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乙女ゲームのヒロインに転生したらしいが、すまん私はショタコンだ~なお、弟が可愛すぎてブラコンも併発したようです~  作者: ふとんねこ
第4章.創立祭編

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第39話.ショタコン誘拐事件


 何だか頭が猛烈に痛い気がする。


 ……ん? 私は創立祭のパーティーで美味しいものを貪っていたはずでは?


「っあ! デニッシュ忘れてた!!」


 私はそう叫んで飛び起きた。そしてすぐに体勢を崩して固い木の床に額をガツンッとぶつける。痛すぎる、起きて早々これはないだろう。

 しかも両手をつけないとは、衰えたな私も、と思ってから両腕が背中で縛られていることに気づいた。


「えっ、ちょ、どういうこと?!」


 美味しいものは?! 創立祭は?! 私のデリシャスたちは?!


 何とか身を起こして辺りを見渡すと、ここが何らかの建物の中の一室であろうことが分かった。良く磨かれた木の床、木の扉に白い壁。調度品はほとんどない、くそ寂しい部屋である。

 唯一の椅子も正直に申し上げるとしみったれななりで、もしやお父さんの日曜大工の作か、と言った具合。飾り気ゼロ、庶民感に満ちている。

 ここは庶民の家だろうか。それにしては部屋が広いんだけど……


「目が覚めた?」


「うおっ?!」


 きょろきょろしつつ、腕を縛る縄から抜けようともぞもぞしていたら突然扉が開いた。現れたのは淡いピンクのドレスを着た少女。

 わぉ、リボンとフリル多めでメルヘンチックだ。て言うかあれじゃん、ジェラルディーンにボコボコに(精神を)された伯爵令嬢だ。

 えーと、名前はなんだっけ……ええと、確か――――


「サ、サ、サ……ええと……」


「サラサッタよっ!!」


「ああっ、そうそれ!!」


 いやー、ここんとこ学園で全然見かけなかったから(休んでると思ってた)忘れていた。怒りながらも教えてくれる、なかなかに親切じゃあないか。

 フンッ、と鼻を鳴らしたサラサッタは件の『お父さんの日曜大工の作』に腰かけて腕を組んだ。


「どこまでも苛立たせてくれる人ね……まあいいわ、どうせ貴方の命は今夜限りなんだから!」


 えっ、それ初耳。


「ポカンとしちゃって。そう言う顔もむかつくのよ」


 そう言ってサラサッタは座ったばかりの椅子から立ち上がり、私の目の前までやって来て堂々たる仁王立ちを披露した。


「今夜貴方の心臓は抉り出される。貴方は死ぬのよ!!」


「しん、ぞう」


 そ、それってもしかしなくても邪神ファン降臨じゃん!! うそうそ、サラサッタも邪神ファンだったの?!


 ……まさか。


「貴方だったの? 学園内の、邪神ファ……信徒から、力を分けられたのって」


 ちょっと前、ノワールが言っていた奴じゃない?! 図書館で遭遇した闇の獣を作り出した、闇を“分けられた奴”。確か本体は別にいるとかそんなこと言っていた気がするんだけど。

 私がそう言うとサラサッタは真顔になって私をじっと見つめた後、堪えきれないと言うように笑い始めた。


「あはははっ、今更気づいてどうするのかしらぁ?! その通りよ! そして私はその力を育てた!! 貴方に復讐するためにね!!」


「復讐って……」


「お黙りっ!!」


 バシッ、と左の頬を叩かれた。理不尽にもほどがある。じりじりと痛む頬に、私はぎゅっと目を閉じた。


 魔力が体内に無理矢理留められて気持ちが悪いこの感覚は前にも経験した。腕を縛る縄は間違いなく魔力縛りの縄だろう。こんな状況で、更に言えば動きにくいドレスで、どうやって脱出しようか。

 パーティーの記憶が、エドワードと踊った後美味しい飲み物を飲みまくり始めた後からすっぽり抜けているので、ここへ連れてこられた経緯が分からない。

 外部からの救出は当分期待できない。自分で逃げなきゃ死が待っている。あーっほんと、私何してたんだ?!


