第25話.ショタコンの決闘
決闘イベントって必ずテンション高い実況者がいる。
三人称視点です。
『皆様ご機嫌よう! 今年度初の決闘のお時間です! 実況は私、スオーロ・チヴェッタ寮三年、クラリッサ・エーデルワイスが勤めさせていただきます!』
闘技場に設置されたラッパ型の植物から響き渡る熱い女子生徒の声。
『今年度初となる今回ですが、なんとアクア・パヴォーナ寮の一年生同士の戦いとなります!!』
熱のこもった観客の歓声。地鳴りの様に地の震えすら巻き起こしている。
『挑戦者は、アクア・パヴォーナ寮一年、ダドッド村出身、ティーナ!!』
大きくなった歓声と共に西の入場口から姿を現したのは、緊張の様子は見せず、据わった目で真っ正面を見据えている焦茶の髪の少女。
そんな彼女を観客席のかなり前の方の列で見たラタフィアとジェラルディーンは顔をしかめた。
「彼女、様子がおかしいですわね……」
「明らかに目が変だわ。少し、アイリーンが心配ね……」
嫌な感じがする、と二人はじっとティーナを観察していた。
『対するは、同じくアクア・パヴォーナ寮一年、ジゼット村出身、アイリーン!!』
アイリーンが姿を現すと、歓声はますます大きくなった。
円形闘技場に差す陽光に煌めく銀の長髪、長いまつ毛に縁取られたとろりとした琥珀色の瞳は、少し緊張しているからかそっと伏せられている。
『両者とも、白線まで進んでください!』
クラリッサの言葉に、二人の少女は無言で乾いた地面に引かれた白線まで進んだ。
『ルールの確認をします! 戦闘は闘技場の結界内のみで行うこと! 観客の皆様は中に入らないようお願い致します!』
どちらかが気絶するか、降参を宣言するまで戦うこと。命に関わる様な攻撃魔法は用いないこと。
クラリッサはそう続け、最後に一言
『死ななきゃ何してもいいですよっ!! それでは……始めっ!!!』
新入生からしてみれば、どうなんだそれと思うような勢いある言葉の後、試合開始となった。
まず動いたのはティーナ。ざわっと揺らめく魔力。目は暗く冷たく、動かないアイリーンを見据えている。
「『水球』三弾!!」
鍵言を受けて宙に現れる清水の弾丸。
それを観察して、ラタフィアはティーナが入学前にしっかりとした魔法の指南を受けていたのであろうと推測する。
「はっ!!」
勢いよく放たれる三つの『水球』。陽光を反射して煌めく様は、まさに銀の弾丸の様であった。
風を切って自身に迫る弾丸に、アイリーンは眉一つ動かさずじっとしている。
『ティーナ、早速攻撃です! 一年生にしてはなかなかのものですね! 対するアイリーンは動かない!』
クラリッサが「どうしたのでしょう」と続けようとした時、アイリーンの白百合の花弁の様に美しい繊手が持ち上がった。
「『水球』六弾」
ティーナの『水球』とは比べ物にならない速度で組み立てられた魔法。宙に現れた水の弾丸は、大きく、そして力強い。
アイリーンの『水球』は即座に放たれ、ティーナの『水球』三弾を破壊して、相殺されることなく突き進む。
「くっ……『水壁』!!」
『おおっ、素晴らしい魔法ですね! 我々上級生にも匹敵する構築速度……これは期待できますね!!』
ティーナが展開した青い水の壁に、六弾の『水球』が突き刺さる。
それだけでは勢いを殺しきれないと判断したのか、ティーナは横に跳んで『水壁』を抜けた弾丸をかわした。
「『水流』!!」
反撃に転じるティーナ。生まれた青い水流は陽光に煌めいて、アイリーンに向かっていく。
「……『海波』」
溜め息を吐く様に、アイリーンの桜桃の粒の様な唇が鍵言を紡いだ。
即座に展開する爽やかな海洋の香り。生まれた『海波』は、宙を舞ってティーナの『水流』を呑み込んだ。
「きゃああぁっ!!」
そのままの勢いでティーナのことも呑み込んで押し流す。闘技場の壁に激突、観客が歓声を上げた。
『おおっと! これは決着となるか?!』
アイリーンはじっともくもくとした砂埃の白い靄を見ている。
その時だった。
「ぐっ、あ、あぁぁあぁぁぁっ!!!!」
響き渡ったティーナの絶叫。観客は怪訝な顔で隣席の友人と顔を見合わせ、実況のクラリッサすらどんな言葉を発せばいいのか分からず黙っている。
ただ、アイリーンだけが違った。
「ラタフィア、見なさい、あの子の目……」
「……あぁ、アイリーン」
先程までの退屈そうな表情とはうって変わって、ティーナを警戒するような険しい表情をして。
「あれは……魔眼ね」
常ならば琥珀色である瞳を、煌々と黄金色に煌めかせて、溢れ出した魔力の奔流が銀の長髪を揺らしていた。
そして、もうもうと上がる砂埃の中から、ゆらり、と俯いたティーナが立ち上がった。




