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乙女ゲームのヒロインに転生したらしいが、すまん私はショタコンだ~なお、弟が可愛すぎてブラコンも併発したようです~  作者: ふとんねこ
第4章.創立祭編

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第3話.ショタコンと高飛車大暴れ


 ラタフィアが鍵言も無く一瞬で展開してくれた『水壁』(それにも関わらずかなり頑丈そうだ、すごい)は、ぶつかって潰れた泥団子の茶色を溶かしながら温室の地面に染み込んで消えた。


 同時に私たち二人が上げた完璧な短い悲鳴の余韻も消える。


 ドヤ顔で泥団子魔法を放った取り巻き令嬢Aは、自分の魔法が――しかも基礎的な球形魔法が――盛大な大外れとなったことに呆然としていた。


 そして温室内の生徒たちの半分、主に水寮の生徒たちが厳しい目をサラサッタたちに向け始める。


 そう、彼女たちは無関係(・・・)な私たちに危害を加えるところだったのである。


 ラタフィアが防がなければ、私たちは泥まみれだったろうし、目に入ったりして大変なことになったかもしれない。



 ただし、これは私が作為的に生み出した状況である。



 もう一度言おう、これは私が作為的に生み出した状況である!!



 ふふん、普段は頭使うの苦手だけど今回はいい仕事をしたと思う。

 これでサラサッタと取り巻きーズはマリーを攻撃しにくくなるはずだ。


 狙うはサラサッタの鎮火。切実に落ち着いてほしい。


 私やラタフィアは、普段から親切で穏やか、黙っていれば儚げな美少女のコンビである。


 それ故に、水寮の生徒たち(特に男子生徒)はそんな私たちが泥団子の脅威に晒されたということに憤ったようだ。


 寮と言うのは内部の結束が固くなりやすいものである。


 身内は守ろうっていうのが自然になるんだよね。とてもありがたい。


 そして攻略対象のみならず――勿論私も含めて――人間と言うのは美少女に弱いのだ!!


 がははは、利用するようで悪いがゲスヒロインと呼ばれようと、すでにショタコンヒロインの称号を戴く私に死角は無い!!



 さて、ピリッと怒りの気配を滲ませる水寮の面々。

 マリーについては、彼女自身の失敗が原因であったことから踏み出しにくかったのだろうが、無関係な者に危害が、となれば話は別である。


 成功だね。


 こうなるだろうと予測しての行動であった。


 踏み出しにくかったところへ、私のゲスい思考が背中を押していくぜ!!


 助けることになりそうだから、今まで傍観していたことは許してプリーズ。


 隣でラタフィアが「なるほど」と、物言いたげな表情で私に視線をくれたのを感じて、微かに顎を引いて頷く。


「びっくりした……」


「……防御が間に合って良かったですわ」


 何気にノリノリなラタフィアであった。


 巻き込まれた(てい)での行動ならば彼女のポリシーには違反しないようだ。


 サラサッタと愉快な取り巻きーズは気まずげである。そうだね、気まずかろう。


 マリーと友人たちはポカンとしていた。


 よし、これで騒動がうやむやにならないかなー……――――






「っ……この程度の魔法も満足に扱えないのっ?!」


 ならねぇのかいっ!!


