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反逆の令嬢  作者: きさらぎ とおや
1/1

起床

初投稿です。

遅筆ですが、よかったら読んでって下さい。

ネヴァンは今日もまた、懐かしい夢を見ていた。

カエルの鳴き声を聞きながら、夕暮れの田んぼ道を友人を後ろに乗せて自転車を漕いでいる。

ペダルが重い。口に出して文句を言うと、友人は通りすがりに畑からくすねてきた桃を拭きながら笑った。

『だらしないぞ、〇〇部!』



紗の(とばり)越しの柔らかな朝日が寝顔を照らし、浅い眠りをそっと払う。

目覚めたネヴァン・オドネルは()()()のように腹筋だけで上体を起こそうとした。

「……、……?」

しかしどんなに頑張っても首から上しか上がらない。

「だらしないぞ、」

夢の中の悪友の言葉を繰り返し、天蓋を見上げる。

金銀の糸が模様を描く豪奢な布地。

天蓋から垂れる薄い紗が、日の光と風を柔らかく透しながらベッドを囲んでいる。

(まるでお姫さまの寝室みたいだ)

ぼんやりそう思ったところでハタと我に返る。

「今はお姫さまのようなものでしたわ」

思わず声に出して独りごちてしまう。それが聞こえたのか、帳の向こうで人影が動いた。

「お目覚めですか、ネヴァンさま」

耳に馴染んだ声がする。侍女のカーラだ。

ネヴァンは身体の向きを変え、腕を支えにして起き上がった。

夜着から伸びる両腕は我ながらいかにも頼りなく、腕立て伏せの10回もこなせるか自信がない。

6(シックス)パックどころか縦筋すら浮かばないこの薄い胴体では、腹筋だけで上体を起こすことなど出来ようはずもなかった。

「おはよう、カーラ」

「おはようございます」

5つ年上のこの侍女はネヴァンの乳母(めのと)の娘で、本人は赤ん坊だったネヴァンのおしめも換えていたと言うが、ネヴァンはもちろん覚えていない。

「今日は何色のお召し物になさいますか?」

薔薇、薄紅、浅葱に萌黄、華やかな色合いの服が並べられる。

(いや、着られないってこんな色……)

反射的にそう思うが、カーラが嬉々としてあてがった服を鏡で見せられてまた思い出す。

()()顔なら余裕でしたわ)

濃い金と茶の混ざった髪に、ヘーゼルの瞳。象牙の肌。

美貌の母親の血が遺憾なく発揮された人形のような顔立ち。

生まれてこの方、見慣れた自分の顔だ。

しかしネヴァンには、もうひとつ()()()()()として記憶している顔があった。

こうして夢から醒めてすぐは、()と混同してしまうほどに、同じく見慣れた顔。

目の前の鏡に映るものよりずっと濃く暗い色の髪と瞳と、黄みを帯びた肌。低い鼻がコンプレックスで、短髪にしていると性別不詳だとよく言われた顔。

ネヴァンにはオドネル家の第一子として生を受ける前、ここではないどこか―具体的には太陽系の地球という惑星の小さな島国の片田舎―で平凡ないち市民として生きていた頃の記憶がある。

最初に()()()を見たのがいつだったかは、もう覚えていない。

ネヴァンの成長に合わせるように夢の中の自分も成長し、近頃は中学で勉強と部活に励んでいた頃の夢をよく見るようになった。

国語が得意で数学が苦手なのは小学校から変わらない。

部活は先輩が美人揃いだという理由で柔道部に入部したが、これが意外にも面白く、特に寝技はメキメキと上達していた。

起立し、着席するのも辛い筋肉痛も、自分の身体が着実に筋肉質になってゆけば達成感があった。

部活を辞めた後、鍛えた筋肉は脂肪に変わり、以後ノースリーブが着られなくなったのだが。

閑話休題(それはともかく)、幼いネヴァンが聞いたこともない昔話をねだったり謎の単語を口にしたりするのを案じて、両親は呪術師を訪ねることにした。

そこで初めて、ネヴァンは前世というものを知ったのである。


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