの?」
「俺がくすねたと言いたいのか! 今起きて金貨が無かったんだぞ!」
酒で濁った頭にニアタールのワンワン吠える声と、ラワーヌのキンキン声が響く。
「まぁ、まて。何か盗られたのか? わしらは全員寝ていたんだ。外部犯の可能性もあるから盗賊ギルドに問い合わせよう」
「迷宮内ならともかく、宿の中で盗みなんかやらかしたら戦争だろう。この宿だってギルド直轄なんだ。そんな手癖の悪いヤツはギルドにいないだろう」
目をこすりながら起きてきたサイオーガののんきなセリフに、ニアタールが食って掛かる。どうでもいいけど魔法使いの癖に盗賊事情に詳しいな、こいつ。
そして二人とも私の事をジロジロとみている。ほら、これだ。手癖が悪いって言うとすぐ妖精を見る。
「私の『ポケット』には、あのメイスとか入らないでしょ」
「でも魔法のカバンなら入るっていってたじゃないか」
「カバンは入ったよ。でも他の物が入って無い事を証明する方法があるなら、教えて欲しいんですけど~」
血走った目で叫ぶニアタールがウザい。
「まぁ、待て。ワシは一度お代わりを貰いに行ったがその時は金貨が山になってたぞ。出しっぱなしで」
「あんたの足音は重いからわかる。ドアは三回開く音がしたが、最初にあけたのがあんただった」
「凄いね、そんなのわかるんだ」
「獣人の耳は地獄耳なんだ。それよりお前も盗賊ならそれくらい聞き分けろ」
わんこの耳と一緒にしないで欲しい。しかし、サイオーガの後に二回誰かがドアを開けているって事か。そのうち一回はわたしだけど。
「ラワーヌは最初に呑み潰れてたよね」
「潰れた振りだったのかもしれない」
「そんな詰まらぬ事するか! 自分の分け前以上の物に手を付けるような事はしない!」
「トイレにはいったの?」
「エルフはトイレにはいかない。ちょっと顔を洗いに外に出たが」
妙なこだわりのエルフだ。妖精は本当にトイレ行かないけどね。
ニアタールが言うにはドアの開いた音は三回。
ラワーヌが最初に潰れた。そのあとサイオーガがドアを開けた。この時はまだ金貨があった。次にラワーヌか、私がトイレに行った。最後に朝になってニアタールが金貨が無い事を目撃した。
みんなの証言が正しいとしたら、だけどね。
「妖精が居る時点で、全員の荷物の確認とかは意味ないものなぁ。自分で仕舞ったんじゃ無いのか?」
「ワシもあんまり荷物の確認とかはしたくないのぅ。いろいろ明かしたくない手の内もあるのでな」
「誰も持ってなければコイツが犯人だろ、金貨出せよ!」
「外部犯の可能性は?」
「窓が開いたらニアタールが判るじゃろ」
このままでは私が犯人にされてしまう。
皆の証言を時系列に整理し、不審な点が無いか考える。そして私は一つの思い込みが皆の目を曇らせている事に気が付いた。
「あ、私、わかったかも?」
「おい、なんだ、どこにあるかわかったのか?!」
私はニンマリと笑って、スカートの裾を翻し、鱗粉を輝かせてくるりと回った。
「さて、探偵妖精リッカの華麗なショータイムといたしますか。犯人は、この中にいる!」
この段階で、金貨のありかと、犯人についてヒントは出したつもりです。
作者の拙い書き方でアンフェアになっている点あると思いますが、ぜひとも感想欄で
「犯人はお前だ!」とやって下さい。