第10話.ショタコンの友達1号
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貴族の令息令嬢が通うからか、少し冷めていても食事はとても美味しかった。
でも、見知らぬ人に囲まれた寂しいご飯は切ない。リオがあのもちもちの頬にごく稀にソースを付けて気づかないのを、拭き取ってやるあの幸せすぎる瞬間とかが無いなんて……孤独だ。
「……あの、よろしいでしょうか?」
「へぁっ?!」
項垂れていたら向かいから突然声をかけられ、私は舌を噛んでしまった。痛い。
話しかけてきたのは勿論向かいの美少女である。
「……何か?」
「あの……私はラタフィア・ロゼ・カスカータと言いますの。貴方のお名前を、教えてくださる?」
美少女が――ラタフィアが白蝋の様な頬を赤くして小首を傾げ、そう問いかけてきた。
な、なんて可愛い。
「私はアイリーン。ええと、ラタフィアでいいかな?」
「ええ。ラタ、でも構いませんわ。アイリーンとお呼びしても?」
「うん。嬉しい」
よろしくねラタ、と言うと彼女は赤かった頬を更に赤く染め、青風信子石の目を細めて恥ずかしそうにはにかんだ。
「私、寮でお友達を作れるか不安だったんです。アイリーンがこちらへ来てくれて良かった。こちらこそ、よろしくお願いしますわ」
なんじゃこの可愛い生き物は……
現在の私の頭の中の可愛い生き物ランキングのトップに君臨しているリオに続くレベルの可愛さだ。
「……ん?」
少し待って。
彼女『ラタフィア・ロゼ・カスカータ』って名乗った?
この家名を、ついさっき聞いた。
――「はい。カスカータ侯爵家嫡男の誇りにかけて」――
学園長に私のことを頼まれたギルバートが言った台詞だ。見てごらんよ“カスカータ侯爵家”だって。
「ね、ねぇラタ、少し聞いていい?」
「ええ、構いませんわ」
強張った顔で聞いた私に、ラタはふんわり微笑んで答えてくれる。
「ギル……寮長とのご関係は?」
危ない。名前呼びどころか、呼び捨てにするところだった。
それを聞いた彼女はきょとん、と青風信子石の目を瞬き、そして優しく微笑んだ。
「兄ですわ」
「へえ、そうなんだ」
私は自分の運の良いやら悪いやら、取り敢えず攻略対象関係者とのエグい遭遇率に訳が分からなくなり、一周回って爽やかな笑顔になった。
もう、どうにでもなーあれ!!
食事の後、新入生は少し交流しあってから男子はカイルに、女子は女の先輩に引率されて男子棟と女子棟に案内された。
正面から見たときの左が女子棟である。
私はラタフィアと並んで階段を上りながら、一人部屋か彼女と同室がいいなぁと考えていた。
「部屋の前で名前を読み上げるから、部屋が分かったら入って。そのあとは夕食まで自由時間よ」
ふーん、と思いながら少しずつ減っていく生徒たちに続いて歩を進める。
どうやら貴族令嬢たちは一人部屋、平民は二人か三人部屋のようだ。
ラタフィアとは一緒になれそうにない。残念だ。
「ラタフィア・ロゼ・カスカータ」
「はい。では、アイリーン。またあとで」
「あ、うん! あとでね!」
ラタフィアが呼ばれて、見とれちゃうくらい優雅な一礼の後、一人部屋に入っていった。
あれが、本物の淑女の礼か……
多分私には一生かかっても体得できそうにない淑やかさである。
「アイリーン!!」
「っあ、はい!!」
ラタフィアの礼について考えていたら私の名前が呼ばれた。
ラタフィアの隣室である。大きい部屋には見えないけれど、まさかすし詰めにされる感じ? 寮生活、ハードだな。
そう考えたのだが、私が進み出ても他の名前が呼ばれない。首を傾げているうちに新入生の一団は進んでいってしまった。
平民らしい子たちは怪訝な表情でチラチラ私を振り返っている。
すまんね、私にもよく分からない。
えーと、結論を言えば。
私は一人部屋らしい。
まあ、良かったとしよう。
これなら夜中、どんなにヤバイことを寝言で口走っても心配ないな。
