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乙女ゲームのヒロインに転生したらしいが、すまん私はショタコンだ~なお、弟が可愛すぎてブラコンも併発したようです~  作者: ふとんねこ
第4章.創立祭編

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第12話.ショタコンと闇の獣


 窓が完全に塞がれ始め、館内が段々暗くなってきて、私は以前ノワールを撃退した銀光の球を作ろうか悩んでいた。

 正直今ノワールにいなくなられたら心細すぎてつらいけれど、暗いのも嫌だからである。

 彼は闇の精霊なので、明かり係としての仕事は期待していない。


 どうするかな……完全な暗闇になったらここはノワールの領域になるだろうし、それは少し怖いぞ。


 そう考えていたら、唐突に緑の葉っぱの塊が残っていた窓の隙間から滑り込んできて、私たちの前でメルキオールの姿になった。


「え? メルキ、ん゛んっ……シルヴェスター土寮長?」


「ここへ入ってくるとは、たまげたな」


 危うく呼び捨てにするところだった。誤魔化せただろうか。

 隣でノワールも目を丸くしており、その姿を見たメルキオールの紅玉(ルビー)の瞳に色々な感情が浮かぶのが分かった。


 それな。ここにノワールがいるとか、マジ複雑だよね。私も。


 そして多分「名前誤魔化せてない」とか「どうして闇の精霊が」とか、他にも色々言いたいことがあっただろうメルキオールは、しかし大きく溜め息を吐くだけにとどめて、一言だけ口に出した。


「……何なの、もう」


 それな。




 さて、館内は躊躇いも慈悲も無くどんどん暗くなり、メルキオールが入ってきてからものの数十秒で真っ暗闇となった。


「はぁ……」


「これはいいな、快適だ」


 暗闇に溶かした私の溜め息へノワールが返した言葉に、私は銀光の球を作ることを即決。魔力を周囲に展開して適当な大きさの球体に成形する。


 直後ふわりと辺りに柔らかな銀の光が満ちた。メルキオールが息を呑む気配。ノワールが「うわっ」と文句ありげな声を上げる。


「君、それはやめてくれ」


「いや。貴方、暗闇に紛れてセクハラしそうだし」


「せくはら、って何だ?!」


「またおじいちゃん発動してる……」


 私は再び溜め息を吐いて首をゆるゆると横に振った。何にせよ、この光を消す気はない。


 この銀光が届く範囲は私の結界になるのだから。


 闇に紛れて、ついに隠れることをやめた元隠れ邪神ファンが襲撃してきても、そこそこの威力の攻撃なら何度か防げる。


「……ディオネア教授に他の教授たちを呼びに行ってもらったから、少し持ちこたえればなんとかなるはずだよ」


 光の範囲が結界だと気づいたらしいメルキオールがそう言った。


「良かった……」


 安心だね。私はホッとして、それから確実性を上げるため少し光球を増やした。ノワールが小さな悲鳴を上げる。


「で? そいつはここで何をしてるわけ?」


 そう言ってノワールを睨むメルキオールに、睨まれた当人は「さあな」と肩をすくめるだけ。


 メルキオールの紅玉(ルビー)の目が更に剣呑な色を帯びる。

 暗闇で銀光に照らされてぼんやりと青白く浮かび上がる様な手がスッと持ち上がった。

 それを見たノワールが目を細め、頭を少し横に傾けて「やるか?」と挑発的に微笑む。

 双方の魔力がざわりざわりと練り上げられ、その背にオーラの如く浮かび上がって見えるようだ。


「はい、止まって! ここで喧嘩してどうするの……んですか?」


 危ない危ない。さっきまでノワールと大声で言い合っていたから敬語が頭からすっぽ抜けていた。

 すごく変な語尾になったけど聞かなかったことにしてほしい。


「くくっ、君、本当に猫被りだな」


「うるさい。先輩を敬うのは当たり前でしょ」


「俺は君より千や二千以上先輩だぞ」


「貴方は別」


 ノワールは「ひどいぞ、差別だ!」と騒いだが、この会話を聞いていたお陰でメルキオールも落ち着きを取り戻したようだ。


「君らさ、もしかして仲良しなの?」


「誰が!!/その通り!!」


「…………」


 単にノワールをどう扱おうと私の学園生活に何も影響がないから遠慮無く話ができるだけです!

 誤解はやめてください!!


