第11話.ショタコンの駄々
すーーーんパンの笑撃から立ち直った私は、時折思い出し笑いしつつも真面目に話ができるまでには復活した。
師匠はごほんと咳払いして話を続けてくれる。
「魔力効率じゃよ。属性への変換が必要ない分、お主は他人より魔法行使における魔力の消費量が少ない」
「へぇ」
「そして元々の魔力の量もかなりのものじゃ……まったく、恐ろしいの」
私は師匠が「恐ろしい」と言った意味をぼんやりと考えた。
自分が「やべぇ存在」であることを認識しようと、何かにあてはめられないか考えて何故か『爆弾魔』が出てきた。本当に何故、どうして。
まあ出てきたもんは仕方ない。そのまま当てはめに使おう。
私は爆弾魔であると仮定する。
そして他にも沢山の爆弾魔がいる中で、私は特殊な爆弾魔である。
なんと、他の爆弾魔より低コストで高威力の爆弾を作る天賦の才があるのだ。
うん、やべぇ!!
私は溜め息を吐いた。
ファンタジー世界あるあるが思い浮かんでくる。王国の最強の人間兵器として戦争利用とか、闇堕ちして魔王になるとか。
それは、いやだなぁ……
ショタコンの人間兵器とか、ショタコンの魔王とか、最悪では?
私は自由に生きたい。
「咄嗟にお主の名を呼ばなくて良かったと思うが……この小さな村では名前など、すぐに知られてしまうだろうがな……」
「うーん……」
私の容姿はめっちゃ目立つしね。
銀髪に琥珀色の目の美少女だぁれ、って聞かれたらもう逃げられないよね! 村の人たち親切だしさ!!
「幸い、お主は自身の力を上手く使えそうじゃ。まさかあの土壇場で使うとは、そら恐ろしい才よ」
「えへへ、それほどでも」
「じゃが、油断はならんぞ」
「えいっす」
褒められてデレデレ返事したら、ビシッと油断するなと言われてしまった。私は下唇をべっと出して適当に答える。
師匠は大きく息を吐いて、腕を組んだ。
「アイリーン。お主、言葉を放つ度に大きく息を吸って、明瞭に発音しておるな?」
「はい! まだ慣れないので……」
そう答えると、師匠は頷く。
「三日以内に、言葉を放たずとも意思と簡単な仕草で魔法を発動できるようにする」
「三日……」
私は呆然と繰り返した。その内容、できた場合すごくチートな気がする。それを、三日で完成させろと?
「いちいち言葉を放っていては、いざというとき弱い。不意打ちでも防御できるようにせねばならん」
「あ、う……確かに、そうですね……」
明らかにキツい修行を想像してしょぼくれた私に、師匠は「そこでじゃ」と大人しく座っているリオの方を向いた。
「リオ、お主の協力が必要じゃ」
「ぼく?」
いきなりそう言われたリオは、こてんと可愛らしく首を傾げたのであった。
―――――………
「無理無理無理無理っ!!!」
「安心せい。死にゃあせん」
「駄目駄目駄目駄目、リオのぷるぷるお肌に、少しだろうと傷が付くなんて!!」
「安心せい。そこまでじゃあないわい」
「無理ぃぃぃっ!!」
「おねえちゃん、ぼくへいきだよ? おねえちゃんのためになるなら……」
「あふぅぅ、可愛いぃぃぃっ!! それでも駄目だけどねぇぇぇっ!!!」
はい皆さん、アイリーンだよ。
現在私はリオと師匠の間に立って恥も外聞もなく大騒ぎしているよ!
うん、やっぱり恥ずかしいな!
…………駄目だ、現実逃避している場合じゃない。“皆さん”て誰よ。イマジナリーフレンドかよ。
まず状況を整理しよう。
こてんと首を傾げたリオと、その様子を眺めてデレデレする私を連れて、師匠は家の前の広場に出た。
芝が生え揃い、柔らかな日差しの注ぐ庭の様なところである(森と隣接しているから庭とは言いづらく、私はそこを広場と言うのだ)。
そこで先を歩いていた師匠はくるりと振り返った。
「今からわしがリオへ向けて魔法を放つ。それを防いでみよ」
「はっ?!」
そして冒頭に繋がると言うわけ。
「いやだいやだ、私がしくじったらリオが怪我するなんて駄目だ! 非人道的だ!」
「だからしくじらなければ良いのじゃ」
「無理ぃぃぃっ、私のこと何だと思ってるんですかぁぁ?! 十三歳の村娘ですけどぉっ?! そんなの無理ぃぃぃっ!!」
「じゃが、お主の力ならば……」
「いやだぁぁぁぁぁっ!!」
私は首を全力で横に振り続けた。
確かにショタコン、ブラコンの私が言葉を放たず――つまり無詠唱の魔法を習得するためには、この方法は多分一番手っ取り早い。
リオの身に危険が、と思えば死に物狂いでできるような気もするし。
それでも!!
一発本番とか、成功率が低すぎる。まずは自分で実験しなきゃ。
「まずは私に魔法を放ってくださいよぉぉぉ。他の人を守る前に、自分を守る方法を身に付けた方が早いでしょぉぉぉっ?!」
「ううむ……じゃが、これが一番早い」
「でもぉぉぉっ!!」
私はリオを抱きしめて泣きながら騒ぐ。腕の中でリオは困惑している。ごめんね、恥ずかしいお姉ちゃんで。
師匠はほとほと困り果てたという様子でもしゃもしゃの髭を触り、そしていきなり杖をこちらに向けた。
「『水球』よ!!」
ぶわりと宙に満ちる水属性の魔力が師匠の言葉と魔力を受けて清らかな水になって球体になり、こちらへ発射された。
私は目を見開いてそれを見た。
リオが驚いたように師匠を見ているのが分かる。
全てがスローに見えて、それから……
――――私はバッと開いた右手を飛来する水球に向けていた。




