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乙女ゲームのヒロインに転生したらしいが、すまん私はショタコンだ~なお、弟が可愛すぎてブラコンも併発したようです~  作者: ふとんねこ
第2章.学園編

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第29話.ショタコンと闇の精霊


 私が睨み付けると、本物か怪しいノワールは大きな溜め息を吐いた。


「そう警戒してくれるな。俺は別に君に危害を加えようって気はないんだから」


「一人部屋の女子生徒が不法侵入者の同級生を警戒するのはおかしいことじゃない」


「不法侵入者……? あ、確かにそうなるな」


 ええぇっ?! まさかの無自覚?! そんなのあり? 堂々としていたのは自分が女子生徒の部屋に不法侵入したっていう自覚がなかったから?!


 本格的にやばい人だ。


 む……? やばい人? 何か引っ掛かるなぁ……何だろう?


 何か引っ掛かったけれど思い出せない。


 私の記憶力が乏しいのは今に始まったことではないので仕方が無いから忘れよう。


「まあそんな些事は放っておいてくれ」


 はぁっ?! 私にとっては“些事”じゃねぇんだぞっ!! ふざけてんのかこいつ。


「ははは。睨むなよ」


 怒りから、魔眼に更に魔力を注ぐ。


 ……??


 本物か怪しいノワールの姿が少し揺らいだ。


 もしや、(まぼろし)


 じゃあこれは本物のノワールが作り出した幻影とかなのかな? それにしては良くできている。


 水魔法にこんなことでき……――――





――――できるわけがない。


 そうだ、こいつは水属性じゃないんだった。


 完璧に思い出したよ。ノワールのプロフィール。


 彼は闇の精霊なのだ。


 最初、説明書でこの文言を見たとき大笑いしたっけ。

 「闇の精霊とか(笑)」って、彼が中学二年生で発症した重病を引きずり続けているちょっと憐れな人だと思ったのである。


 しかし、彼は本当に“闇の精霊”なのだ。


 邪神を封じた世界に満ちる魔力の源である精霊たちの一人。闇の魔力の本当の根源である存在。


 黒に近い濃い紫の長髪に、黄金色の瞳をした尖った耳の青年の姿をした、紛うことなき精霊なのである。


 あー、思い出せて良かった。


 隠しキャラのショタについて記述がないか、目を皿のようにして端から端まで説明書を読んでおいて本当に良かった。


 隠しキャラのショタについての記述は酷いことに、一文字もなかったけれど。


 ……つまりこれは本物のノワール。闇の魔法の幻影を纏ったモブキャラ詐欺だ!!


 おのれ不法侵入詐欺師め、と私は魔眼を本格的に発動した。


「おいっ、君、何をする気だ?!」


「うるさい」


 熱を帯びた両の目から魔力を放つ。ノワールが纏う、魔眼でも判別できない幻影を打ち払おうと私の魔力が彼を取り囲んだ。


 これは、すごく難しい。どれくらい難しいかと言うと、師匠の全力の魔法を一瞬で解除するくらい……だと分かりにくいな。


 ……ああ、あれだ。想像してみて。

 菫色の瞳を輝かせて、白いもちもちの頬を染めた私の天使リオが、こっちに両手をいっぱいに伸ばして言うんだ。


――「おねえちゃん、だいすきっ!」――


 ぐふっ……きゃわいすぎか。


 これに悶絶するなってくらい、ノワールの幻影を解体するのは大変だった。


 ああ、私の天使(マイエンジェル)リオが恋しい。ショタが足りない。

 不法侵入詐欺師や隠れ邪神ファンがいる学園生活に、ショタと言う癒しが欲しくてたまらない。


「なんだ……君、これを解除する気なのか」


 そう言ったノワールが不意に幻影を解いてしまった。魔力の勢いが余った私はドッと疲労に襲われる。


「よく気づいたな。ますます気に入った」


 本性を現した闇の精霊が、私を見つめて微笑んでいた。



 月光に照らされた、腰まである艶やかな黒に近い濃い紫の髪。

 人では有り得ない黒紫水晶(ブラックアメジスト)の色は、月の蒼の光を帯びて幻想的に煌めいている。


 柔らかく細められた瞳は燦然と光を放つ黄金色。私の魔眼と同じであると言うのが納得いかない。


 そして、特徴的なのがその先が尖った所謂(いわゆる)エルフの様な耳である。

 そこには両腕のものと同じ金環が揺れ、瞳の色に似ているからか見つめていると酩酊に近い感覚を覚えた。


「俺は原初の闇から生まれ出でた、闇の魔力の根源、闇の精霊さ」


「……っ」


 ……あっぶないっ!!


