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乙女ゲームのヒロインに転生したらしいが、すまん私はショタコンだ~なお、弟が可愛すぎてブラコンも併発したようです~  作者: ふとんねこ
第2章.学園編

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第1話.ショタコンと山賊


 木々の生い茂る森の中、私とその他数名の人を乗せた行商人の馬車の列は進んでいく。

 同乗者で目的地も同じなおじいさんが教えてくれたが王都はそんなに遠くなく、この大きな森の合間の道を抜けたらすぐだと言う。

 地図じゃ分からないことも多い。私は地図が苦手だ。まあ良かった、野宿とかなさそうで。


「おっきい森ですねぇ……」


 山から平地へ森が続いている感じだ。私は緑に目を向けてぼんやり呟く。

 森の香りは、似てはいるが私がリオと師匠と修行していたあの森とは確実に違う匂いで。何だかもうすでにホームシック。


「そうじゃな……だが気をつけねば……」


「え? なんか出るんですか? 猪とか熊ですか?」


「いや……」


 おじいさんは深刻そうに続ける。ちらりと森に目を向け、私もつられてそっちを見た。特に何もいない。


「ここはな……山賊が出るんじゃ」


「え、えぇ~……」


 ファンタジーの山、森の道あるあるじゃん。それ、乙ゲーにいらないよね? どちらかと言うと冒険者系ファンタジーのイベントじゃん。いーやーだー!


 脳内でそんな文句を言いつつ私は目を閉じて溜め息を吐いた。無理、きつい。

 ヒロイン補正とかで多分死なない気はするけど、目の前で人が死ぬのは嫌だ。


 うん、山賊が来たら倒そう。


 折角のチートだしね。

 人のために活用しなきゃ。


「行商の者らもその辺りは心得ているから護衛をつけているがのう……」


「そうですか……」


 その後は沈黙が降りて、ただ馬車の車輪がガタガタ言う音と森から聞こえる鳥の囀りだけが響いている。



 あのさ、そう言う話した後にこうやって沈黙するのやめない? なんかフラグっぽいじゃん。





 ガサガサッ!!


「オラァッ、荷物置いてけぇ!!」

「俺らが誰か分かってんだろうなぁ?!」

「がっはっはっ!!」


 ほら出たぁっ!! フラグって言ったでしょ?! ほらね出たじゃん!!


 何ともタイミングの良いことで、ばっちい感じの粗野な男たちが森の中から、明らかにお手製の斧やら槍やらを持って出てきた。

 と言うかさ、山賊って言うから数人だと思ってたのに結構いるよ? 三十人くらいいない? やばくない?!


 山賊たちは合計五台の馬車と荷車を囲んで、じりじりと迫ってくる。にやにやしていられるのは自分達の実力にかなり自信があるからだろう。


「いひひっ」


 うわ気持ち悪。


 そう思ったのが通じてしまったのか、その気持ち悪い笑い方をしたばっちい出っ歯の男が私を見た。あ、目合っちゃった。


「おぉ?! 親分、見てくだせぇ!」


「何だ?!」


 親分――こちらも汚っこい――が呼ばれて前方から歩いてきた。おじいさんが庇ってくれようと私の前に出てくれる。

 しかし、ばっちい親分はドカッと荷台に上がっておじいさんの肩を掴んだ。


「オラッどけ、じじい!」


「うっ!!」


「おじいさん!」


 乱暴に倒されたおじいさんの無事を確認しようとしたのに、ばっちい親分が私の肩を引っ掴んだ。

 咄嗟にキッと睨むとばっちい親分はにまにまと嫌らしく笑う。


「ほぉ、上玉じゃねぇか」


「っ!!」


 触るな、とばっちい親分の手を打ち払って私は立ち上がった。私を守ろうとしてくれたおじいさんを吹っ飛ばした時点で、私は彼等にはキレている。


 ぶっ飛ばしてやる。


 さて、私が内心どう料理してやろうかと考えていることを知らないばっちい親分は払われた手を振って笑った。


「気の強ぇ女は嫌いじゃねえ」


 あっそう。知るか。


「『渦潮』」


 おもむろに一歩踏み込む。

 同時に放った鍵言に、大気の魔力が震えて足元から巻き起こる海水の渦。ばっちい親分を巻き上げて、ぽいっと荷台から落とした。


「っな、お前、魔導士か?!」


 ばっちい親分の声に、行商の護衛と戦っていた子分たちが駆けてきた。それと同時に私は手をサッと振る。


「『水縛』」


 溢れ出る静謐な水流。長い水の縄が親分も子分も纏めて縛り上げた。

 呆気ない。弱いなぁと私は水の縄を手近で大きな木に縛り付ける。



 あ、鍵言ね。

 昨日師匠と話し合って決めたんだ。村の外では水属性の魔法だけを鍵言を用いて使うことって。

 何で水属性オンリーかって言うと、三年の修行で私が見慣れている魔法は師匠の水魔法だけだから。それに加えて、学園の寮は身に宿す属性で分けられるからだ。


 意味を理解した正しすぎる鍵言だから威力が膨れ上がっちゃうので、あまり攻撃魔法は使わないよう言われている。


「おじいさん、大丈夫?」


「お、おお……アイリーンさんや。わしは大丈夫じゃ。それにしても……魔導士か。ならば行き先はシェイドローンじゃな」


「良かった……はい、明日から学園に通うことになっています」


 いやぁ、入学許可書が白鳩の脚に括り付けられて届いた時はテンション爆上がりしたよね。


「そうじゃったか……ふむ……」


「??」


 考え込むおじいさんに私は首を傾げる。なんだ、何か言いたいことがあるなら言ってほしい。気になる。

 しかしパッと顔を上げたおじいさんはにこやかに首を横に振った。


「まあよい。ありがとうな、アイリーンさん」


「え……あぁ、はい。あ、私、護衛の人たちの加勢に行ってきます」


 前方、すごい数だったもんね。




 荷台から飛び降りて先頭まで走っていくと、段々前方が異様に静かなことに気がついた。


 何かあったのかな? 不穏だ……


 少し速度を落として行く。その時、視界に先頭の馬車の姿が入り、その隣に山賊がバタバタ倒れているのが見えた。

 何事だと更に進むと、見慣れない騎兵たちがその先に立ち塞がっていた。その前には行商人たちと護衛の人たちが座り込んでいる。


 ん……?


「ああ、後方も無事でしたか。それは何よりです」


 ん?!


 いきなり掛かった声に、私は目を見開いて騎兵たちの先頭にいる馬上の人物を見上げた。

 彼の鮮やかな海色の瞳を見た時、私は息を止めた。


 ぐはっ……嘘だろマイケル……


 久々に脳内マイケルを召喚するくらいには衝撃だったのである。

 そんな人の心を知りもしないで、馬上の青年は爽やかに微笑んだ。


「お嬢さん、怪我はありませんか?」


 心が不意打ちにより大怪我です!!!


 これが私と二人目の攻略対象の出会いとなった。


心が重症なのでショタを求めて帰郷したい。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 心が重症なのでショタを求めて帰郷したい。 このあとがきの一言がクリティカルヒットです。 読み進めようとしたら、こいつにやられて 頭から離れなくなりました。 渦潮、水縛などの魔法の文言が …
2021/09/07 00:32 退会済み
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