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手詰!万策尽きた

 「ええいこなくそ、押すも退くも出来ん!」


 レーザーネットによって四肢を拘束され、自由を奪われた遊馬にワスプのレイピアが迫る。


 「くっ・・・そうか、盾を離せばいい!」


 シールドから手を離すことで一時的にフリーになった右手で、腰にマウントされたナイフを抜く。


 「うぉおおっ!」


 返す手でナイフを振るう。遊馬はまともに当たるとも考えていなかったうえに、武器の質の差は歴然としている。だが刺突に特化したレイピアの脇腹に、アーマーを切断できる超振動ナイフの刃が当たったということは、じゃんけんでチョキに対してグーを出したようなものだった。


 『なんだと?!』


 「やった!?」


 ワスプのパイロットも驚愕しただろうが、そこに一瞬のスキが生まれた。レーザーネットをナイフで切り拘束を逃れると、檻に開いた穴から脱出する。


 『おのれっ!』


 「わわわっ!」


 壊れたレイピアを捨てて、ワスプは掴みかかってくる。遊馬はナイフを振るって牽制する。


 「格闘戦のプログラムは・・・。」


 一通りの戦闘術はコンバットメモリーに登録されている。これがあるからド素人の遊馬にも戦闘っぽいことが出来ていた。


 「なっ?!メモリーディスクが溶けてる!」


 フイッチを押してもエラーを吐くばかりなので挿入口を見てみれば、金メッキの電子部品が焼けついていた。これでは三輪車を卒業したばかりの小学生がいきなり補助輪を外されて、車がビュンビュン走る国道を走らさせられるようなもの、命を捨てるも同じだ。


 「ウヒーッ!」


 『逃がすかッ!!』


 ペダルを踏みこんでバーニアをさらに吹かすと、脱兎のごとく駆けだした。右へ左へ、身じろぐように体を振って逃げる行先を変えて、フェイントのつもりだが、ワスプはそれを意に介さずに最短ルートで追い詰めてくる。

 

 「そうだ!」


 このままではいかん、と無い知恵を絞って考えた策、それはさらなるフェイント。一旦機首を上にして上空を目指す。


 その上空にも無人機が陣を張っており、同じく逃げ場はない。空中でターンすると、今度は海面に向けて急降下する。


 「海面スレスレでターンして、水面に叩きつけてやる!」


 まっすぐ追ってきてくれるなら、それも可能だったろう。だがそんな猿知恵に引っ掛かるほど、ワスプのパイロットはお幼稚ではない。


 というかそもそもそんな急ターンできるほどの技量もないことに気づいた時には、海面まで10mもなかった。


 「やっぱ無理ィ!!」


 『なにやってんだアイツ。』


 瞬間、海面から白い水柱が上がった。


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