「ここで貴方の心に絶望を満たすわ。それから森へ連れていく。祭壇の上で、生きたまま心臓を抉り出されるのを、最期まで見ていてあげるわ」


 私の耳に唇ががっつり触れるくらいの距離で囁いたサラサッタ。そのくすぐったさに、色々考え込んでいた私は思った。


 そう言えば、お花摘みに行きたいぞ……


 いや、こんな命のかかったヤバのヤバな状況で思うことじゃないけどさ、生理現象だから仕方なくない? 飲み物飲みまくりのツケが来ているわけだ。これはますます早期の脱出が求められる。


 私は目を開けてサラサッタを見上げた。

 ……思いの(ほか)近かったので少し顎を引いてから彼女の黒く濁った目を正面から見つめる。


「……何よ」


「……私は、諦めない」


 絶対に自力でパーティー会場に戻ってデニッシュを含むデリシャスを制覇するんだからな。


「その余裕もいつまでもつかしら?」


 そう言ってサラサッタはニヤリとほの暗く嗤った。それから手の中で魔力をこね始める。黒々とした土の塊を見ながら、私をノワールと一緒に図書館に閉じ込めたのはこの子なんだなぁ、と漠然と納得した。


「何から始めようかしら?」


 ねっちょり感のある闇の力で練り上げられた土塊は次第に鋭い石片に姿を変えていく。どういう原理か知らないけれど痛そうな尖り具合だ。


「たっぷり絶望させてあげるわ」


 何されるんだろう。痛いのは嫌だな。


 ナイフの如く尖った石片に舌を這わせたサラサッタを見上げて、私は眉根を寄せると両腕に体内の魔力を集め始めた。



―――――………



 アイリーンが邪神の闇を纏った者たちにつれていかれた。移動していく気配に耳を澄ませながらノワールは溜め息を吐いて影から出る。


(まったく、役に立たない人間たちだ)


 彼女をつれた二人の気配は王都内に留まっている。儀式の前に何をするつもりか知らないが、随分と大きく深く闇を育てているので今呑んでしまうのは少し惜しい。


(どうしたものか)


 気に入らないが、役立たずたちに花を持たせてやろうとノワールは決めた。彼なりの判断基準があって行動しているのだろうが、アイリーンが聞いたら「おいっ、何だそれ!!」と怒りそうな話である。


(……む?)


 気配を探って、普段からアイリーンの気を引こうとしていることが見え見えな人間たち五人の気配が集まっていることに気づく。それから、友人が二人。


(カスカータの兄妹がいるな。はぁ、下手に手を出すと水のが煩いんだが……)


 青い髪の知人を思い出して軽い頭痛を感じたノワールは頭をふるふると振った。仕方がないから彼らには声をかけるだけにしよう。


 建物や木の影に紛れてそちらへ近づいていくと、人間たちもアイリーンの気配が学園から一気に離れたことに気づいているらしいことが分かった。


「まさか邪神の信徒か……」


「その可能性はありますね」


 深刻な顔で話し合っている。すでに邪神信徒のことが出ているので、彼らもそこまで無能ではなかったのだな、とノワールはこっそり頷いた。


 その時、栗色の髪を華麗に結い上げ、深い青色のドレスを身に纏った少女がふと俯いていた顔を上げた。暗がりで鮮烈に輝いている様にも見える青風信子石(ブルージルコン)の双眸が、ふっとノワールの隠れている影に向けられる。


「……こそこそと隠れていないで、出ていらっしゃったらどうでしょう」


「誰かいるのか?!」


「ラタフィア、少し下がってください」


 少女――ラタフィアの言葉に、人間たちに動揺が走る。その中で落ち着いて妹を下がらせる兄。そちらもやはり、かなりの純粋な水属性の持ち主だった。


(まったく、これだから嫌なんだ)


