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乙女ゲームのヒロインに転生したらしいが、すまん私はショタコンだ~なお、弟が可愛すぎてブラコンも併発したようです~  作者: ふとんねこ
第3章.外出編

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第6話.ショタコンと王子


 しばらく、きゃーきゃー言う可愛すぎるショタ二人を抱きしめていたら、にわかに外が騒がしくなった。


 外にいる悪党にバレたか、と警戒して二人を背に庇いドアを見つめる。


 次の瞬間、バンッとドアが勢いよく開いた。思わずビクッとする。



 そこに立っていたのは――――


 レオンハル……いや違う!!


 私はさーっと青褪めた。


 緑のリボンで緩やかに束ねられた金糸の髪。長いまつ毛に縁取られた優しげな橄欖石(ペリドット)の瞳は、白磁の様な肌に良く映える。


 レオンハルトと似ていながら、確実に性格の違いがその柔和な顔立ちに現れている少年と青年の中間くらいの美男子。


 ……第二王子。レオンハルトの弟だ。


 何なんだ、この呪わしきヒロイン体質。


 攻略対象とのエンカウント率が途轍もなく高過ぎる。


「……もしかして、君は水寮のアイリーン嬢かな?」


「あ、はい、そうです……」


「そうか。ええと、私はアーノルド、風寮の二年生だよ。諸事情あって救出部隊を指揮している。それで、ここが頭領の部屋だと聞いて来たんだけど……」


 私は震える指とチベスナ顔で部屋のすみっこを指し示した。

 そこには私の右ストレートでぶっ飛んだおっさんが、死んだようにぐんにゃりと力無く倒れている。


 ……生きてるよね?

 ものすごく静かなんだけど……


 あ、今「フガッ」て言った。

 よし、生きてる。


「ええと……あれは?」


「誘拐犯のボスです」


「…………そうなんだ。分かった」


 あ、お前、考えるのをやめたな?


 ド真面目な顔で「頭領を発見! 確保せよ!」とか外へ声をかけているけれど、今確実に、よく考えたら面倒くさそうと思ったよね?!


 アーノルドね、はいはい。

 ミドルネーム系はまったく覚えていないけれど、苗字は分かる。“バイルダート”でしょ。


 おっとり系の第二王子!


 ついに、これで攻略対象が出揃ってしまった……ついでに言えば全員と対面したことにも。


 なんで『月花と精霊のパラディーゾ』はショタゲーじゃなかったんだろう。


 私は王家の紋章である双頭の翼竜が描かれた鎧を着た兵士たちがおっさんを引っ立てていくのをぼんやり見ていた。


 しかし「ハッ」と思い出す。ラルフ君たちはどうなったのか。


「あのっ、他の部屋に捕まっている子供たちは?!」


 私の声にアーノルドは振り返って柔らかく微笑んだ。


「全員保護したから安心していいよ」


「良かった……」


「君は私と一緒に来てくれるかな? 外で君の友達が待っているから」


 ラタフィアとジェラルディーンだ!


 やっぱり、王国の兵団を呼んでくれたのは二人だったんだな。でも、何故アーノルドまでいるんだろうか。


 ……あ、もしかして。


 ショーンが言っていたっけ。教会で子供たちに魔法を教えているって。

 そこに通っている子供の一人であるショーンが誘拐されたから関わったのかな?

