第27話.ショタコンと決闘後
その後クラリッサに連れられて現れたギルバートは、なんと学園長と一緒で、私が『水牢』と『水縛』でティーナを抑えているの見ると驚いたような顔をして、それから苦笑した。
結界が解かれ、私はティーナをポコッとやって(具体的には言わないでおく)学園長に引き渡した。
「無事で良かった。それにしても、本当に素晴らしい魔法の腕ですね」
「目立っちゃって嫌ですね……」
「こんなことになるとは思っていませんでした……あのバッジに触れた時、もっとよく見ていれば……」
「あー、それはいいんです。私も気づいていましたから。まあ、こうなるとは思いませんでしたけど……」
ギルバートは申し訳なさそうな、気遣わしげな顔で私を見ていたので、微笑んで「あいむふぁいん」の意を伝えようと試みる。
「まさか、貴方が魔眼の才まで有しているとは……」
「ぐふっ、あはは……隠しておこうと思ったんですけどね……」
「使ってくださって助かりました。恐らく彼女は、自分の意志であの力を使ったわけではなさそうですから」
「へ?」
運ばれていくティーナを見ながら彼が言った言葉に私は盛大なクエスチョンを浮かべた。
もしや、ティーナは隠れ邪神ファンじゃない? 学園生活の爆弾は無くなったわけじゃないの?
嘘ーーーっ!!
「結界に干渉して、どこからかあの力を送り込まれていたようです。元々、発動の契機となる様な種は仕込んであったようですが」
ギルバートが指した地面を見れば、私が投げつけたティーナのバッジが転がっていた。
そう言えば、ティーナがピンチになった時に突然重くなって闇パワーを発し始めた気がする。
「じゃあ……ティーナは誰かに操られていたってことですか?」
「恐らく」
「それにしても、火の元は私への妬みみたいですから、微妙な気持ちです……」
多分、その誰かがティーナが抱いていた私への妬心を利用したんだ。
つまりその誰かが真の隠れ邪神ファンと言うわけで。
「今後とも警戒は怠らないでください」
「はい……」
はぁ、憂鬱である。
「何かあれば、遠慮せずに私のところへ来てください」
「あ、えー、はい」
水宝玉の瞳に真っ直ぐ誠実に見つめられ、私は困った。
「あの、寮長……」
「ギルバートと」
「えっ?! ギ、ギルバート、さん」
なんじゃお前! 困るじゃんか!!
「……仕方がありませんね、今はそれで妥協しましょう。それで、何ですか?」
「ええと、その……私を守ろうとしてくださるのは王太子殿下にそう言われたからですよね? あの、そこまで私に心を砕いてくださらなくても……」
「いいえ。それだけではありません」
ん? じゃあ何だってんだ!
私は困惑してギルバートを見上げる。
こう見るとラタフィアと似ているところがあちこち見つかる。
有無を言わせずこちらを頷かせることがあるところもそっくりだ。
「これが私の騎士道ですから、とでも申しておきましょう」
穏やかに微笑むギルバート。
明らかにはぐらかされているが、まあ彼は動くだけで目立つレオンハルトより紳士だから、そこまで気にしなくてもいいか。
「うーん……じゃあ、何かあれば、よろしくお願いします……」
「勿論です」
何かあっても行かなくていいや、と私はこっそり溜め息を吐いた。
こうして私の初決闘は予想もできない事件を起こして、その裏に隠れている強大な敵の姿を朧気に見せて終結した。
結論として言えば、色々ありはしたけど、ラタフィアに抱きしめられた後、ジェラルディーンに魔眼についてあれこれ聞かれ、そこへ突撃してきたレオンハルトをジェラルディーンの後ろに隠れて彼女と一緒に撃退したのが一番疲れたかな。
てか、決闘見に来ていたのか……途中で聞こえたあの声は幻聴じゃなかったようだ。
まあ一人でも十分強いってことを示せたから、乙女ゲームにありがちな「お前を守る!」的なのが必要ないことを伝えられたかなと思うと良いとしようか。
だってさ、王族貴族が平民を庇って「お前が、無事で良かった……(ガクッ)」みたいなのお断りだからね。
午後の授業は中止になって、私はその夜ぐったりしてベッドに突っ伏した。