勿論、聞かれたらヤバイことを口走るつもりはないけれど。
―――――………
自由時間に部屋と荷物の片付けを終え、少々休憩して過ごした。
そしてすぐに先輩の女子生徒が言っていた夕食の時間になった。
夕食に一緒に行こうと思い、ラタフィアの部屋の戸をなるべく上品な感じになるようにノックする。
「ラター。アイリーンだけど、そろそろご飯に行かない?」
外からそう声をかけると中から「はい」と柔らかな声が返ってきて、すぐに扉が開いた。
「お待たせしました。参りましょう」
「大丈夫ー」
そうして私たちは慣れない様子の新入生に混じって一階へ向かった。
着席型のビュッフェ形式の夕食の席には昼と違って上級生もいた。混み合っているが、皆譲り合いながら動いているのであまり騒がしさはない。
合宿先とか、ホテルの朝食みたいな感じで、料理がずらーっと一列に並んでいる。
「どこから並べばいいんだろう……?」
「迷ってるのか? こっちだぜ」
ラタフィアと一緒にキョロキョロ最後尾を探していたら、若干馴れ馴れしい声がかけられた。
そこには、多種多様な肉料理が山盛りになった皿を持った茶髪の青年がいる。全く知らない人だが助かったと二人で彼の後ろに並んだ。
「二人とも新入生だろ? 君は遅れてきたな。俺も新入生だから同級生だ。よろしくな」
「助かりました」
「ありがとう」
「いいって。こう言うのはお互い様だろ」
彼は目立った容姿ではないがニカッと笑ったところは、ああ格好いいんだろうな、と感じさせる顔であった。
何故「だろうな」かと言えば私が生粋のショタコンだからに他ならない。
絢爛豪華な攻略対象より、こう言う感じの人と結ばれた方がヒロインも幸せだろうにと考えつつ、私は彼の持っている皿に視線を落とした。
「……お肉、好きなんだね」
「ああ。育ち盛りだからな」
「ふぅん」
列がゆるゆると進み、彼は目的の肉が目の前に来たらしく(唐揚げっぽい何か)それを十個ほど沢山の肉料理の山の上に器用に積んで「じゃあな!」と去っていった。
育ち盛りが自分で育ち盛りって言うって珍しい。普通お母さんとかが言う台詞じゃないのか。
「あ」
「どうしましたか?」
ピリ辛炒めの肉を取る途中で声を上げた私に、肉料理青年が十個ほど盛っていたので気になったらしく唐揚げっぽい何かを皿に取ったラタフィアが首を傾げる。
「名前聞きそびれたね」
「あら、そう言えば……」
お話ししやすい殿方でしたからね、とラタフィアが微笑んだ。
それを見て私は肉を取る動きを再開しながら苦笑した。
「そうだね。まあ、同級生なんだし、今度聞けばいいよ」
「それもそうですね」
私も唐揚げっぽい何かを皿に取る。
私たちはその後色々、野菜やらパンやらも皿によそって、この混雑した広間で空いている席を探した。
ようやく揃って座れた頃にはお腹がペコペコで、話もそこそこに夢中でご飯を食べた(ラタフィアはそれでも優雅だった)。
唐揚げっぽい何かは甘じょっぱい味付けでとても美味しかった。
「そう言えば、アイリーンは寮分けの儀式に出ていないから知りませんよね」
「ん? 何を?」
「訓練所の使用についてです。もう今日から使用しても良いそうで、私は食後の運動にと思ったのですが……どうします?」
「何それすごい。行く!」
「では二人で行きましょう。訓練所は全ての寮に併設されているので、ここの訓練所ではきっと沢山の水魔法が見られますわよ」
「わぁ、楽しそう」
私はコップの中の水を眺めて微笑んだ。
師匠の魔法を散々見ていたから、水魔法は得意である。
ふるりと期待に震える水面。私はコップを持ち上げて中の水を一気に飲み干した。
おっし、いざ、訓練所へ!!
アイリーン「は! 遭遇率にうんざりしてつい思考を放棄しちゃったけど、どうにでもなって良いわけなかった! リオが隣にいないとやっぱり駄目だ! ぐぉぉぉっ!!」
ショタが……ショタが足りない……