 ノワールは溜め息を吐いた。


「やれやれ、ばれてしまっては仕方がないな」


 そう言いながらノワールは影から姿を現す。濡れた様に艶めく黒紫水晶(ブラックアメジスト)の髪が風も無いのにさやりと揺れた。そして黄金色の瞳が真っ直ぐに青風信子石(ブルージルコン)の瞳を射抜く。


「あらあら、いつぞやの――」


「その先は言ってくれるなよ。アイリーンとは和解済みだからな」


 おっとり微笑みながら爆弾を投下しようとしたので、ノワールは内心大慌てで少しばかり早口になりながら彼女の言葉を制した。

 妖しく微笑む余裕の表情は崩れないがゴクリと(つば)を飲む。


「俺の愛し子がどこへ連れ去られたか知りたいか?」


「っ、まさかお前か?!」


 途端にバチバチッと金色の雷を(はじ)けさせた王太子に、ノワールは溜め息を吐いて首を横に振って見せる。


「できることなら俺もしたいさ。だが、アイリーンは物凄く抵抗するんでな……そういう方法はやめたと言うわけだ」


「ならば……誰がやったと言うのだ」


「奴らに決まっているだろう。さっき自分で言っていたくせに、君、馬鹿なのか」


「っ、貴様!!」


「殿下」


 激昂した王太子を、紅色のドレスを纏った金髪の美女が制した。燃え盛る炎の如し紅玉髄(カーネリアン)の瞳には鋭い理性の色。ノワールは「ははん、王太子は婚約者の尻に敷かれているわけか」と思った。


「……貴方、アイリーンの居場所を知っているのね?」


「ああ、知っているとも。愛し子の気配はどこへ行っても分かるものさ」


「そう。けれど、何らかの事情があって自分では助けに行けないのね」


「…………」


 ノワールは薄く笑んだまま彼女を観察する様に目を細めた。なるほど、アイリーンが時折「ジェラルディーンつよい……」と呻いていたがそれは彼女のことだろうと推察する。


「わたくしたちはアイリーンを助けなければならない。貴方が行けないのならばわたくしたちが動くしかないということ。居場所を教えてもらえないかしら?」


「……まったく、仕方がないな」


 呟いて、ノワールはガシガシと髪を掻き混ぜた。


「アイリーンは王都内に留まっている。建物の名前は分からんからな、これに案内させよう」


 握り締めた左手を開く。そこからふわりと舞い上がった闇色の蝶は、淡く紫の鱗粉を散らしながら、ひらりと飛び始めた。


「これを追え」


 そう言ってノワールは闇の中へ身を翻した。駆けていく人間たちの気配を感じながら、影の中に身を沈める。


(あとは見守るだけだ)


 元々精霊は人間に深く干渉してはいけない。だからこそ、稀に生まれる愛し子は確実に欲しいと思うのだ。『精霊の愛し子』は精霊が唯一関係を深めることを許される人間なのである。


 太古の昔は彼らを人と精霊のあわいの生き物と呼んだ。邪神を封じるためにその数をかなり減らした精霊のために世界が生み出した存在であると。

 かなり人間に傾いているとは言え、元々は完全に別の生き物だったのだ。


(まあ、全然生まれなくなって、ただの人間に執着するやつが増えたがな……)


 水のカスカータ然り、失われた火のカローレ然り。


(そう考えると、精霊(俺たち)も随分と減ったものだ……)


 ノワールは今日何度目か分からない溜め息をこぼして目を閉じた。


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― 新着の感想 ―
[一言] こ、これはもしや、、、! 久々のシリアスモードでしょうか! アイリーンの本気モードくるんでしょうか。 それとも王子たちが、、? ああぁぁぁすっっっっごいわくわくするぅぅぅぅ!! 読みにくい…
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