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第19話.ショタコンの門出


 翌日の朝、私は村を通り王都まで行く行商の馬車の前で家族と師匠、そして村の人たちと別れの挨拶を交わしていた。


「お姉ちゃん!! お休みには帰ってくるんだよね?! 必ず帰ってきて!!」


「うんうん。大丈夫。私もリオに長く会えないだけで死にそうになるから、長い休みになったらその日の内に村まで帰ってくるよ」


「アイリーン、無理はしないこと。きちんと三食食べて、毎日早寝すること。いいわね?」


「はい、母さん。早寝は……約束できないかも。どんな勉強するか分からないし……」


「くっ……アイリーン。変な男には、いや、話しかけてくる男すべてに注意するんだ。分かったね?」


「うーん父さん、それは難しいかな」


「わしの言ったことを忘れるでないぞ」


「はい師匠」


 私は荷物が入った大きな鞄をよいしょっと持ち直して馬車に積ませてもらうと村を振り返った。


「行ってきます!!」


「「「行ってらっしゃい!!!」」」


 私は笑みを浮かべて馬車にひらりと飛び乗った。リオを見ると彼の大きな菫色の瞳には早速涙が浮かんでいて、それでも私の出発に影を落としたくないのか頑張って笑みを浮かべていて……もう端的に申し上げて小脇に抱えて連れていきたいくらいに可愛い愛おしい弟だ。


「リオ!!」


「っお姉ちゃん!!」


「修行、頑張ってね!! 応援してる! 必ず戻ってくるから、約束よ!!」


「っやくそく!!!」


 ああ、やっぱり泣いちゃったけど、無理な笑顔じゃなくて元気な泣き笑いに変わったから良しとする。

 馬車は動き出した。意外とゆれる、と思いながら私は皆の姿が見えなくなるまで手を振り続けた。



―――――………



 最愛の姉の姿がついに見えなくなると、リオはようやく振り続けていた手を下ろした。

 その手はゆっくりと服の胸元へ。指が探り出して握りしめたのは金鎖の先に揺れる金紅石入水晶(ルチルクォーツ)だ。


――「これは私の魔力から生まれたんだって。だから、リオが持っていてくれると嬉しいな」――


 昨晩、姉はそう言ってこのネックレスをリオの首にかけてくれた。


――「お守りになると……いいなぁ。少し自信ないや」――


 そう続けて苦笑した姉の花顔。

 儚げな白皙の美貌、その頬に触れて、リオもサラジュードの手を借りて作ったものを差し出した。


――「お姉ちゃん、僕も……」――


 小さな石を割って生まれた、幼い彼の祈りを。



―――――………



 がたごと揺れる馬車の荷台の上で、私は空を仰ぎながら服の胸元から金鎖のネックレスを引っ張り出した。


 私の魔力から掌大の石をパッカーンして生まれたルチルクォーツに、どんな力があるか(無いかも)分からない。

 しかし昨晩、私が慣れない手芸を(魔法の力を借りて)やって作ったネックレスを渡したら、リオは喜んでくれた。

 それから「僕も……」と同じ様にネックレスをくれたのである。


 指先に触れる雫型の菫色の石。その中に確かに息づくリオの魔力が暖かい。


 これから私はショタのいない……癒しの無い場所へ行くんだ……


 愛しの弟の姿が見えなくなってからはっきりとそう感じた。


 私、死なないかな……


 ショタ欠乏症で、倒れたらどうしよ。





「お嬢さん……名前は何て言ったか……」


「アイリーンです」


 ぼんやり空を眺めていたら、同じく荷台にいたおじいさんが声をかけてきた。

 元は茶色だったろう白髪に、まろやかな焦げ茶の瞳をしたおじいさんは、私の答えにふぉふぉふぉと器用に笑うと「そうかね」と言う。


「どこまで行きなさるんだ?」


「ゴーデミルスまでです」


「おぉ、王都まで。わしもなんじゃ」


「そうなんですか」


 この王国で金銭的余裕の無い庶民が行商の馬車に乗せてもらうのはよくあること。この荷台に揺られている人も三分の一くらいはそう言う客だろう。


 それにしても……


 舗装されていない道に、木製の馬車の荷台に直座り。この条件が揃った現状……


 尻が、猛烈に痛い……


 尻へのダメージが深刻だった。


 王都に着くまで保つかな……


 門出を祝福されていない感に包まれて、私は途轍もなく微妙な心持ちになった。


 もうすでにリオが恋しい……


 やはりショタ欠乏症で倒れる心の準備はしておいた方が良さそうだ。


 こうしてガタガタと尻を痛めながら、私は学園のある王都へ向けて確かに進んでいた。


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