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90 白月浜歴史資料館

 すみれは胡麻博士と組まされることに不満を感じたが、上手い具合に途中で抜け出して、祐介さんと合流すればいいんだ、と前向きに思った。今、すみれはいつも以上にアグレッシブになっていたので、班分けに失敗したからといって、祐介と二人きりになるチャンスを諦めるつもりはなかったのだ。

 三組は、捜査するエリアをそれぞれ分担することになった。根来拾三と羽黒未空のAグループは参道の店舗を、胡麻博士とすみれのBグループは浄念寺と資料館を、羽黒祐介ひとりのCグループは白月浜神社を担当し、聞きこむことになった。聞きこむ内容は、梶原常彦と国吉平治というふたりの被害者を見かけなかったかということと当日不審な人物がいなかったかということの二点だった。


「問題となるのは、被害者のふたりが事件当日、ここで接触したのではないかということです」

 と羽黒祐介は、四人の顔を見まわしながら言った。

「もし、この二人が接触していたのであれば、一見、無関係とも思える二つの殺人事件に関連がある可能性が出てきます。つまり、それこそがミッシングリンクなわけです」

 胡麻博士は、ふんふん言いながら話を聞いているが、本当にこの状況を分かっているのか、すみれは疑ってしまう。


 ここで一旦、解散することになり、すみれと胡麻博士は、白月浜神社の隣にある「白月浜歴史資料館」と記された看板がかかった建物に入っていった。歴史的な景観を意識したのか、モダンな黒塗りの建築には、土蔵造りのような直角の屋根がついていた。中に入ると、広い吹き抜けの空間があり、やはり黒を基調とした内装になっていた。

 受付の女性に、胡麻博士は、ふふふっと微笑みかけた。

「あの、なんでしょうか」

 受付の女性は、胡麻博士を不審者だと思ったのか、眉をひそめて、上半身を後ろに引いている。

「天正院大学の胡麻です。学芸員の笠間さんはいらっしゃいますかな」

 その言葉に、女性はあっと驚いて、急に丁寧になり、お辞儀をすると、慌てて事務室へと走った。すみれは何が起きたのか、よく分からなかった。すぐにスーツ姿の頭頂部の禿げあがった中年男性が飛び出してきた。

「胡麻先生、お早いご到着で!」

「わたしはね、時間にとらわれたくないから、大概、約束とは違う時間に訪問することにしているのですよ」

 と、とんでもないことを言い出す妖怪博士。


「それは斬新な発想ですね。わたくし、笠間忠行と申します。当館で学芸員を務めさせていただいております。わたくし、実を申しますと、胡麻先生のご著書はすべて拝読しております。今回、ご本人にお会いできるということで、昨晩はもう興奮のあまり、一睡もできませんでした」

 と笠間という学芸員は、目の前の白髪交じりの鬚に顔を覆われているアロハシャツ姿の奇妙な男に対し、最大の敬意を払っている。すみれは胡麻博士が、そんな立派な人物だとは到底、思えないので、この状況に対し、違和感を拭いされなかった。


「それは結構。わたしはここにいますぞ。本日はよろしくお願いします」

 胡麻博士は、それで当然だと言わんばかりの態度なので、すみれはわずかに腹が立った。

 笠間は、嬉しそうに微笑むと、くるりと展示室の方に振り返りつつ、

「それでは、まず当館の常設室をご案内いたしましょう」

 と言った。

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