 まあ、憶測にすぎないけれど。


 私はショタ二人の手を引いてアーノルドに続き、部屋を出た。


「ここはゴーデミルスの端。まさか堂々と王都内に潜伏しているとは思わなかったよ……」


「へぇ……」


 外に出れば周りは森である。王都の中にこんな森エリアがあったのか。


 兵士が一人近づいてきてショタ二人を連れていった。二人は本物の鎧を纏った兵士に大喜びでついていった。

 元気そうで何より。


「……そう言えば、どうやってここを?」


「君の魔力を追いかけて。あの二人が、君の魔力ならば万が一魔力封じをされていても見つけられると言っていたからね」


 実際その通りだった、と彼は言う。


 私の感想は「あの二人、すげぇ」であった。色々考えた上で動いてくれたのだろうが、本当にすごい。優秀だ。


「私の魔力は“探す”ことが得意でね」


 そう言って微笑む彼から漂う魔力は純粋な風属性。爽やかな新緑を乗せた風の香りがする。


 そう言えばバイルダート王家は昔から風属性系統なんだったっけ。

 レオンハルトの雷も、風から派生した属性だもんね。


 私はふんふん考えながら歩を進める。そんな私をアーノルドが不思議そうに見ていた。


「君は……怖くなかったかい?」


「いいえ。小さい子を誘拐して売ろうとした人たちへの怒りしかありませんでした」


「…………」


 何故ポカンとしているのだろう。そんな顔でも間抜けに見えないのは彼が美形だからだろうなぁ。


「何か?」


「あ、いや、君は面白いね」


「…………」


 いきなり何なんだ。

 多分、天然的テンションで発した言葉だろうけれど、この自然な無礼具合にレオンハルトとの血の繋がりを感じる。


 私が微妙な顔をしたのに気づいたのか、アーノルドが慌て始めた。


「ごめん、変な意味ではないんだ」


「はぁ……」


 その時、ふとアーノルドに向けていた目を前に向けると友人二人の姿が少し先にあった。


「ラタフィア! ジェラルディーン!」


「「アイリーン!!」」


 私は何か言いたげだったアーノルドを置き去りに、しゅばっと駆け出した。


 両腕を広げたラタフィアの胸に、躊躇い無くふわりと飛び込んでみる。優しく抱き止められて「うふふ」と心がくすぐったくなった。


「無事で良かったですわ。怪我はありませんか?」


「うん、この通り無傷だよ。少し汚れちゃったけどね」


「まったく、気にしていた事件に一瞬で巻き込まれるなんて、迷惑な体質ね」


「あはは……まあ、解決に繋がったからいいんじゃないかな」


「ふん……まあ、無事ならいいわ」


「二人とも、ちゃんと兵団を呼んでくれてありがとう。お陰で子供の保護まで完璧だよ」


 私はラタフィアから身を離してそう言った。彼女は甘やかな香りがして少しドキドキした。


 ジェラルディーンはつんと澄まして腕を組んでいたが、私の背後からアーノルドの足音が聞こえると一瞬で淑女の礼をする。


 完璧な所作だ。鮮烈な上流階級の輝きを感じる。高貴な紅薔薇が(こうべ)を垂れる様は、光景を額縁に閉じ込めてしまいたいほどに美しかった。


 見ればラタフィアもそうしており、あれまぁ、と気の抜けたことを思った私は振り返って見様見真似で膝を折る。


「いいよ、楽にして」


 そう言われて顔を上げると、アーノルドは私を見ながら苦笑していた。


「変に気負わせてしまったら悪いから隠しておこうと思ったけど、こうなったら仕方がないね」


「その点についてはご安心を、殿下。アイリーンは相手の身分で畏縮する繊細な者ではありませんので、遠慮無く明かしても問題ないかと存じます」


 ジェラルディーンがそっと断ってからそう言った。私はその内容に口をもにょっと動かして首を傾げる。


「うーん、私、貶されてる?」


「別に貶していないわよ」


「そっか」


 そのやり取りにラタフィアとアーノルドは笑っている。

 それから、アーノルドは「じゃあ遠慮無く名乗らせてもらおうかな」と微笑んだ。


「私はアーノルド・シルフェ・ギャビン・バイルダート。君もよく知るレオンハルトの弟さ」


 将来は兄を補佐する優秀な宰相になる予定なんだよね! 私、知ってる!!


「よろしく、アイリーン嬢」


「よろしくお願いします……」


 よろしくしたくないけれど!!

 私は溜め息を吐き、自身の悪運(体質)を呪った。


 こうして私の初の休日は、誘拐からの最後の攻略対象との遭遇という濃厚なものになってしまった。

 楽しくお買い物もしたんだけどなぁ。その記憶が薄れる濃密さ。

 何てこった!!


 王宮の兵士に馬車で学園まで送ってもらった私は、鬱憤を晴らすため、門でぽんやり座っている異次元熊ちゃんのふわふわもふもふの白いお腹に飛び込んだのであった。


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