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乙女ゲームのヒロインに転生したらしいが、すまん私はショタコンだ~なお、弟が可愛すぎてブラコンも併発したようです~  作者: ふとんねこ
第4章.創立祭編

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第13話.ショタコンと脱出


 獣の前肢が胸を押し、力を込めて私の身体を後方へと倒す。

 開いた闇色の口腔。鋭い牙の並ぶ(あぎと)が私の喉に噛みつこうとした。


「アイリーンッ!!」


 樹の牢の中の獣に集中していたから私もメルキオールも咄嗟に反応できなかったのである。

 苦し紛れに防御魔法陣を自分の前に展開しようにも、すでに獣の前肢が身体に触れている状況では色々と難しい。


 蹴って間に合うか?!


 そう考えて足を持ち上げる。一か八か何とかなるだろうか?


 足癖が悪いのは昔からだ。修行時代の蹴りを思い出せ。こんな獣、一蹴りだ!!

 よし行ける、と自分を叱咤して足に力を込めた。






 その時だった。


「おいたが過ぎるな」


『キャゥンッ?!』


 闇の中から伸びてきた白い手が獣の顎を押さえ、その身体を持ち上げた。

 私は倒れたまま、足を半端に上げた状態でそれを見上げて目をパチクリ瞬く。


「……ノワール?」


 闇の中、長髪を揺らして宙に浮かんでいたのはやはりノワールであった。獣を両腕で捕まえたまま、彼はにっこりと笑う。


「大丈夫か? 遅れてすまない。光球の量が増してから上手く動けなくなってしまってな」


 なるほど、私が今、獣に襲われたことで銀の光球の力が弱まったから出てこられたと。やっぱりあれくらい出すと彼は弱くなるようだ。


「さて、どうしてやろうか」


 獣は闇の精霊の腕に捕らわれて震えていた。こうして見ると、やはり獣の闇はノワールが纏う闇よりも薄かった。


 分かりやすく言うならね……薄めた墨汁って感じで、伸ばしたら薄く透けそう。

 逆に、ノワールの闇はいくら伸ばしても黒々とし続ける油性マジックだな。すんごく黒い。


『ギャウンッ!!』


「君もだ」


 メルキオールの方から獣の悲鳴が聞こえたから何だと思ったら『樹牢』の中の獣が質量を持った様な闇に押し潰されていた。


 それを見たメルキオールは濃密な闇の気配に若干の怯えの色を見せる。しかしノワールが「放していいぞ。俺がやる」と言ったことで、彼が今は一応味方なので任せられると判断したのか、ずっと維持していた『樹牢』を解除する。


