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焦熱!火は力なり

 ぞわぞわと、アラニアは遊馬の方へと向かってくる。糸は出してこないはずだが、あの牙に噛まれると非常に痛い。近接武器しかもっていない内は正面から戦えない。


 「なにか他の武器は落ちてないかな?」


 ゲームのアラニア戦は、初のボス戦であると同時に銃を手に入れるイベントでもある。銃を見つけて拾ったところで、ズドンと落ちてくる、といった具合だ。


 「おっ!」


 と思って床をよく見たらあった。黒くて四角っぽい、拳銃のバレルが座席の影から見えている。ただし、アラニアを挟んで向こう側に。ちっと内心で舌打ちしたが、すぐに打開策は思い浮かぶ。


 「ラッピー!それ蹴ってこっち寄越して!」

 「らぴ?らぴ!」


 ラッピーはすぐに理解してくれた。ボンッと重い音と共に、影が弧を描いて遊馬の元へと舞い降りる。


 けど、その影はなんだか様子がおかしく見えた。拳銃にしてはやけに大きい。まるでストックでも付いているかのようなそれは、グリップ部分を中心に、回転しながら飛んでくる。


 「って、手ぇえええ!!??」


 元の持ち主はよほど強く握りしめていたのだろう。死んでも手を離さないとは恐れ入った。キャッチしてそのことに気づいた遊馬は、驚いて手が滑った。


 「ひぇっ・・・気持ち悪い・・・。」


 などと驚いている間にも、アラニアはモゾモゾと近づいてくる。


 だがこんなことでまごついている暇はない。銃から指を引きはがすと、代わりに遊馬がグリップを握る。


 勿論遊馬は実銃を使ったことはないが、ゲームのデモムービーでどうすれば弾が出るかは見たことがある。安全装置を外して、スライドを引いて、トリガーを引く。


 ズドン!と重い衝撃が手に走る。しかし弾は明後日の方向に飛んで行った。予想以上の反動に、手が反れてしまったのだった。


 「落ち着け・・・落ち着け・・・。」

 「らぴ!らぴ!」


 見れば、ラッピーが燃えた破片などを蹴り飛ばして攻撃していた。再びアラニアの体に火がつく。どうやらラッピーの方がよっぽど肝が据わっているようだ。


 その姿に勇気をもらった。遊馬は拳銃をしっかり両手で握ると、アラニアの姿を中央に捉える。そうだ、実銃ではないが、レベリオンに乗って撃ったことはある。あの経験を生かす時だ。


 アラニアの気は、今度はラッピーに向いている。その大きな腹・・・というか尻を撃ち抜く。


 「やった!」


 傷口から気色の悪い体液が噴出させて、アラニアはうめくように身をよじる。ただ痛がっているだけではない。繊毛のような棘毛を飛ばしてきているのだ。


 「うわっ!」


 銃を構えていた遊馬は、反応が一瞬遅れて棘毛を浴びてしまった。とっさに顔を庇ったことで目には入らなかったが、手に棘が突き刺さる。


 「痛ぇ・・・。」


 すぐに傷が赤く腫れはじめた。EADの毒素ではないだろうが、ヒリヒリと痛む。


 「この!おっ死ねおっ死ね!!」


 バンバンバン!とトリガーを連続で引くが、3発撃ったところでスライドが引かれたまま戻らなくなり、トリガーを引いても弾が出なくなった。


 くそっ、もう傘しか武器が無い。それとも、どこかそのあたりに落ちているであろう弾を探すか・・・。


 逃げるという選択肢はない。未だにラッピーの守っている女の子は、腰を抜かしたままだし、置いていくわけにもいかない。


 「火炎瓶、もう一本使ってしまうか。」


 出し惜しみはしない、そう考えたはずだ。もう一本ビンを取り出すと、とびかかってくるアラニアの頭にぶつける。


 ボッ!と勢いよく燃え上がると、しばらくして大蜘蛛は動かなくなる。


 「やれやれ・・・やっと終わったか・・・おっと。」


 ようやく最初のボスは倒れた。だが併発した火災はまだ終わらない。この炎に呼び寄せられて、またゼバブが来るかもしれない。はやいところトンズラを決め込もう。


 「さ、立てる?」

 「は、はい・・・。」

 「らっぴ・・・。」

 「ここはもう危ない、逃げよう。」

 

 女の子の手を引いて、来た道を引き返す。

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