第24話.ショタコンの決闘前(2)
私は闘技場の場所を知らなかったので、ラタフィアとジェラルディーンに連れられてとことこ徒歩で行った。
闘技場も、温室や訓練所の様に学園の敷地内に併設されている。イタリアなんて行ったこともない私がローマ風味を感じるほどの、立派な円形闘技場だ。
「貴方はあっちよ」
「分かった。ありがとう二人とも!」
「頑張ってくださいね」
観客席への入口とは違ったところにある選手入場口みたいな所に誰か立っている。係員の方にちげぇねえと私はそちらへスタスタ近づいていった。
げっ!
「こんにちは、アイリーン。昨日一日過ごしてみてどうでしたか?」
「あ、はい。こんにちは。楽しかったです」
陽光に煌めく水宝玉。胸元には燦然と輝く孔雀の羽根型のバッジ。我等が水寮の寮長ギルバートである。
若干固まって問いに答える。何でこの人が……係員の方だと思ったじゃんか。
「二日目にして決闘が、しかも自寮内で発生するとは思いませんでした……あぁ、基本的に決闘の運営は我々寮長が行うので、説明と案内に来たのですよ。相手はすでに準備を整えています」
私が不思議そうにしているのが伝わったのか、丁寧に説明してくれるギルバート。
やはり紳士だ……
私はそこで「一ついいですか」と疑問をぶつけてみることにした。
「何にもしていないのに決闘を申し込まれるって良くあることなんですか?」
ギルバートが固まる。
それから彼は幼子を諭す様な微妙な笑みを浮かべて、少し首を傾げて私に聞き返した。
「アイリーン、何もしていない、と?」
「はい」
「相手、ティーナとの面識は?」
「授業で見たかなぁってくらいです」
「それは……」
ギルバートはしばらく困った様に苦笑していたが、やがて諦めたのか大きな溜め息を吐いた。そんな様すら絵になるから美形はすごい。
「何か、他に気になることは?」
「あ、これ、寮長にはどう見えますか?」
ポケットからティーナのバッジを取り出してギルバートに差し出す。
彼はそれに触れようと手を伸ばし、爪先がバッジに触れた瞬間、弾かれた様に手を少し引いた。
「?」
「……これは」
首を傾げた私に向けられた彼の表情はとても険しく、真剣だった。
「少し、調べる必要がありそうです」
「そ、そうですか……」
「とにかく今日は、頑張ってください」
「はい、それは分かっています」
そう答えた私に、ギルバートは微笑んで歩き出した。少し進んでから、彼は「ああそう言えば」と立ち止まって振り返る。
「私のことはギルバート、と呼んでくださって構いませんよ」
「え、えぇ……?」
なんでよ寮長。
わけわかめ。むむ、古いな。
私は去っていく彼の背を見送り、溜め息を吐き出して選手入場口的な入口にのこのこと進んだ。
その先に本当に係員の方がいて、合図があったら入場するように、と説明を受け、私は闘技場への入場口で座り込み、ぼんやり合図を待つことになった。




