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89 すみれの信心

 五人は、白月浜神社の鳥居に向かって歩いて行った。門前の店先には、白い饅頭が蒸されている。もくもくと白い湯気が木箱から溢れ出し、横から風に吹かれて、宙で薄まってゆく。

 参道の観光客に女性が多いのは、どんな理由があるかはわからないが、社寺めぐりの一般的な傾向なのだろう。

 以前、すみれが喫茶店でくつろいでいた時に、日本人には信仰心があるか、という話題で、完全に意見が対立してしまっているカップルがたまたま隣にいたことがある。女の子は、神社やお寺に毎年、初詣をし、正月やお盆を過ごす、日本人の無意識には信仰心を秘めている、と力説していたが、男の子の方は、そんなことはない、ただイベントだからやってるだけだ、と否定していた。二人の運命がどうなったかはよく分からない。


 すみれは、信仰心の差が、胡麻博士のように、霊感の有無から生じる差だとは考えたことがないが、古来、日本人にとって、宗教者とは巫女であり、儀式は女性が執り行うものだった。

 何にせよ、神仏を信じる信じないかは個人の自由であるから、たとえ恋人が無神論者であっても、これは霊感の有無の差なのだ、わたしの方が感じやすいのだろう、と割り切るしかないだろう。

 その点、すみれは、信心深いところがある。白月浜神社で、祐介との縁結びをお祈りすることを昨日から楽しみにしていたのだ。


 いずれにしても、鳥居に近づくにつれ、すみれはただならぬ神聖な空気を感じ始めていた。地を踏み固め、天を支えているような、巨大な鳥居を前にして、すみれは気持ちが高揚してきていた。

 祐介は、参道の途中で立ち止まり、こんなことを提案した。

「五人で一緒に捜査するのも、あまり効率的とは言えませんから、三チームに分かれて、手分けしましょうか」

 すみれはチャンスだと思った。もし祐介さんと二人きりになることができれば、より親密になることができると思った。

「いい案だが、どうやって三チームに分けるのだね」

 と胡麻博士が言った。胡麻博士は、誰と一緒になるのでも構わないといった様子であった。

「わたし、メモ帳持ってるよ」

 と未空が言った。そのメモ帳は、ビーグル犬のキャラクターが描かれていて、ページを切り離すことができる作りになっていたのた。早速、そのうち五枚にA、B、Cの三文字を記入して、未空は、トランプのババ抜きのように広げて持った。四人がそれを順番に引いてゆく。


(なんで、大の大人が集まって、こんな王様ゲームみたいな……)

 と、すみれは意味が分からなくなりながらも、内心焦りながら、引いたページには、Bという文字が書かれていた。

「えっ、誰、Bチームの人、誰?」

 とすみれは、興奮のあまり、大きな声で叫んでしまった。


「俺はAだけど……」

 父親の根来拾三が言う。すみれは、よかった、と思った。続いて、未空が、

「わたしもA」

 と言いながら、切り離されたページをひらひらと扇がせた。

 だとしたら、祐介さんと一緒ってこと、とすみれは期待に胸が膨らみ、またしても例のマジカルステップとやらをしそうになり、今にも倒れそうな気持ちになった。ところが、

「僕は、Cです。だからつまり……」

 と祐介が言って、ずっと黙っていた胡麻博士がさも愉快そうに、破かれたページの一枚をこちらに向けた。そこには、Bという文字がはっきりと記されていた。

「わたしがBですな。すみれさん、よろしくお願いしますぞ」

 と胡麻博士は言った。

(いや、なんで胡麻博士なんだよ!)

 とすみれは、胡麻博士を思い切り、蹴りたくなった。

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