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乙女ゲームのヒロインに転生したらしいが、すまん私はショタコンだ~なお、弟が可愛すぎてブラコンも併発したようです~  作者: ふとんねこ
第4章.創立祭編

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第17話.ショタコンと仕立て屋探しの旅


 さて、無事にレポートも提出した。そうして訪れた休日。私はいつもの二人と一緒に街へ出ていた。


「今日はアイリーンに一番似合うドレスを作る最高の仕立て屋(クーチュリエ)を見つけるまで帰りませんわよ!!」


「えぇ……? ラタ、そんな気合い入れなくてもいいんだけど……」


「そんなことを言っては駄目ですわ、アイリーン!!」


「え、えぇ~……?」


 なんだかやけに燃えているラタフィアの姿に、私は困惑してジェラルディーンを見た。

 本日の髪型は、金の縦ロールが素晴らしい長髪をハーフアップにして細い赤のリボンで留めた令嬢スタイルであるジェラルディーン。私の視線を受けて、彼女は肩をすくめると「無駄よ」と溜め息を吐く。


「ラタフィアはああなったらもう止まらないわ。諦めて大人しく付いていくことね」


「えっ」


「綺麗なものを更に飾るのがあの子の楽しみなのだから」


「…………」


 私は唇を口内に巻き込んで微妙な心境を表したが、ジェラルディーンには「鬱陶しい顔をしないでちょうだい」とバッサリ言われてしまった。


 ふんすふんすと燃えているラタフィアに連れられて、私たちは仕立て屋が並ぶ通りにやって来た。

 白っぽい石畳、立ち並ぶ仕立て屋の張り出し看板はおしゃれで、良く磨かれたショーウィンドウを覗けば、そこには最新のドレスや服が並べられている。


 ラタフィアの手を見れば何やらメモ用紙らしきものが握られていた。まさか。


「まずはここです! 二人とも、入りますわよっ!」


 やっぱり~っ!!


 あれは今日回る予定の店のリストに違いない。コミケに行くオタクかよ。


 カランカラン、とベルを鳴らしながら、燃えるラタフィアと私たちは一つ目の店の戸をくぐった。



―――――………



 カランカラン、入った時と同じく軽快なベルの音に見送られ、私たちはすぐにその店を出た。


 その理由は。


「駄目ですわっ……これでは、アイリーンの魅力を最大限引き出せないっ……」


 店の今年の新作を見たラタフィアがふらりと一歩後ずさったあと、悔しげに顔を歪めてそう言ったからである。


 綺麗だと思ったんだけどなぁ、と私は店内を見回していたが(仕立て屋と言うのに馴染みがなくて物珍しい)ジェラルディーンも頷いていたから、うん、きっと何かしらがいけなかったんだろう。


「フリルの作り方が駄目ね。作りが粗かったわ」


「それに、流行の最先端と言いながら、随分と古典的ですわ!」


 そうだったんだ……

 門外漢は口を閉じよう。よし。


 古典的なのが悪い訳じゃないけど、とか色々議論している二人の声を聞きながら、私はドレスが決まるのは夕方かな、と覚悟を決めたのであった。



―――――………



 そのあとも色々な店を回ったが「噂は信用なりませんわね」とラタフィアが呟くくらいに(噂で情報収集してたんだな)ご令嬢二人のお眼鏡に適う店は見つからなかった。


 そりゃそうか。二人は生まれたときから最高級のものを与えられて育てられた、公爵令嬢と侯爵令嬢なのである。

 王都に店を構える国内では一級とされる仕立て屋と言えど、なかなか基準を満たす店が見つからないのも仕方ない。

 きっとお家お抱えのオートクチュールとかあるんでしょ。


 そんなすごいとこじゃなくて平気です、と伝えたら、ラタフィアは「楽しいからやらせてください」と言う。

 貴族令嬢相手に気まずいが「ちょっとしかマネー持ってないデス」と片言で伝えてみたら微笑んで「いざとなったら私が……」とか更に気まずくなること言うし……


 一応これまで節約してきたから結構手持ちは安心なんだけど……


 この二人のお眼鏡に適う仕立て屋で、庶民オブ庶民な私がお買い物をするとか信じられる?!


 てかそもそもできるか?!


 お財布にクリティカルアタック!!


 昼食のため、ランチをやっているお店に入った私たちは、各々好きなものを食べて午後の予定について話し合っていた。


「ここを出ましたら、すぐ近くにあるお店に行きましょう」


「ええ、そうしましょうか」


 私はもりもりと鴨肉を頬張っていたので頷くにとどめる。


 ランチが片付いて、私が紅茶をすすり始めたら、ラタフィアが「お手洗いに」と席をたった。


 それをぼんやり見送る。


「アイリーン」


「…………」


「いつの間に耳が遠くなったのかしら?」


「っ、ごめん、ぼーっとしてた!」


 向かいの席に座っていたジェラルディーンが私をじっと見つめていた。

 鮮やかな紅玉髄(カーネリアン)、窓から柔らかく差し込んでくる日の光が、長いまつ毛に触れて白い頬に影を落としている。

 私が謝ると、彼女はフッと笑って「いいのよ」と言ってくれた。少し珍しい。


「貴方、何故ラタフィアがこれほど手こずっているのか、分からないの?」


「え?」


 むむむ、どう言うことだろう?

 ジェラルディーンがこう言うってことは今までの会話やら何やらに答えがあるってことなんだろうけど……

 分からん。


「はぁ……仕方がないわね」


「すみません……」


 謝らないの、と額を(つつ)かれる。


「わたくしたちが仕立て屋選びでここまで迷うなんて不思議でなくて?」


「……確かに。だって、二人とも、いっぱい知ってそうだし」


「そうでしょう?」


「それが何――……あっ」


 ジェラルディーンが満足げに微笑んだ。


 少し考えてみれば単純な話であった。


 あれだけ色々な意見を言えて、仕立て屋選びに苦戦する二人。

 裏を返せば二人はそれだけ目が肥えていて、色々なもの――服飾関係や仕立て屋そのものについて――を知っているということになる。


 そんな二人が、自分が気に入る(そして私に似合うらしい)仕立て屋を簡単に見つけられないなんて変だ。

 今まで使ってきた馴染みの店のどれかに行けば一発だろう。


 ラタフィアが噂で情報収集をしていたというのは、恐らく平民の生徒(・・・・・)の噂で、それすなわち平民でも取っつきやすい仕立て屋の情報に繋がる。


 二人は、私が色々な面で困らないように気を遣って、慣れない平民向けの仕立て屋を探してくれていたんだ。


 それに気づいて、私は赤面した。


「ごめん、気づいた、ありがとう」


「そういうのはいらないわ。感謝ならラタフィアにすることね」


「うん、そうする。でも、ジェラルディーンも、分かってて、付いてきてくれてたんでしょ。だから、ありがとう」


 嬉しさでつい顔が緩む。ふにゃふにゃ顔になっている自覚はあるが、それでも笑って礼を言う。

 それを見たジェラルディーンは少し頬を赤くしてそっぽを向いた。


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