 真面目な顔して「闇の精霊さ」とか言うから知っていても笑うところだった。

 全力で口の中を噛み、ぎゅっと手を握って耐えた私、すごく偉い。


 あ、口の中、血が出てきた。

 痛い。


「退屈だと思っていたが……どうやら何かの縁で結ばれていたみたいだ」


 結構深く噛んだせいで出てきてしまった口内の血に困っている私に、ノワールが何やら言いながら近づいてくる。


「もともと、闇の力を蓄えた者を狙ってきたんだけどな……」


 すっと自然に伸びてきた手が、私の銀糸の髪を掬い上げた。

 ぎょっとして固まっている私の反応を楽しむ様に笑って、ノワールはその毛先に口付ける。


「っ、何を……」


「『精霊の愛し子』」


「……」


 そりゃあバレるよね。

 だって彼は精霊なのだから。

 黙した私に、ノワールはさらりと掬っていた髪を離した。


「闇の力を蓄えた者より、君の方が美味そうだ」


「え゛」


 恐ろしいほどに自然な動作で再び伸びてきた彼の手が私の頬に触れる。

 魔眼で抵抗しようにも、純然たる魔力を有する精霊には上手く効かない。


 後ずさった私を、好機とばかりにそのまま壁まで追い詰めて、ノワールは至近距離で私を見下ろした。


 長いまつ毛の一本一本まで数えられそうな距離。真夜中の香りにも似た甘やかな幻惑のにおいがする。


 押し返そうと伸ばした両手は、ノワールの左手に捕まって頭の上に縫い止められてしまった。


 まずい、本格的にまずい。


「俺の愛し子。他の精霊には渡さない……」


 熱を帯びて、蕩ける様にかすれた甘い声が降る。暗がりでも煌めく黄金色の目の中で、瞳孔がきゅっと縦に細くなるのが見えた。


 やばいぞ、セクハラどころじゃない。

 神隠し的なルートを感じる。

 

 精霊だから、私が『精霊の愛し子』である時点で好感度って関係無いんだなと思った。


 なるほど、ヒロインはこんなヤンデレの様な野郎を攻略していたわけか。

 あれだ、よくあるやつ。ノワールはラスト辺りで真実の愛的なのに気づくんだ。

 ここから更に好感度を上げるって純粋にすごい。


 だがしかし、私は全力でお断りなのだ。

 胸元でリオがくれた菫の花弁の石が、ノワールを警戒しているのか、いつもよりかなり温かくなっている。


 とても心強い。


「今の内に(しるし)を付けておくか……」


 私がぐるぐると考えている間にノワールがそんなことを言い出した。

 あほか、それは困る。何をする気だ。


 ノワールの右手が私の顎に触れて、そっと持ち上げられる。目が合うと、彼は不思議そうな顔をした。


「口の中を怪我しているのか?」


 おうよ、てめぇのせいでな!


「ふっ……天上の美酒の様な甘い香りだ」


 何を言っているんだろう。この精霊(ひと)の鼻は憐れにも壊れているらしい。

 どう足掻いたって血のにおいは血のにおいであろうに。


「っ!!」


 ノワールの整った顔が近づいてきた。


 むせ返る様な真夜中の香り。熱を帯びた切望にも似た欲望に煌めく双眸。


 こいつ、ショタコンである私に、まさかキ、キスする気じゃ……?

 待て待て待て、止まれ、それ以上進むな変態!!


 私は必死にもごもご動く。

 しかし、無情にもノワールの甘やかな吐息が私の唇に触れた。


 あ、と思ったときには身体が固まろうとしていた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 難易度表現です! 師匠の全力魔法を一瞬で解除…だと、一瞬でなければ良いじゃない?と思ったけれど、 天使リオに悶絶しないぐらいの難易度…不可能という事が理解できました。 [気になる点] 神…
感想一覧
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