発見!忘れられた箱舟
今回で一つの目標だった10万字を突破した、ハズ。これもみなさまの応援なってのおかげ、ありがとうございます。
舞台は戻って、真空の宙。レールに沿って上へ上へと昇っていく箱がある。
「そんなことがあったのか・・・。」
「結局お前のお父さん何者なんだ?」
「知らない。」
明らかに超常的な表現が散見していたが、それも『脚本家』の力だというのか。
「スゲェな脚本家。」
「でも監督やプロデューサーには勝てない。」
「悲しいな脚本家。」
本当にそうなのかは知らない。ただ父さんはよく悩まされていたと聞いている。
「ともかく、その時に雄二の願いに紛れ込んだのが『復讐心』だと?」
「うん、そうかもしれないって言ってた。自分たちを利用してきた者たちへの憎しみ、怒り、そんなものが一瞬頭をよぎったって。」
「憎しみ・・・。」
それが復讐の黒い花を咲かせた。そしてそこが世界の始まりだった。
「そのツケを払うために、雄二は俺達と戦ったと。」
「そう、そして私の意識が込められたカセットをあなたに託したというわけ。まさかこんなに早くクリアしてくれるなんて、思ってもみなかったけど。やはり彼の言った通りに、名プレイヤーなのね。」
「そんなに褒めるな。」
本当ならもうちょっと楽しみつつプレイするのだが、今回はその暇もなく最短ルートでクリアしてしまった。旧ゲームPODのソフトなら、そんなにやり込み要素は無いと思うが、本当なら徹底的にやり込むのが遊馬のプレイスタイル。
「じゃあ、エルザは何を願ったの?」
「私は・・・そうね、穏やかな世界かしら。それに・・・・ちょっと恥ずかしいのだけれど、雄二との約束が叶う未来を。」
「約束?どんな?」
「この戦いが終わったら、結婚しようって・・・うれしかった。」
典型的な死亡フラグのセリフだ・・・と思いつつもそんなことは口にはしない。きっと本当に嬉しかったろうに。
「じゃあ、このブーケも?」
「それはきっと、雄二が願ってくれたものね。」
「じゃあ、これはお返ししますわ。」
「・・・いいの、今はあなたが持っていて。あの人から直接渡されない限り、受け取れないわ。」
エルザは、差し出された花束をそっと返した。生花でありながら、そのブーケは未だ生き生きと芳しい香りを発している。
「結婚か・・・いいもんだね。」
「そんな未来が来るように、私たちも頑張りますわ!」
「ありがとう・・・。」
意外にもトビーが反応を示した。
『お知らせします。まもなく、オービタルステーションに到着します。シートにお戻りのうえ、シートベルトをお締めください。繰り返します・・・。』
「到着か。」
「さあさ、行こうよオービタルに。」
特に道中は何の問題もなく、目的地のオービタルリングに到達した。エレベーターシャトルから降り、施設内部へ移動するとそこには重力があった。
「さて・・・ここで何をするんだ?」
「少し調べたいことがあるの。カウンターウェイト以外にも、この宙域にはクラックがあるかもしれない。それを先に閉じておきたいわ。」
「なるほど。」
まずは敵の湧きつぶしだ。それに、正規ルートから入ったことでイベント進行フラグを踏んだかもしれない。前来た時とは何か変化があるかもしれない。それはそれでなかなか面倒くさいが。
「うわあ、ここは特に破壊されてるわね。」
「バミューダのせいだよ。」
一番上の指令室にまで来た時、エルザは飽きれたように言った。部屋はメチャクチャになっており、調べようがない。
「すこしここでも調べごとがしたかったのだけれど、ここまで破壊されていちゃあね・・・。」
「何を調べるつもりだったんだい?」
「バルアークについてよ。本当に破壊されたのかどうか、どうしても気になって。」
画面の消えた機械をいじってみるも反応はなし。
「実際に望遠鏡か何かで探すしかなくない?火星の方向でしょ?」
「天体望遠鏡でも難しいでしょうね。」
「一応望遠鏡はついているのよこの施設。ただ、ここからそれを確認できないだんとすると・・・。」
「実物の場所さえわかれば、動かすことは出来ると思うけど?」
「さすがトビー。メカニックは一流だね。」
「メカニック『も』一流なんだよ。」
「施設の外に出るなら、宇宙服や宇宙船も必要になるんじゃないのか?」
「それもステーションにあると思うわ。行きましょう。」
そうと決まれば話は早い。以前に停泊するのとレイの見送りに使った宇宙港へと今度は移動する。
「美鈴ちゃんは私に乗って、他の3人は作業用ポッドに乗って頂戴。」
「ゲームセンターみたいだな、楽しそう!」
「まるで空飛ぶ棺桶だな。」
その呼び名で間違いないだろう。カサブランカのやられ役として活躍していたのがこの作業用ポッドを武装した『ドラムガン』だった。その名の通りドラム缶のような姿をしている。
「うぇーい!」
「らぴっ!」
「こら、遊ぶんじゃねえ!」
「なかなか楽しいねこれ。」
ともあれ、その分操縦も簡単だった。簡単に操縦訓練をすると、カサブランカが先導していく先についていく。なお、ラッピーはまたアストロノーツで活動している。
「これだよ、これが宇宙望遠鏡。」
「へー、ハッブル望遠鏡みたいなもんかな。」
「いいから早くアクセスしろよ。」
「待ってて待ってて。」
目的地にはすぐに到着する。この宇宙望遠鏡で、遥か遠くの宇宙を見張っている。
「タタタ、ターン!と出たよ。」
「でかした。」
「どれどれ・・・。」
トビーが操ると通りに宇宙望遠鏡は動き、火星方面にズームインするとその映像を各員の手元のスクリーンに映される。
「へぇ・・・これもリアルだな。」
目に飛び込んでくるのは、瞬く星々の光、渦巻く銀河、広がる星雲。仮想とはいえ、本物の宇宙がそこにはあった。
その光のスクリーンの中、映る異物。
「・・・これか。」
「ひょっとしてこれ?」
「これだろうな。」
「バルアーク・・・。」
赤と言うよりは紅。血が酸化したかのような赤黒い色。五芒星を象ったような戦艦が、半壊しながらも辛うじて原型をとどめている。まるでそこに乗っていたものの執念が、今も漂っているかのように。
「あそこまで行けってことか。」
「うん・・・あっ、でもイベントクリアになったね。」
【ランクA:忘れられた箱舟】
破壊されたと思われていたバルアークを発見した。いや、完全に破壊される前のバルアークが、雄二の念によって再現されたのかもしれない。
「初めてA評価貰ったね。これが最善の道ってことなのかな。」
「ひとつイベントをこなしたのなら、向こうでも何かが起こるんじゃないのか?」
「そうだね・・・。一回戻ってみるよ。」
「いってらっしゃい。」
ひとつ進展したことを願い、一旦寄り道をすることにした。
『気を付けてね、あれが見つかったという事は、そちらの世界にも・・・。』
「かもしれない。」
これで何が変わるのか。それを確認するのだ。