 私の光が弱まったから、館内の暗闇が全部ノワールの支配下に入ったんだ。うわぁこいつと暗いところに行っちゃ駄目だな、覚えとこ。


 私は自分の上にふわふわ浮いているノワールを見上げながら(髪の毛が水中にいるみたいに揺らいでいて神秘的だ)そろそろ起き上がりたいと考えた。


「ねえノワール。そろそろそこ、どいてくれる? 起きたいんだけど……」


「ん?」


 私の言葉に獣の鼻先を優美な指で弄ぶ様にくすぐっていたノワールが顔を上げ、私を見下ろす。

 暗闇に映える黄金色の双眸。瞳孔がきゅっと細くなって、からかう様な気配が浮かんだ。


 ふわりと頭を下げて近づいてきたノワール。獣が彼に捕らえられているので、私もメルキオールも、下手に手を出せず動けない。

 幽艶な美貌が、鼻先が触れ合いそうな距離まで近づいてくる。その横で捕まっている獣がフガフガ言っていなければドキッとしたかもしれない。


「なかなか良い眺めだからなぁ」


 いや、眺めとか言われても。


「ま、よしとしよう」


 意外にもあっさりと横に退いた彼に私は驚きながら、一応「ありがとう……」と言って身を起こす。

 メルキオールが近づいてきて「頭とか、ぶつけてない?」と遠慮がちに訊いてくれた。私はコクリと頷いて微笑む。


「さて、と」


 そう言ったノワールは、闇に押さえつけられて床で呻いている獣に近づいた。低い唸り声に、彼は笑うだけで腕の中の獣を逃がす気配もない。


「返してやるのも癪だ。喰ってしまおう」


 言うなり獣が二匹とも悲鳴を上げた。それはこの世のものとは思えない不気味な悲鳴で、私とメルキオールは思わず耳を塞いでしまった。


 見れば、ノワールの闇が獣をじわじわと取り込んでいる。黒い獣はその身に強酸を掛けられたかの様に、勢いよく溶かされていた。


 端的に言ってグロい。


 まずノワールの腕の中の一匹が、激しい苦痛を窺わせる断末魔と共に姿を消した。それからすぐにもう一匹も。

 ぺろり、と経口摂取だったわけでもないのに唇を舐めたノワールは喉を低く鳴らして笑う。


「薄いな。分けられた(・・・・・)奴が更に分けた闇だから、不味くって仕方がないぜ」


「た、た、食べたの?!」


 メルキオールが目を見開いて訊いた。確かに信じがたい。でもこの図書館内の暗闇が全部ノワールに支配されているなら、口に突っ込まなくてもいけそう。


 いや、メルキオールが突っ込みたいのはそこじゃないか。


 隠れなくなった邪神ファンの手駒みたいな獣を、いかな闇の精霊とは言え、取り込んで平気なのかと訊きたいのだろう。

 ノワールは黄金色の瞳を瞬き、不思議そうにメルキオールの問いを受け止めて「そんなに驚くことか?」と言った。


「こんなことで俺の闇は濁ったりしないぞ」


「ああ、そう……」


 メルキオールが考えるのをやめた。


 私は曖昧な表情で頷いているメルキオールの姿にそんなことを思った。多分あれ、脳内で「考えたら駄目だ」って自己暗示かけてるよね。


「もう来ないかな……?」


 私はちらりと床の穴に目を向ける。そこから獣が這い出してくる気配はない。

 しかしノワールが言っていたが(私には何のことか分からないけれど)“分けられた”者が“更に分けた”ものらしいので、つまりそれは本体がまだ外にいると言うこと。


 また送り込まれたら困るから穴に光球でも嵌めておこうか。


 そう考えた時、ドォォォォンッと建物が揺れた。


「何?! 新手?!」


「違う、これは……教授だ!!」


 慌てた私にメルキオールが喜色を滲ませた声で答えた。


 それってメルキオールが呼んだディオネア教授のこと?!


「俺は失礼するぜ。見つかったら面倒だからな」


 そう言って闇を翻してノワールが姿を消した直後。


 緑の巨大な蔓がドォンッと壁を突き破って現れ、するすると身を引いていく。ぽっかりと円形に空いた穴から光が差した。


「やー、大変だね。大丈夫かな?」


 そこにひょっこりと現れたディオネア教授は、相変わらず沢山の植物を盛った三角帽子を載っけた頭を少し傾けて、にっこりと爽やかに笑っていた。


 はわぁ……その豪快さ、マジイケメン。


 豪快で派手な魔法が好きな私はついディオネア教授に見惚れてしまったが、メルキオールは構わず、すたすたとそっちへ歩いていく。


「教授」


「あ、メル。これ、どういうことかな? 土寮の誰かに恨まれてるの? 覚えはある?」


「今のところ原因は分からない。学園側で調査してよね」


「そっかー。なら仕方ないね。調査はしておこうね」


 何でも、寮分けの儀式の時に魔水晶に生徒それぞれの魔力が個人情報的に記録されるそうだ。

 それを、図書館を覆っている土に残る術者の魔力と照合して犯人を探すと言うことだろう。


 犯人が生徒じゃなかったら終わりだね。


 隠れるのを止めて、また隠れた邪神ファンは生徒か教員か。今回ノワールに分体を喰われたから、少し弱体化してるんじゃないかな?

 いくら分けられた(・・・・・)奴と言えども、ファンは少ないに越したことはない。どんどんやっつけよう。


 ……本体を潰さなきゃいくらでも増えるじゃんね。なんだ、その増殖系のボス的なやつは。


「ありがとうね、メル。あとはわたしたちに任せて、アイリーンを水寮まで送ってね」


「はぁ?! 何で僕が……」


「わたしたちはこの現場の調査をするからね。忙しいんだね」


「……分かったよ」


 ぶっきらぼうに「行くよ」と言ったメルキオールに続いて、ディオネア教授の魔法が開けた穴から図書館の外へ出る。

 まだ夏前だからか、日は沈みきっておらず、外は相変わらずの夕焼けだった。


 見ればそこには先生と教授が勢揃いしていて、なかなかに強そうな光景である。

 水寮の寮監、ダグラス先生が心配そうな顔ですっ飛んできて「大丈夫かい?!」と気遣ってくれた。


 自寮の生徒だもんね。そりゃあ気になるか。ありがとう先生、ご尊顔が大変きらびやかで目にうるさいからそれ以上近づかないで。


 先生や教授たちが何やら現場検証をしているのを尻目に、私はずんずん進んでいくメルキオールに続いて、水寮への帰路についた。




 …………あっ、本借りてくるの忘れた!!


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