雀蜂!アナフィラキシーショック
ついにユニークアクセス1000を突破、ありがとうございます。ハーメルンで先行して投稿している(修正前)の方ももうじき20万字を越えるので、ひとつの節目かなと思ってます。色々と疲れて牛歩になっていますが。
『遊馬君、本当にいいんだな?』
「準備OK、いつでもいけます。」
『そうではなくて・・・キミがリスクを負う必要はないのだけれど?』
「もう、覚悟は決めました。」
『そうか・・・ならば頼んだ。』
そこで通信を一旦終えた。ライトレベリオンのコックピットで、遊馬は大きく深呼吸するとレバーを握りなおす。
『フォースゲートオープン!フォースゲートオープン!』
『カタパルトに進んで!』
「はい!」
『いいか、武器は壊してもかまわん!司令が新しいの買ってくださるそうだ!生き残ることを最優先しろ!』
「ありがとうございます!」
今更歩を進めることに躊躇はしない。カタパルトの上に踏み込むと、脚部がロックされる。
『グッドラック!』
『幸運を!』
『気を付けて!』
格納庫のメカニックさん、司令室のオペレーターさんらの声を背に受けて前を向く。エレベーターを上がり、ハッチまで上がってきた正面には、今まさに攻撃を受けている外の様子が見える。
『3.2.1.ゴー!』
「えと、片桐遊馬、ライトレベリオンで出まぁああああ!!」
一度言ってみたかったセリフが、喉から半分出掛けたところでカタパルトに射出され、喉奥に引っ込んだ。
「本当に大丈夫かあれ。」
「お前が後押ししたんだろう?」
司令室のモニターで、息子の旅立ちを見送る親あり。
何故こんな展開になったのかというと、話は10分前にさかのぼる。
敵の狙いはまあわかった。それに対抗する策も用意できているので楽勝かと思われた。
「司令、新たな敵機の接近を確認!」
「レベリオンか!位置は!」
「上です!」
直上、砲塔の死角となる場所に一機の人型兵器の影が佇む。黄色と黒の警戒色がシンボルカラーのようだ。スカートのような腰の鎧がどこか女性的な印象をもたらしながら、大型のアンテナがまるで昆虫の触覚のようでもある。
「ハチ?」
「ハチだな。」
「対象機から、誘導電波を確認。」
「ヤツがこの無人機を操っているのか?」
その問いに答えるかのように、触覚アンテナの先端が明滅すると爆撃の波状攻撃が始まる。
「おいぃ?!さっきより苛烈になってるけど、本当に沈まないんだろうな?」
「沈みはしない・・・。」
『敵機の照合が完了!あれは『ワスプ』です!』
「情報回せ。」
『BT-16 ワスプ』が正式名称。無人機を満載した輸送機『ハイヴ』を背負い、そこから出撃させられる無人機を操作する。その名の通り、ハチのような機能を持っている。
「ワスプには情報戦に強い機能もあるようだが、反面武器はニードルガンのみで接近戦には弱い設計のようだな。」
もっとも、こちらには接近戦できる戦力が現状無いに等しいが。
「システム復旧率はどうなってる?」
『現在92%、まだ20分はかかります。』
「敵の狙いは一点集中で穴を開けることだ。前進して少しでも狙いを外させろ。」
それでも、高度に統率のとれた無人機軍には効果は薄い。ネプチューンの対空砲火を巧みな編隊飛行でひらりひらりと躱し、的確にブリッジ上に爆撃を加えてくる。
この状況下にあってもクリス司令は冷静な顔を崩さない。時間が経つまで解決策が無く、諦念しているわけでもないだろうが、時折遊馬の事を見ている。
そのことに気づかない遊馬でもない。今遊馬に出来うること、それは・・・。
「司令。」
「なんだね?」
「僕、戦います。あのライトレベリオンに乗って、出撃させてください。」
「遊馬、一体何を言ってる?」
「このまま待ってても、埒が明かないと僕は思い始めた。ならいっそ、こっちから打って出るのも。」
「残念だけど、それは愚策だよ。守りを固めているだけで、最大限のリスクを抑えられる。防御を捨てて打って出るというのは勇み足だ。」
「けど・・・。」
「キミはアマチュア、戦闘はプロに任せたまえ。」
厳しくも、正しく諭してくる。
冷静に考えれば、それは正しい。いかにシミュレーターで好成績を出したと言っても、遊馬はどうあがいても素人。出て行ったところで落とされるのが関の山。出ていく理由がない。
クリス司令の言う通りだ、バカな考えはやめよう。不安に駆られての軽はずみな行動が、大きなほころびを生む。そうなっては敵の思う壺だ。
果たしてそんな不安に至った原因は・・・。
「他に何か不確定要素があるんじゃないのか?」
「・・・言っただろう、この攻撃そのものが陽動だと。だとすれば、これ以外にも何か狙いがあるんじゃないかと、思い始めている。」
攻撃が明らかに単調だ。座して待つだけで勝てるほどに・・・。
「他の可能性を考えると・・・。」
クリス司令は、そこで初めて冷や汗をかいた。




