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第零話!真のプロローグ

悲しい時ー!(悲しい時ー!)

初めてのメッセージがスパムメールだった時ー!(初めてのメッセージがスパムメールだった時ー!)

 冷たい宇宙でありながら、燃え盛る地獄の窯の様相を見せている。そこはアダムの母艦『バルアーク』。


 そのブリッジで最後の戦いが行われている。純白のボディはあちこちが黒く焦げ、外装が剥がれて内部の機械が露出している、地球人類最後の希望『カサブランカ』。


 相対するのは、アダムのマザーブレイン。ありとあらゆる手を持って、目前の脅威を排除しようとしているが、それはいささか足りなかった。


 『これで・・・。』

 「終わりだ!」

 「『リオンフォン』!!!」


 たった今、火星で生まれ、火星を征服し、その手を地球に伸びさんとする悪魔には、死刑宣告が下された。


 『ぐぉおおおおおおおおおおお!!!!消えてしまう・・・我らの命が・・・文明がぁあああああああああ!!!』


 「消えろ!この世界!!この宇宙から!!」

 

  リオンフォン、それはカサブランカの全エネルギーを、反物質粒子砲として放つ最後の切り札。だがそれは、引き金を引いた者の死をも意味した。


 「エルザ・・・これで、終わりだな・・・。」

 『ええ、やっと・・・。』


 崩壊するブリッジの裂け目から、光の奔流が差し込む。衛星砲『トールハンマー』より、バルアークを撃墜せんとレーザーが放たれたのだ。


 しかし、それを撃った者の目的はアダムの撃滅ではなく、カサブランカの抹殺であった。それを知っていてなお、カサブランカは最後の戦いに臨んでいた。


 『付き合わせちゃって、ゴメンね・・・。』

 「何言ってんだよ、最後まで一緒だって、約束しただろ?」

 『でも、雄二には生きていて欲しかった。』

 「お前のいない世界なんて、意味がない。」

 『そう・・・ありがとう。嬉しいな、そんな風に思われてたなんて。』

 「ずっと、言ってなかったな。俺は・・・お前を・・・。」

 『ああ、私もよ・・・。』


 光が、2人を包み込んでいく。


 この日、人類を襲った悪夢は終わった。偉大な英雄を引き換えに・・・。



 

 (ここが・・・天国か?いや、それとも地獄か。)

 

 気が付くと、雄二は真っ白な空間に浮かんでいた。


 あの時確かに、自分とカサブランカはレーザーで焼かれたはずだった。だが、体に痛みはない。


 そう、あれほど神経接続の影響によって痛んでいたはずの体が軽いのだ。


 「雄二・・・?」

 「エルザ・・・エルザ!」


 そして何より、目の前にいるではないか。自身の幼馴染で、半身と言っていい存在。銀の髪をツインテールにした少女、エルザが。


 「私たち、一体どうなったのかしら?」

 「わからない。だが今はこうしてお前の顔が見れた・・・。」

 

 雄二はエルザの頬にそっと触れた。柔らかい感触が返ってくる、たしかにそこにいる。


 『待っていた、いや待たせたなと言うべきか。』


 「誰だ?」


 『シナリオライター、片桐和馬。』


 「脚本家?」

 

