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鉄火!見よ、大変身

 バエルは既に元の体躯を取り戻しており、勝負は振出しに戻っていた。第三ラウンドまではドロー、今度こそファイナルラウンドだ。


 「結局何もできなかったか・・・。」


 遊馬は酸素マスクを顔に取り付けながら、ごちる、守られてばかりだったのが、今度こそ守るって決めたところなのに、もう追い抜かれてしまった。ならせめて、足手まといにならないようにがんばるだけだ。


 『遊馬なら大丈夫だって!イケルイケル!』

 「だから、アシュリーは思いっきりやっちゃっていいよ!いや、ワクキュリア!」

 「うん!」


 気持ちは切り替わった。後は戦闘を実行するだけだ。バエルの脳髄ともいえるEAD、それを無力化させる抗体がワクキュリアには備わっている。


 「それをブチ込む方法は?」

 「あるよ!『ナイチンゲール』!」


 ラッピーポシェットから、白衣の天使の名を冠した長物が出てくる。先端には目盛りのついた注射器がついている。


 『なかなか物騒な物をお持ちで。』

 

 ナイチンゲールの穂の部分にあたるの注射器のピストンを数回押し込むと、シリンダー部分に魔力のワクチンが充填されていく。


 耳をぴこぴこと動かし、ふわりとワクキュリアの体は宙に浮かぶ。そして一瞬のうちに第1宇宙速度を突破してバエルに向けて突貫する。


 「いっけぇえええええええ!!」

 

 刺されば一撃だ。だが視界を取り戻したバエル・レベリオンもまた身を翻して躱す。そして腕と半ば融合を始めているライフルを連射する。


 「ワクキュリア、防御だ!」

 『らぴぴっ!』

 「わかった!」」


 ワクキュリアがラッピーポシェットを二回叩くと、魔法光の膜が広がり、バエルの放った銃撃をかき消す。


 『今の攻撃はおしかった!次だ次!』

 『アスマ、援護だ!』

 「よし!喰らえ!!」


 遊馬も負けじとレーザーキャノンを連射してバエルの動きをけん制する。

 

 「銃・・・私ももう銃を恐れない!『フローレンス』!」


 ポシェットからもう一つの武器、無針注射器型のピストルを取り出す。これもピストン部分を引いてワクチンを装填する。

 

 「撃て撃て撃てー!」

 『らぴぴー!』


 『ジュウウウウウウ!!』


 2人の合体掃射によって、ついにフローレンスの弾が当たる。その場所は壊死したように腐り落ちる。


 『シュゥウウウ・・・ボアアアアアア!!』


 ならばと、バエルも股から卵を産んだ。人の背丈ほどもある鞘のような卵からは、これまた等身大の怪物が孵ってきた。自身の細胞から生み出した分身、『レッサーバエル』である。同じ人型でも、列車などで戦っていたサピエン・ゼバブとは比べ物にならない戦闘力を秘めていることだろう。


 レッサーバエルは生まれたばかりにもかかわらず羽を広げ、戦闘態勢に入った。


 「よぉし、ヤツの相手は僕に任せろ!」

 「うん、お願いアスマ!」

 「けど、アシュリーも無理しないようにね。」

 「もう!心配しすぎだって!ラッピーだっているんだよ!」

 『らっぴ!』


 それに、ゲームPODネクスを今持っているのはワクキュリアだ。ゲームPODさえ持っていれば、いざという時向こうの世界のみんなが手助けしてくれることだろう。


 むしろ孤立している自分の心配をするべきだったろうか。


 「なんてね、弱いなら弱いなりに出来ることもある。」


 例えば、弱そうな相手を狙うのは生物の本能のようなものだ。ターゲットがこっちに向いていくれているなら、それだけでチームの役には立てる。あとは簡単、『死なないこと』だけが役割だ。


 「さぁこい!こっちの水は甘いぞ!」


 羽を広げて跳びかかってくる姿はGめいていて気色悪い。的確にこちらの頭を狙ってきているように見えるのは・・・。


 「あ、マスクのヘッドライトのせいか。」


 忘れそうになっていたがゼバブは光に向かってくる。少々危険が伴うが、こちらに真っ直ぐ向かってきてくれるというのはありがたい。このライトはつけたままにしておこう。


 「オラッ、おっ死ね!」

 『グギャアアアアアアアアア!!!』


 落ち着いて狙いをつけて撃ち落とす。これさえできれば苦戦することもない。


 「なせば成る!片桐遊馬はできる子!」


 レーザーキャノンが火を吹くたびに、レッサーバエルに風穴を開けていく。

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