 メルキオールは(いぶか)る様に目を細めて、大きく溜め息を吐いた。


 この空間の溜め息率高過ぎ。


「まあいいや。知らない。僕は何も聞かなかったことにする」


「お願いします」


「何でだ? いいじゃあないか、俺たちの仲だろう。もしかして照れているのか?」


「うるさい。口に光球突っ込むよ」


「それは勘弁してくれ」


「もう放っておきなよ、アイリーン。それより状況を説明してくれる? 君たち、僕が来てから茶番しかやってないからね?」


 それは申し訳ない……私は「茶番」と言う点に関して否定できずに(むな)しい気持ちになりながら、頭の中で説明用に言葉を整える。


「ええと……」


「これは邪神信徒の襲撃だ。アイリーンの心臓を狙う(やから)だな。と言うか学園側は何をやっているんだ? アイリーンが俺の愛し子だと、邪神信徒にバレているじゃあないか」


「色々言いたいことはあるけど取り敢えずまずは“俺の”ってところだけ訂正してくれる?」


「っ、そうじゃん。アイリーンが狙われるってことは……どういうこと?! 情報統制はかなり厳しくしてきたのに!」


「あの、え、ちょ」


「これだから人間は駄目だな。内部に邪神信徒がいると知りながら、アイリーンを入学させるとは、信じ難い」


「愛し子を守るならここが王国で一番だからだよ! 王国の魔導の(すい)が集う場所なんだ。それくらい分かるでしょ?」


「ふん、現状を見てから言えよ。それから教えてやるが外の奴は本体・・じゃあない。分けられた(・・・・・)奴だ」


「は……? それって……」


「二人とも下っ!!!」


 何で無視するんだ、とかは取り敢えず置いておき、私はそう叫んだ。


 何故なら、床下から迫り来る不気味な魔力の塊を感じたからである。

 話に夢中だった二人は視野が、感覚が、狭まっていたのだろう。私に言われてからハッとして防御、回避の行動をとった。


 私も後方へ跳んで小型の防御結界を全身に纏う。


 その直後、分厚い木の板の床に円形の亀裂が入って、それがバキバキッと持ち上がった。そして勢いのまま、亀裂の真ん中を突き破って黒い何かが飛び出してきた。


 飛び散る床材と舞う土埃。ただでさえ暗いのに更に視界が悪くなる中、私はすぐに戦闘体勢を整えた。


 何かが、床の穴の隣に着地して、こちらを窺っている。


 目を凝らせば、メルキオールもノワールも同じく魔力を構えて床の穴の隣に着地したものを見つめているのが分かった。


 これが、元隠れ邪神ファン……?


 私はノワールが弱体化するのを承知で敵の確認を選んだ。銀の光球たちが明るさを増す。この状況では、ノワールも文句を言わなかった。


「っ……?!」


 人じゃない、人じゃないやんかっ!!


 ゾッとした。


 それは、黒い獣だった。


 実体はあるのか、それすら定かではない不気味な姿。黒い闇に包まれた不定形の四足獣。

 顔らしい場所には白い二筋の切れ目。恐らく目であろうそれが私を刺すように睨み付けていた。

 そこから伝わる憎悪。魔眼に映る怨念の蠢き。酷い頭痛が私を襲う。


 目をそらしちゃ駄目だ。瞬きも駄目、とにかく見つめ続けなきゃ……


 少しでも意識をそらしたが最後。その獣の牙が自分の喉に食い込む様子がありありと想像できた。


「このっ……『樹牢』!!」


 そこへ飛んできたのがメルキオールの魔法。穴を開けられた床の下、この獣が潜ってきた地面からバキバキと音を立てて木の枝が伸びてくる。

 それは瞬く間に籠になって、獣を閉じ込めた。


「このまま持ちこたえる! そろそろ教授たちが到着するから!!」


 どうやら彼は“目”を外にも向けていたらしい。この状況でそこまでやってのけるとは、流石、天才魔導士である。


『グルルルル……ゴァァッ!!』


 私はメルキオールに力を貸そうと銀光の球を獣に近づけた。大きく吼えた獣は全身から闇を噴き出してそれを追い払おうとしている。つまり、効くということか。


 おっしゃあ。ならば、じゃんじゃん光球投下じゃーっ!!


『ガルゥゥ、グォォッ!!』


「効いてる。それ、続けてくれる?!」


「分かってます!!」


『グ、グルルァァッ!!!』


 キレた。表情とか、分からないけれど獣がキレたのは分かった。

 ダメージが蓄積してるってことでいいのかな? ならば遠慮無く、無尽蔵に程近い私の魔力量で押し込んでやるぜ!!


 煌めく銀球が光を増す。噴き出す闇は黒く、しかし光に押されて力が段々と薄らいでいっているのが分かった。


 このまま持ちこたえるなんて余裕。私はそう考えてメルキオールの『樹牢』に獣を押し止め続けた。




 そのせいか、魔眼がいつの間にか解けてしまって、私は気づかなかった。


 もう一体の闇色の獣が、穴の中から這い出してきていることに。


 私の喉元へその牙を剥く、欲望と憎悪とで黒々とした口腔。気づいた時にはもう、その獣は目の前にいた。


 まずい。


 メルキオールの声がする。しかし喉を咬み千切られて死ぬ可能性がかなり高いこの状況で、周囲のすべては音を消し、スローモーションの世界になっているため聞き取れない。


 学園(ここ)に来てから、私の死亡フラグ立ちすぎじゃない?


 死を目前に、くだらないことが頭の中をよぎる。


 あー、リオに会いたい。もし死んじゃったらリオの守護霊になろう。よし。


 ……いやいや、絶対死にたくない。


 それでも、死の牙は、闇の吐息は、すでに私の喉に触れようとしていた。


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