 そこへ突然、ヒゲ面のおっさんがあらわれた。


 「だから誰なんだ。」

 『君たちを作った者だ。』

 「つまり・・・神様?」

 『そんな大層な物ではないが、まあそんなものだ。』

 「そうか。で、その神様が何の用だ。」


 カミって割には髪が後退し始めているようだが。すっと雄二がエルザの前に出る。


 『君たちにはチャンスが与えられた。』

 「チャンスだと?」

 『君たちの物語は、ここで終わる。だが、続きを望むものたちがいる。』

 「どういうこと?」

 『つまりだな・・・。』


 『界拓機士カサブランカ』それが雄二とエルザの物語のタイトルだった。それが最終回を迎えてはや十数年、今なお続編を望む声は少なくない。


 そうして、とある事情によって和馬は『好きな作品の続編を作る権利』を条件付きで得た。だからカサブランカに話がかかってきた。


 『だがそのためには、ある条件をクリアしてもらわなければならない。』

 「条件?というか、その話に乗るかどうかも返事をしていないのだが。」

 『残念ながら拒否権は無いんだ。俺よりもっと上の人が決めたことだから。』


 冷徹に、達観したように和馬は言った。残念ながら被創造物は創造者には逆らえない。


 『仮想空間に君たちがゲームの世界を作り、プレイヤーがそのゲームをクリアできれば、そこが続編の世界が構築されるというわけだ。』


 自分たちが被創造物であるという衝撃を飲み込めぬうちに、次から次に情報が飛んでくる。


 「待って、クリア?ゲーム?どういうことだ?」

 『その名の通りだ。ゲームの名前やルールはお前たちが決めていい。ただし、プレイヤーはこっちで用意した。』

 「そいつらに、俺達の未来を任せろと言うのか?」

 『そーだ。』


 やっと戦いが終わったと思ったのに、なんか新たに厄介ごとに巻き込まれようとしている。


 「・・・ちょっとエルザと2人で相談がしたいんだけど?」

 『いいぞ。3分間待ってやる』


 どうせゲームをビルドしなければならないというのは確定事項だしな、と言った。

 

 「どうする?」

 「どうするって、しなくちゃいけないんでしょう?」

 「・・・俺はもう戦いは飽きたんだが。」

 「私も。ようやく休めると思ったのだけれど。」

 