 サラサッタに怒鳴り付けられたのは、私が泥団子を操ったことによって盛大に的を外した取り巻き令嬢Aである。


 サラサッタに、気まずさを紛らすために八つ当たりされた様な状態の彼女は一瞬呆然としてから、サーッと青褪めた。


 これは困った。


 この状況は、一応想定してはいた。

 しかし、こうなる可能性は限りなく低いと思っていたである。


 取り巻き令嬢Aも悪い子であるが、的を外したのは私が彼女の泥団子を操ったからだし、サラサッタの機嫌が悪くなるこの雰囲気を意図的に作り出したのも私だ。


 うーん、困った。





 取り巻き令嬢BCからも睨まれて、あわれ唐突に味方を失った取り巻き令嬢Aは蒼白な顔で口を開く。


「も、申し訳ありません……普段なら――」


「言い訳など聞きたくないわっ!! この役立たずっ!!」


「っ!!」


 振り上げられた白い手。目を瞑り、身を固くして衝撃と痛みに備える取り巻き令嬢A。


 女の子が女の子をぶつのか、と私は振り上げられたその手を見つめた。




 パシッ。


「っ?! なっ、何のつもりっ?!」


 ……はーっ、やっちまった。


 気づいたら身体が勝手に動いて、サラサッタの手を背後から掴んでいた。


 こちらを振り返ったサラサッタは、桃色の目をぎょっと見開いて「は、放しなさいよっ」と私の手を振り払う。


 いや、だってさ。


 私が作り出した状況下で、いくら悪い子と言えど、実はしていない失敗でぶたれるなんて酷いじゃんね。


 流石の私でも、この状況では見て見ぬふりはできない。


 しかも動こうと一歩踏み出した瞬間、ラタフィアに背中をド突かれたのである。


 その直後、私がすでに歩き出していたのに気づいた彼女は「あら」という顔をして「ごめんなさい」と苦笑し、肩をすくめていた。


 結構、痛かった。「ハギャッ?!」と言う得体の知れない汚い悲鳴を上げそうになって、必死に堪えた私を誰か褒めて。


 まあ、つまりはラタフィアの考えでもここは行くべきだったと言うわけで、激しい打撃による賛同を得た私は自信を持ってサラサッタの手を掴まえたのであった。


「いきなり何をするのっ?!」


「あ、いや……」


 ディオネア教授、早く帰ってきて。

 ジェームズはすぐ捕まるんじゃなかったの。


 私は早々に困って頬をぽりぽり掻く。


 ちら、と取り巻き令嬢Aを見ると、彼女は泣きそうな顔で私を見ていた。その目には先程までの意地悪そうな色は無い。


「……友達をぶつのは良くないと思う」


 取り巻き令嬢Aの捨てられた子犬が(すが)る様な目を見ていたら、正論ではあるが、サラサッタの様な相手に言うには確実に正しくないと分かる返答が出てきた。


 しかし出たもんは戻せないので自分の残念さへの溜め息を押し殺す。


 私の言葉にサラサッタは理解できないという(ふう)に目を細め、それから口の片端を上げて「はっ」と笑った。


 嫌な笑い方……


「友達ですって? ふふ、笑わせてくれるわね。あぁ、貴方、土寮(うち)の寮長に目をかけられている水寮の平民よね? 卑しい平民風情が、調子に乗るんじゃないわよっ!!」


 えっ?! 私、メルキオールに目をかけられてるの?! えっ、やだ……


 その時サラサッタの身体から溢れた魔力に私は思考を中断した。


「……」


 サラサッタは言葉尻に力を込め、周囲に展開した魔力を雑な泥の濁流に変えて私を取り囲んだ。


 『鍵言』を用いない変換だったからかなり雑な仕上がりである。

 所々泥と言うか土だったり、魔力そのままだったり、端的に言って適当だ。

 ただ、一瞬で私を取り囲めるほどの量を作り上げたことは、流石貴族の令嬢だなと言える。


 水寮の生徒たちがざわついて「これは流石に」とジャングルへ、ディオネア教授を探しに数人が飛び込んだ。


 直後、ちょっとよろしくない悲鳴が聞こえてきたので植物と仲が良い土寮の生徒が数人走っていった。


 私の後ろには、ラタフィアだけでなくその他数人の水寮の生徒がいるんだけどな。


 巻き込むつもり? なら、こっちもそれ相応の対応をしなきゃね。


 背後で魔力を展開したラタフィアに、左手をふらふら振るだけで「大丈夫」と伝えると、私はさっと右手で宙を凪いだ。


 水を撒くみたいに、勢いよく放射状に放たれた私の魔力は、人前なので濃密な水属性に染め上げられて、青玉(サファイア)の粒を撒いた様に煌めいていた。


 そんな青玉(サファイア)の粒の美しい連なりは、練りの甘い濁流に触れるなり、それを静謐な青い清流に変える。


 変換が完了した時点でこの魔法の主人は私だ。薄絹の羽衣の様に浮かんだ清流の帯が私を取り巻く様に動いている。


 魔力の起こした風が私の銀の長髪をふわふわ揺らす。一瞬で濁流が消えたことでサラサッタがよく見えた。


 うん。ドンマイ!


 そんな心を込めて、私は薄く微笑んだ。


 サラサッタと取り巻き令嬢BCは、私の微笑みを受けて真っ青になった。


 えっ、そんなに怖かった? 一応、女の子である私としては地味に傷つくぞ、その反応。


 水寮の生徒から歓声が上がる中、そっと私の隣に並んだラタフィアがサラサッタに向けて口を開く。


「実力努力、共に不足している身での嫉妬はいけませんわよ」


 青褪めていたサラサッタの頬にサッと朱が差した。


 ラタさん格好いい、と可憐な横顔に適当なことを考えていた私は「あっ」と大事なことを思い出す。


(そっち)の寮長に、私が目をかけられてるっていうのは多分気のせい。誰だって自寮が一番のはずだよ」


 否定しておかなきゃね。私の平穏な学園生活のために、日々の情報統制はとても大事だ。


「……っこの、っ!!」


「ただいまー、ごめんね、時間かかっちゃったね」


「!!」


 サラサッタが両拳を身体の横でギリギリと握り締めて、顔を赤くしながら何か言おうとした直後、髪を草まみれにしたディオネア教授がジャングルから帰還した。


 状況を全く知らないであろう教授の帰還に、サラサッタは口ごもると、パッと身を翻して教授の隣をすり抜け、温室を出ていってしまった。


 それを驚いた様子で、振り返って見送ったディオネア教授は、蝿取り草の棚の前に漂う魔力の残滓から状況を把握したのか溜め息を吐いた。


「仕方無いね。さ、席についたついた。続きをやるからね」


 私はラタフィアと顔を見合わせ、何だか少し気まずいなぁと思いつつも、マリーを助け起こして「今後は気を付けること」と注意し、席に戻った。


 マリーは半泣きで「アイリーン、ありがどうっ」と濁音多めで私の注意に答えた。


「さぁ、これがジェームズだね。見てごらん」


 教卓に、先程までむんずと掴んでいた蔓植物を置いた教授に、水寮の男子生徒がバッと挙手した。


「はい教授!」


「何かな?」


「さっき教授を探しに行った生徒が戻ってきてません!」


 どうやらこの温室のジャングルは、植物と仲の良い土属性魔導士でも攻略が厳しいダンジョンと化しているらしかった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] えぇー・・・助けるつもりはないとか言ってたのに、ラタフィアまで巻き込むようなわざわざ目立つような形で助けるってどうしちゃったの。 結構頭弱い設定でしたっけ、それとも闇の精霊に何かされた…
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