1話
「なぁ、頼む。お前しかいないんだ。」
俺、綾辻 綾人は、
幼馴染の東雲 東子に、吐息を多めに混ぜながら語り掛ける。
「はいはい....どうせ他の人にも同じこと言ってるんでしょ?」
そっけない態度。
長年、連れ添ってる幼馴染は並大抵のことではデレてはくれない。
しかしその反応は既に覚悟の上。俺は...諦めない....!!
「そんな訳ないじゃないか。俺にはお前だけだよ....トーコ....」
「またそんなこと言って...これで何回目だと思ってるの?」
「わかってる、俺もいい加減学んだよ...だからこそ、次はうまくやる。
トーコ、俺に最後のチャンスをくれないか....?」
「綾人....」
「トーコ....」
教室で見つめ合う一組の男女、沈む夕暮れのような太陽。
綾人と東子の距離は近くなっていく。
そして、綾人は奪った。
東子のノートを。
「いや、助かるわ~ほんと。次忘れると10回目になるからな~数学の宿題。」
「いい加減、自分ですることを覚えなさいよ」
「礼はいちごミルクでいいよな、トーコ?」
「もういい加減飽きたわよ」
「じゃあ俺の飲みかけのコーラいる?」
「...それだけは絶対に嫌」
それは、いつも通りの日課だった。
沈む夕暮れのような朝焼けの時間帯、誰よりも早く登校する東子に、綾人がウザ絡み。
東子は少し嫌がりながらも、真面目に会話のキャッチボールに付き合ってくれる。
綾人にとって、幸せなルーティーンだった。
「はやく私以外に頼れる友達作ってよね。」
困ったような顔でこちらを見つめてくる東子、
綾人は「いつもすまんなぁ」と言いながら全く別のことを考えていた。
(あぁ、やっぱり――好きだなぁ)
そう、綾辻 綾人は、東雲 東子が好きなのだ。
(容姿端麗、成績優秀、そんでもって幼馴染?
ってか俺のこと嫌ってんのにどんだけ宿題見せてくれんだよ。
真面目かよ。そういうところだぞほんと好き)
もちろん、それだけ持っている彼女なだけに、ライバルは多い。
(こないだもサッカー部のイケメンから告られてたよなぁ。
わかる、わかるぞ。トーコに惚れない方がおかしいよなぁ、おかしいよ。
でも、それは困るんだよなぁ。
こちとら幼稚園生のときから片想い引きずって10年選手のプロだぞ。
もうヘタレ度で負ける気がしないよへへへ。)
(とまぁ、冗談はさておき、目下本当に困ってることは――)
「私、アンタのこと、ホント無理だから」
(幼馴染は俺のことが好きじゃないってことかな)