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乙女ゲームのヒロインに転生したらしいが、すまん私はショタコンだ~なお、弟が可愛すぎてブラコンも併発したようです~  作者: ふとんねこ
第4章.創立祭編

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第33話.ショタコンと創立祭の開幕


 今日の授業は昼で終わり。呑気に食堂に向かう多くの男子生徒を尻目に、戦士の目をした女子生徒は猛スピードで寮へと戻っていく(ほんの少数、やけに本気(マジ)な目をした男子生徒もいたが)。


 男子の群に混じってご飯を食べに行こうとした私は、おっとり微笑みながらも背後に戦神のオーラを纏わせたラタフィアにガッシリと捕まって「どこへ?」ってゆっくり言われてしまったので、現在水寮の自室に彼女と一緒にいる。


「さあ、パパッとやってしまいましょう」


「うん」


 一応私もドレスとかにワクワクはするけれど、ただ、うん、お腹すいたなぁ……


 私を鏡台の前に座らせると、ラタフィアはご機嫌に鼻唄を歌いながら櫛を手に取る。我ながら綺麗に長く伸ばせていると誇れる銀の髪を、彼女は楽しげに()かし始めた。


「ラター? パパッと、簡単で良いよ?」


「いいえ、いけません。やるからには徹底させていただきます」


「えー、だってラタの仕度が遅れちゃうじゃん」


「そんな失敗はしません」


「おぉう……ラタらしいね……」


「ふふ。ええ、私ですから」


 話しながらも彼女の手は止まらない。私の髪が元々全然絡まらないのもあって(これもまた、ヒロイン補正だろう)髪を梳かすのは早く終わる。何やらあちこちを仮止め的に緩く縛り、ラタフィアは本格的に作業を開始した。

 こうなると彼女はとても静かになる。職人的だ。なので私もじっと黙って大人しくされるがままになる。


 鏡越しに見るラタフィアの手さばきは素早く鮮やかで正確だ。編み込みとか、色々細かくされているけれど痛みが無いから本当に上手なんだろう。


 練習の結果、三つ編みが綺麗なシニヨンにしてもらうことに決まったんだけど、何かその時より凝っている気がする。

 髪の長さとそれなりの量もあって、きっちりとした三つ編みや編み込みも、細いのから太いのまでできていて、驚きの仕上がりになりそうだ。


 お腹が鳴りそう。美味しいもののことでも考えていようか。



 しばらくすると、首の後ろがすっきり涼しくなって、髪が完全に上げられたことが分かった。

 鏡を見れば顔の横の髪は右側だけ少し残されて、反対に左はすっかり耳が露になっている。耳飾り、あったかなと考えた。

 綺麗にまとまったシニヨンは三つ編みが籠みたいになっていて、とても繊細な印象を受ける。飾られた艶のある生地の青いリボンがきっちりと結ばれていた。


「わぁ……すごい……」


 そして早いな。ラタフィアはプロだ……


「ふふ。あとはこれを着けるだけですわ」


 そう言ってラタフィアが鏡越しに見せてくれたのは、私の魔力草の花から作った青と白の薔薇である。お守り的な魔法を込めてあるので、何かあっても少しなら平気なはず。

 シニヨンの左側から側頭部にかけて挿された三つの薔薇。品良く並んだ感じに心踊る。


「ありがとう、ラタ!」


「いいえ。私も大満足ですから」


 私は振り返ってお礼を言い、鏡台の前を退いた。今度はラタフィアが自分の髪をセットする番である。

 何もできないのが切ないけれど、私が下手に手を出したら大変なことになりそうなので、折角ラタフィアがやってくれた髪を一筋たりとも崩さないようにして、自分のことに専念することにした。


 私のこの顔は、この世から化粧というものを駆逐するために生まれた様な驚きの出来で、下手に手を加えるとケバケバしくなってしまう。

 なので、唇にほんのりと薄紅をのせるだけでいい。前世で平凡な顔だった女子としてはびっくりだけれど超楽ちんだ。


 それを終えたらドレスを着る。着方はマダム・ベルタンに習ったから、少しまごつきつつも自分で出来るはずだ。





 そして二時間半が経過した頃。私の部屋には完璧な淑女のラタフィアと、外見のみ完璧な淑女の私が並んでお互いを見合っていた。


「……おかしいとこ、ない?」


「ええ、完璧ですわ」


「お腹空いてるのにあんまりご飯食べられないかも」


 お腹が苦しくなりそうなのである。


 私の言葉にラタフィアがいきなり溜め息を吐いた。何かまずいこと、言ったかな。


「本当に、ぶれませんわね……」


「? うん。美味しいものを楽しむための創立祭だと思ってるよ? あ、勿論、ラタとジェラルディーンと楽しみたいけど」


「ええ、そうですね。ただ、ジェリーはどうでしょう……」


「殿下のパートナーだもんねぇ……」


 何もないと良いけど、と頷き合って、私たちは揃って部屋を出た。向かうは学園内の大広間。きっともう、そこは夜会の装いで、きらびやかに少しの(かげ)りを宿しているんだろう。



―――――………



 すげぇ。思った以上にすげぇ。


 私は脳内でそんな語彙力の死んだ感想を漏らしながら、飾り立てられた大広間を見回していた。

 白いテーブルクロスを掛けられた丸テーブルがあちこちに設置されている。真ん中はダンス用に広く丸く空けられており、その近くに楽団も待機していた。

 何段か高い上座には、大きくて立派な椅子が二つ置いてある。多分国王陛下と王妃の椅子だろう。

 すでに着飾った生徒たちや教授たちが大広間を歩き回っており、給仕が豪華な食事をあちこちのテーブルに運び始めていた。


「わぁ……」


「見事ですね」


 あの肉、すげぇ!!