 はてさてどうしたものか。


 『時間だ、答えを聞こう。』

 「まだ40秒も経ってないだろうが。」

 「私も。もう戦うのは嫌なんだけど?」

 『ん?別に戦うだけがゲームじゃないぞ。ストーリーの選択肢を選ぶアドベンチャーゲームというのもアリなんだぞ?』

 「それならまぁ・・・。」


 のんびりとした世界なら、まあ悪くない。


 「私、学校ちゃんと行きたかったな。」

 「俺もだ。もっと普通な学園生活をおくりたかった。」

 『なら、学園アドベンチャーゲームにするか?』


 それに、もうひとつ願いがあった。


 「火星で生まれた花の種、あれを地球に持ち帰りたかった・・・。」

 「そうだな、あれが心残りだ。地球ではどんな花をつけるのかもわからなかった。」

 『ああ、そんなのもあったな。』

 「あんたの脚本だろ。」

 『十数年前に書いた序盤にしか出てこなかった設定を忘れるなと言うほうが難しい。』


 火星で生まれた種を地球に植える、それが小さいころからの夢だった。そう思うと、ムクムクと好奇心と想像心が湧いてくる。


 「わかった、やろう。」

 「うん、今度は戦いのない世界を・・・。」

 『よろしい、ではゲーム機に祈りを込めると良い。』


 そう言って和馬は携帯ゲーム機、ゲームPODネクスを差し出してきた。


 『雄二、お前の望みを込めろ。』

 「よし・・・俺の願い、俺の望む世界・・・。」


 日の当たる花畑の世界、暖かくて優しい世界を・・・創造する。


 しかし、そこに一陣の風が吹いた。


 「これは・・・?」

 『ん、なんだ?』


 風は、炎と闇を運んできた。


 「うっ・・・これは・・・?!」

 「雄二!手を放して!」


 ゲームPODネクスからは、禍々しい闇のオーラが溢れていた。


 「これが・・・これはどういうことだ?」

 『・・・どうやら、お前が創造したときに、邪念が混ざったようだな。見ろ。』

 「そんな・・・。」


 そこは、日の差さない暗黒の世界。地上には花が咲き乱れている、だがそれは復讐のクロユリの花。


 「・・・もう一回やり直せないこれ?」

 『無理だ。脚本家にそこまでの権限はない。』

 「そんな・・・。」

 「案外ヘボいな脚本家。」

 『うるせえ!まだ手はある!』

 「どんな?」

 『そうだな・・・そうだ。もう一つ手がある。ちょっと待ってろ。』


 ガチャッと空間に出来たドアを開けて出ていくと、数十分後戻ってくる。


 『あったあったあった、このゲームカセット。』

 「『界拓機士カサブランカ』?なにこれ?」

 『お前たちの物語のゲームだ。まずこれをベースに世界を構築する。』

 「そんなことが出来るのか?」

 『ゲームPODネクスにはもうひとつスロットがあるからな、これが雄二の作ったゲームに連動するようにしておく。そしてここに、エルザの願いを込める。』


 ゲームの中で二人の思いが一つになるというわけだ。


 「よくわからんが、どうにかできるんだな?」

 『そうだ、さあエルザ。今度はお前が望め。』

 「何を望めばいいかな?」

 「エルザの望む未来だ。」

 「私の望む未来・・・。」 

 『間違っても滅びの未来とか望むなよ?』

 「しない!ていうか余計な事言わないで・・・。」


 私の、エルザの望む未来は・・・。


 ポワ・・・と今度は白い光が漏れる。暗闇に包まれた世界に、光が取り戻された。


 「なんとかなったかな?」

 「けど、花は黒いままか・・・。」

 『それに、カサブランカに登場した施設が出現したようだな。軌道エレベーターとかオービタルリングとか。』

 「じゃあバルアークも復活したのか?」

 『そこまでは言っていないな。あくまでゲームを作るのはお前たちだ。お前たちの望んでいないものは登場しない。』

 「ほっ。」

 

 もう一度アレと戦わなければならないと思うとぞっとしない。


 『ともかく、これで完成だ。あとはプレイヤーを呼び込んでゲームスタートだ。』

 「そのプレイヤーって一体誰なんだ?」

 『俺の息子だ。』

 「あんたの息子って時点でもうなんか信用ならないんだが。」

 『心配はいらない。息子はプロにも引けを取らないゲームプレイヤーだ。かならずクリアしてくれることだろう!大船に乗ったつもりでいろ。』

 「本当かよ・・・。」


 それはそれでなんだか心配になるが。


 『さあ、始まりだ。覚悟はいいか?そのゲームPODのスイッチを入れるんだ。』


 愚問だ。拒否権は最初からなかったというのに。


 だが、雄二とエルザはいつもそうだった。拒否する権利は常になかった。その力が常に必要とされた。


 ともあれ、望む未来が手に入るというのなら多少乗り気にもなる。


 「行こう、エルザ。」

 「ええ、よくってよ。」


 これは、未来を賭けた戦い。他の誰でもなく、自分たち自身の未来を掴むための。



 「さて・・・。」


 誰もいなくなった空間に和馬は1人佇む。白い地面に落ちたゲームPODネクスを拾い上げると、その場を後にする。


 「遊馬。起きてるか?」

 「なに?今忙しい。」


 そして遊馬の部屋の前に行く。戸を叩くがその反応は素っ気ない。


 「ちょっと話がある。」

 「ほっといて。」


 時間は2時。午前ではなく午後の。それも平日の。遊馬の歳ならば普通は学校に行っている時間だが、遊馬はその限りではない。


 「大事な話なんだ、聞いてくれ。」

 「聞きたくない。からあっち行って。」


 遊馬は引きこもりである。そしてそうなった原因は和馬にある。


 その自室の扉は固く閉ざされている。


 「しょうがない、コレおいてくからな、プレイしてくれよ。」

 「わかったー。」


 その場にゲームPODネクスを置いて和馬は立ち去る。


 ~半日後~


 「やってないじゃないか・・・。」


 ゲームPODは廊下に置かれたままだった。


 「こうなったら仕方がない。」


 多少強引な手段を使って遊馬の部屋に押し入ると、ベッドで寝ている遊馬の手にゲームPODを握らせる。


 それにしてもひどく散らかった部屋だ。だが、この悩みもこれで解決される。


 「スイッチ・・・オン。」


 遊馬の意識は、眠ったまま異世界へと送られたのだった。

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