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胃痛!クリス司令はストレス過多

 遊馬が小さくも大きな勝利を得てしばらくして。ネプチューンの司令室で難しい顔をしたクリス司令は嫌な物を感じ取っていた。


 『潜水システム、チェック率80%。』

 「予定終了時間は?」

 『あと2時間です。』

 「少し急がせろ。雲行きが怪しくなってきた。」

 『了解。』


 かれこれ八卦島でも襲撃から5日ほど経つが、その間新たな敵の動きの情報は入ってきていない。そこに嵐の前の静けさを見た。


 「レーダーに反応は?」

 『ありません。』

 「気にしすぎじゃないか?」

 「気のせいで済むならそれにこしたことはない。」

 

 むしろ何も起こらないことに苛立っているクリスを諫めるように、のほほんとした様子の遊馬の父・和馬が司令室にやってくる。


 「だが気を張り過ぎると、いざというとき空回りするぞ。コーヒーでも飲んで。」

 「・・・いただこう。」


 和馬が持ってきた缶コーヒーの栓を開けるとグイッと呷る。


 「もうちょっと味わって飲めばいいだろう・・・とは言っても、そう落ち着いていられないのが親心か。」

 「っぷはぁ!別にあの子たちの事は心配していない。」

 「ホントぉ?」

 「あの子たちは優秀だ。我らヘイヴンが誇るディーヴァたちに、失敗はない。」


 それだけの実績があり、信頼がある。


 「そう思うんなら落ち着けよ。司令官がそんなんじゃ部下にも示しがつかないだろ?」

 「知っているようなことを言うな。」

 「何回も書いてるからな、そういう話。」

 

 司令官は部下たちを信頼し、作戦にゴーサインを出し、重鎮としてふんぞり返っていなければならない。少なくとも和馬はそういう脚本を書いてきていた。それを守れないやつは総じて未来あるまだ未熟な若者か、これから死ぬやつだ。


 「それは私もまだ青いということか。」

 「ポジティブに考えるんだな。」

 「私はまだ死ねん。」

 「なら賢くなれ。」


 実際死なれるとネプチューン乗員、および御客人の遊馬と和馬全員が困る。


 「わかったわかった、一旦落ち着くとしよう。」

 「そうだろう?司令官ならドーンと椅子に座っていればいいんだ。」

 「最近腰が痛くてな、マッサージチェアを買おうと思ってる。」

 「娘がプレゼントしてくれるといいな。」

 「子供からたかれるか。」

 「ウチもはやいとこ独り立ちしてほしいものだ。」

 「私の見立てではキミの息子は大人物になるよ。」

 「欲しい?」

 「素人はいらないな。」

 

 いかに名軍師と言えども、素人を扱うのは難しい。一から教育するというのも骨が折れる。その点、自分から進んで学んでいってくれる遊馬の姿勢は好ましい。これで経験をある程度カバーできる『才能』もあれば言う事なしなのだが。まあ、それは高望みというものだろう。


 そんな学徒徴用に期待するようでは末期も末期、司令官のみならず組織そのものが終わりが近いとしか言いようがない、


 『!未確認飛行物体の接近を確認!』

 「なに!?数は!」

 『20・・・30・・・かなりの数です!』


 レーダーの一角から、敵機を表す光の点が次々と現れる。


 「望遠鏡の映像は!」 

 『今出ます!』

 「戦闘機か?」

 「そのようだ。あれは無人機だ。」


 キャノピー、つまりはコックピットのついていない鉄の鳥の群れが、雲の向こうからやってくる、


 「潜水システムは!」

 『あと30分はかかります!』

 「やむを得ん、迎撃する。対空砲用意!」


 ネプチューンは単独で動ける基地、あるいは空母としての役割を持っている反面、戦闘能力には乏しい。せいぜい防衛用の豆鉄砲がついているのが関の山だ。


 (やはり位置がバレていたか。敵もレベリオンを出してこないとは限らない・・・守り切れるか?)


 せめて潜水さえできれば逃げ切ることも容易だが、敵もこの機を逃がすはずがないだろう。


 (メンバー全員が出払っているタイミングで、潜水システムのメンテナンスが必要になるというのは、なんたる不運、いや采配ミスだ。なんとしても切り抜けてやる。)


 「逃げていい?」

 「ダメだ。」

 

 避けられるべきリスクは避けるのが常だが、どうしようもないこともある。そういう時こそ、司令官の手腕が問われるというもの。和馬の襟首を掴みながら、クリス司令のハートは逆境に燃えていた。

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