 飾りつけを褒めるラタフィアの横で、私は給仕が運んでいく大きなローストチキンに目を奪われている。


 ほかほかと湯気を立ち上らせながら、美味しげなにおいも一緒に漂わせているそのローストチキン。

 明らかにパリッと焼かれた皮。艶やかなその表面は眼福の一言。隠しきれない“美味しい”の気配だ。


 うん、あれは絶対食べよう。


 お皿持って近づいていったら、給仕の人が切り分けてくれるやつだよね。最高か。




 私が美味しいものに気を取られている間に、人がどんどん増えてきて、ついに大広間の大扉が閉じられた。美味しいものは完璧に並べられ、つやつやしながら私を待っている。


 待ってて、そろそろ始まりそうだから。


「ああ、いたいた」


 そこへ、小さな声でそう言いながら、誰かが近づいてきた。見ればきっちり正装したカイル(なるほど、こうするとやっぱり貴族の子息だなぁと思う姿であった)が歩いてきていて、ラタフィアの隣に並んだ。


「とても綺麗ですね、二人とも」


「ありがとうございます」


 突然のストレートな褒めに「はぇぇ、貴族怖い」と思った私だが、“貴族”そのものであるラタフィアは平然と応えている。私も慌ててぺこりと頭を下げた。


「ああ、アイリーン。そういえば言い忘れていましたわ。この後、国王陛下がご入場なさいますから、その時は私と同じように礼をしていてくださいな」


「えっ、そうなの? 礼ってこれ?」


 何となくでのカーテシー。背筋を伸ばしたまま微かに前傾し、ドレスのスカートを摘まんで、左足を斜め後ろの内側に引く。そして右足の膝を軽く曲げたら完成。


 うーん、やっぱり付け焼き刃じゃあラタフィアほど淑やかにはならないなぁ。

 けれどラタフィアは素敵な笑顔で頷いてくれる。練習しておいて良かった。


 その直後、楽団のトランペットが高らかに「明らかに入場です!」みたいな音を奏でた。

 誰かが「国王陛下、ご入場!!」とでっかい声で言い、その直後会場全体が見事に礼をとる。

 私も付け焼き刃カーテシーで国王陛下を迎えた。ちらっと見ようとしたけど、人が多くて無理だった。けれど、国王陛下は共に入場してきた王妃と一緒にすぐに上座の椅子に腰掛けたので、その顔はすぐによく見えることになった。


 おぉう……似てる……レオンハルトとアーノルドに似ている……


 いや、正確にはレオンハルトとアーノルドが国王陛下に似ているんだけど、先に会ったのが彼等だからそう思っちゃう。


 王冠を載せた砂色に近い渋い金色の髪にきちんと整えられた同色の髭。柔らかながら厳かな雰囲気の光を宿した緑瑪瑙(グリーンアゲート)の瞳。

 四十代後半だったはずだけれど、深い緑色の軍服型の正装に包まれた身体は引き締まっており、白い毛皮の縁取りがある白と金のマントがよく似合っている。精悍な印象の壮年の偉丈夫であった。


 レオンハルトが老けたらこうなるのかなぁ……ううん、あんま興味ないや。あと、王妃は凄みのある美女だった。でもその遺伝子が王子二人に受け継がれた感じゼロで、なんちゅう強遺伝子なんだ王家と思ったね。



 ぼんやりしてたら何やらまた入場の合図が響き渡る。そして入場してきたのは、鮮やかな緑色の正装を纏い、キリッとキメ顔をした王太子レオンハルトと、紅薔薇の美貌に炎みたいに鮮烈で綺麗な笑顔を浮かべるジェラルディーンだ。

 真紅のドレスの裾を優雅に引いて、見事に結い上げた金の髪に白と赤の薔薇を飾ったジェラルディーンはとっても美しかった。


 ……む?


 レオンハルトの耳元に、何か赤い煌めきが見えた。気になって両目に少しだけ魔力を込めて凝視すれば、それがジェラルディーンの瞳の色とよく似た紅玉髄(カーネリアン)の粒であると分かった。


 …………むむ?


 そしてジェラルディーンの耳元には、完璧に磨かれた翠玉(エメラルド)の粒が揺れているではないか。


 二人とも、すごい仲良しじゃんか。

 私はそれに気づいて思わずにこにこしてしまった。


 レオンハルトたちの後に学園長が入場して(パートナーはなんと、ロジエス教授だった!)国王陛下が創立祭の開催を宣言した。


 ついに、創立祭の開幕である。


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