溜飲!込み上がる記憶
さて、なんやかんやで無事に魔のグリーン車を抜けた遊馬たち。
「ぜぇ・・・ぜぇ・・・。」
「大丈夫??」
「大丈夫・・・じゃないかも。ちょっと休ませて。」
「らぴ?」
リュックからジュースを取り出し、汗を拭いつつ口にして体の無事を確認する。ちょくちょく休憩をはさみながらだが、ここまでノーダメージで来られてるのは本当に行幸だった。
先へ進めば進むほど、血みどろで腐臭の漂う空間に変わっていき、ジュースの味がわからなくなってくるが喉の渇きを潤すためには飲まなければならない。胃酸がせり上がってきそうだから炭酸はやめておこう。
「アシュリーは平気?」
「うん、大丈夫。」
「この先、またひどい血みどろだけど。」
「平気。」
「ちょっと肝が据わり過ぎだぞこの10歳児。」
いや、子供だからこそ恐怖を感じないんだろうか。同じ年ぐらい自分は、こうも落ち着いていただろうかと立ち直る。
『さよなら。』
・・・いや、境遇はアシュリーとも似たようなものだったか。母を失くし、父は仕事一辺倒。必然的に大人にならざるを得なかったと記憶している。
母の顔も声もあまり覚えていない。顔を合わせれば小言や愚痴ばかり、すべてを忘れるように努めてきたのだから。今更思い出すようなこともないか。
「思い出す・・・。」
そういえば、何か忘れているような気がする。気のせいかもしれない・・・いやこうして妙な引っ掛かりを覚えているという点からすると、何か猛烈に重要な事だったような気がする。嫌なことはすぐ思い出すのに、都合の悪いことはよく忘れてくれる。
「ああ、そういえばゲームPODが起動なかったこと、前にもあったな。」
あれは・・・ライトレベリオンに乗って初めて戦っていた時のこと。衛星レーザーの衝撃によってか、ゲームPODネクスが起動しない事態があった。起動した・・・というかゲーム世界に行けたのは、その後コックピットを貫かれて死にかけた時のことだった。
「コンティニュー選択みたいな感じに、向こうの世界で『選択』をするって形なのかな?」
どうしてゲーム世界に自由に行けないのかわからないが、おそらくというかやはり死にかけるということがキーなんだろう。それを試す気にはならないが。
「アスマ?」
「らぴ?」
「ん?なに?」
「大丈夫?じっと考え込んでるけど。」
ふと、顔を上げるとアシュリーが心配そうにこちらをのぞき込んできていた。
やれやれ、休憩をするつもりが、余計に脳を使ってしまった気がする。手の温度ですっかりぬるくなってしまったジュースを飲み干すと、また進軍再開だ。




