第12話.ショタコンと邪神ファン撃退
師匠が出ていってすぐ、遠くから絶え間なく響いていた爆発音は静かになった。
代わりに何やらきたねぇ悲鳴が聞こえてきたので私はそっとリオの耳を両手で覆った。
不思議そうにした後、くすぐったそうに笑うリオに「とおとみがしゅごい」と脳味噌溶かしながら、別のところで私は邪神ファンについて考えていた。
そもそも何故学園に邪神ファンが潜り込んだのか、から考え始める。これの答えは単純で『精霊の愛し子』である私が入学したから、だ。
では何故私の入学が邪神ファンに知られたのか。そして何故邪神ファンは私が『精霊の愛し子』であると知っているのか。
私は学園入学までこの村を出ずに生きてきた。『精霊の愛し子』について知っているのは家族と師匠だけで、彼らが外部に漏らすはずがない。
つまり、誰か他の人間が私の体質を外に漏らしたと言うことになる。
でも誰が?
村の人たちには私が『精霊の愛し子』であるとは伝えていない。学園に選ばれるくらい優秀な魔導士の素質がある、としか思われていないはずだ。
「うーん……」
行き詰まる。だって全然覚えがない。ついでに言えば私の記憶力は乏しいのだ。
私が入学してから邪神ファンが侵入したならまだ分かるんだけどなぁ。それならば私の特殊体質を知る、攻略対象の誰かか学園長が怪しいってことで片付くもの。
けれど邪神ファンが紛れ込んだのは私の入学前。あらかじめ「『精霊の愛し子』が入学する」って知らなきゃ無理な動きだ。
そう言えば、何で邪神ファン本体を突き止められないのに侵入したことは分かるんだろう? 不思議だ。レオンハルトが来たら訊いてみよう。
それにしたって、恐らく男の人って判明したから(誘拐事件により)今年採用した男の人全員の魔力を検査にかければ一発じゃないの?
でも、この私が思いつくんだから学園長が思いついてないはずないよなぁ。きっとやったけど分かんなかったんだろう。
だって結構派手に動き始めたのに未だにバレず学園内で働いてて、闇の精霊という闇特化型チートキャラであるノワールにすら正体を悟られないという隠密行動の達人なんだもんな。
え、それなんて忍者? どこの里の生まれだよ……
めっちゃ影が薄いのか、自分の中の強すぎる闇の力を全力で押し込めて誤魔化せるだけの力量の持ち主なのか。心臓を狙われている私としては弱そうな前者がいいんだけど、多分後者だろうなぁ。つら。
いかんいかん、脱線してた。情報の出所を考えていたのについ邪神ファン本体について考えちゃってたわ。
……いや、いくら考えても行き詰まるから脱線したんだろう。私は溜め息を吐いてリオの頭に頬を寄せた。癒しが欲しい。
「はぁ……」
「どうしたのお姉ちゃん」
「うん……」
上手く言葉にまとまらなかったので曖昧に答えてリオの頭に頬擦りする。
ふわさらの金髪から花のにおいがするので、もしや私の弟は花の妖精じゃあるめぇかと考えてしまうほどに頭が疲れた。
もともと考え込むのに向いていない頭の構造をしているんだもの。
構造……こうぞう……
考えるのが苦手な私と真逆で、思索を巡らせて、面白おかしなことをする奴……前世の親友が飼い犬に「弘蔵」って名付けていたのを急に思い出した。
うるうるお目々の可愛いチワワだったんだけどな……渋い。彼女のセンスは変な方へ尖っていたっけ。
元気かなぁ、あいつ。
いかんいかん、また脱線した。
「リオのことは、私が守るからねぇ……」
「僕も、お姉ちゃんを守るよ!」
ぬん……尊い。
私はそこで自分の表情が固まっていたのに気づいて微笑むと、リオとぎゅむぎゅむ抱き合いながら、そっと目を閉じた。
―――――………
一時間後くらいだと思う。
無傷の師匠が一人で帰ってきた。
「もう外に出ても大丈夫じゃよ」
「無事ですか」
「ふふん、口ほどにもない奴等じゃったわい」
あー良かった。いや、状況はあまり良かないけどさ。取り敢えず第一波ははね除けたということで。
多分、いや十中八九様子見だろうな。魁ですらない隠密部隊(隠れるとは言っていない)で、私がここにいることを確認しようとしたんだと思う。
襲われたら反撃しないわけにはいかないものね。でも師匠と推定ノワールがいたから私の存在は確認しきれていない、と思いたい。
今日は大事をとって、森に一人きりになったりする修行はやめようと言うことで、私にとっては苦痛の座学となった。
けれどリオが魔法理論の本を広げて目を輝かせているだけで「かわいい」って癒しになるから座学も悪くない、かな。
リオは実技でも座学でも楽しんで学ぶ良い子である。好奇心旺盛、何でも吸収する脳に見合った知識欲もあるので、将来はそれはそれは優秀な魔導士になるだろう。
「アイリーン、ここでの魔力効率は何倍になる」
「かわいい、とおとい……」
「話を聞かんか馬鹿」
ゴンッと木製の杖が私の頭に振り下ろされた。痛い。あ、そう言えば授業中だっけね、リオの可愛さに脳味噌が溶けてましたすみません。
「気持ちは分かるがな」
「でしょう」
「それで、答えは」
「え゛」
杖再来。リオにはやらないのに、私にばっかり遠慮のない師匠である。なんでだ。




