提案、新開発
【QUEST CLEAR】
ランクC:宇宙の大掃除
『あそこまでやってランクC?』
「オービタルリングの内側しかやってないからね。」
地球圏全域を片づけなければA評価貰えないとすると、これは相当キツいサブクエストに違いない。ただいつでも辞めれるのが幸いだ。タイムアタックなら何もせずに即終了だ。
『それで、これでどう変わるんだ?』
「ちょっと待ってね。確認してくるから。」
徐にゲームPODネクスを取り出すと、電源を切って元の世界へと帰る。まだシャワーを浴びたばかりの髪が湿っている。
「さて、今度はどう変わったかな?」
予想が正しければ、現実ではスペースデブリ撤去運動『地球を綺麗にしよう運動』は施工されていないはずだ。なにせ、向こうの世界でデブリはある程度撤去されているから。
「なるほど・・・。」
「キャンペ-ンが施工されなかったら、ウラヌスがカムフラージュしてるデブリが取り除かれる心配もないということだ。」
「たしかにそんな名前の運動は施工『されていない』ですね。」
「やはり、サブクエストで起こったことは過去の出来事となるのか。」
この現実での2年前にあったバミューダの襲撃も、ゲームの世界ではサブクエストのうちのひとつだった。
「けど、せめて一言連絡してから実践してみてほしかったですね。」
「ごめんなさい。」
ホウレンソウは仕事の基本だ。勝手に行動するのはマズかろう。
「でもまあ、おかげでウラヌスが見つかる可能性は下げられました・・・現実が書き変わった瞬間を見ていないので、確認のしようが無いのですけど。」
「うーん、貢献できたのかな?」
遊馬は『結果』の瞬間を見ていないし、他のみんなは『書き換えた』ことを知らない。この行動はなかなか難しく、むなしい。
それに、結果を予測するのも少し難しいかもしれない。今回の場合はある程度目ぼしをつけていたがバミューダの時のように全く副次的な要素が表に出る可能性もある・・・。
「今度からは連絡を忘れないようにしてくださいね。」
「はーい。」
ともあれ、ひとつ確認と報告をすませてゲームの世界に戻ろうとしよう。
「ただいま。」
『おかえり。』
『どうあだった?』
「考え通りだった。」
オービタルリングのステーションに帰還しつつ、事の顛末を説明した。全員納得してくれたようだが、美鈴だけは上の空、というか放心状態で聞いていなかった。
「美鈴、大丈夫?生きてる?」
「・・・星が揺らいで見えますわ。」
『目が回っちゃったかな?』
「エルザが飛ばし過ぎるからでしょ。」
『てへへ。』
「その姿でテヘペロされても恐ろしいだけだわ。」
あっそ、とエルザもカサブランカから少女の姿に戻る。
「しかし、結果を予測する必要があるとはいえ、現実を改変出来るのは強みだね。うまく使えないかな。」
「むしろ、そのせいで現実がおかしくなったのかもしれないけどね・・・。」
「ニワトリが先か、タマゴが先か。」
ゲームの世界があったから現実がおかしくなったのか、現実がおかしいからゲームの世界があるのか、どうやらこのパラドクスは思っている以上に複雑怪奇らしい。
まあ、今更そんな問題を論じたところで大した意味がないが。
「下手にサブクエストをこなすと現実が変わっちゃうし、メインクエストもしばらく発生してないし、だんだんこっちでやれることが少なくなってきたな。」
製作者がバランスを見誤ったせいだ。例えば、等身大のキャラクターしか入れないダンジョンで、巨大な味方との戦闘を前提とした強さのボスを置かれたような・・・。
「あっ、こっちで強力なロボットを作っておいて、後で現実の方で回収するってのはどうだろう?」
「ナイスアイデア!それならこっちのヒマも潰せる。」
「いいのかな?現実のパワーバランス壊れちゃうよ?」
「うーん・・・まあ設計するだけならいいんじゃない?」
「やったー!科学者の血がうずく!」
トビーは特に楽しそうだ。専攻は生物学だったはずだけど。
でも自分専用のロボットってちょっと憧れる。ミサイル、レーザー、ロケットパンチ。色々な武器を装備させたい。
「カサブランカにはそういうの乗ってないんだよなぁ。あ、リオンフォンならあるけど。」
「内蔵武器は非効率的だと思うのだけれど?手持ち武器があれば十分よ。」
「最大の武器が拳のロボットは言う事が違う。」
普通ロボットのマニュピレーターというのは精密機械なんだけれど、レベリオンの場合は一番硬い部分らしい。
「まずカサブランカのデータから、そっくりなコピーを作ってそこに盛っていく・・・としようか。」
「すでにやる気なんだなお前は。」
設計するだけって言ったのになぁ・・・ともかくトビーが楽しそうにデータ端末をいじり始めた。
「けど、材料はどうする?」
「どこか、ありそうな場所に心当たりある?エルザ。」
「うーん・・・火星ならあるかもしれないけど。」
「火星か・・・。」
火星にはアダムの基地もある。そこでレベリオンが作られたのだから、当然新しく作る設備もあるだろう。
「じゃ、次の行先は火星ね。ラッピー、ロケット出して。」
「らぴ!」
「もう行くことは決定事項なのか?」
「まあ、いずれ行くことになるのは確かだろうけど。」
多少一足飛びすることも出来るのがラッピーがいることの強みである。
「まあ、がんばって。僕は現実に戻るから。」
「おう、うまくやれよ。」
「そっちも、気を付けてね。」
火星までの距離は最短でも5500万km、最接近した距離で8000万kmもという、途方もない距離だ。まあワープに等しいラッピーのキャロケットなら一瞬で着くだろうけど。
またクエストが発生したらこちらに来よう。現実の方ももうすぐ軌道エレベーター行きの列車が出発する頃だ。それを見送ってから、こちらにまた戻ってくるとしよう。
「あ、ちょっと待った遊馬。」
「なに?」
「アレだけ見とけ。」
「アレって?」
窓の外を見ると、ゆっくりと漂っている白い羽のような物体が目に入った。
「レイの宇宙船か・・・。」
「・・・あんな戦いがあったことが、もうずっと昔のようだね。」
そっと目を細めると、窓越しに手を添える。白い墓標は宇宙を漂っていく。
(・・・忘れない、あの悔しさも哀しみも。)
今一度、遊馬はこの世界を遊び尽くすことを誓った。




